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2012年 ITエンジニア転職市場動向/変わるSI構造の中で「価値あるプログラマ」として生きる――SIerから独立した倉貫義人氏/SI企業のビジネス構造に疑問を抱き、独立した倉貫義人氏。倉貫氏が描くビジネスモデルと、「これから求められる、価値あるプログラマ」とはどんな人材なのか。マイナビエージェントのキャリアコンサルタントとの対談。

ソニックガーデン
代表取締役社長

倉貫義人氏
ソニックガーデンの創業者。アジャイルソフトウェア開発とリーンスタートアップを実践。クラウドを活用したワークスタイルの変革を目指す。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。

2011年にソニックガーデンを立ち上げた倉貫義人さんは、もともとTISで働いていたプログラマである。そんな倉貫さんが独立を考えたきっかけとなった、「SI企業におけるビジネス構造の問題」とは? そして、同氏が考える「一生プログラマとして活躍できる」人に求められるものとは? マイナビグループの人材紹介会社 マイナビエージェントのキャリアコンサルタント 折尾大介さんを交えて、これからのIT業界、そしてエンジニアのキャリアをテーマに語ってもらった。

SI企業の構造問題「プログラマがどんなに頑張っても報われない」

――倉貫さんが独立したきっかけとなった「SI企業の仕組みに対する疑問」とは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。

倉貫:「プログラマがどれだけ頑張ってもプロジェクトは良くならない」。これがきっかけでしたね。技術ではなく、プロジェクトマネージャの腕次第で決まってしまうんです。

折尾:良いプロジェクトマネージャだと収まるけれど、そうでないと炎上してしまう、ということでしょうか。

倉貫:そうですね。SI企業の場合、「良いプロジェクトマネージャの条件」は「お客さんからお金をたくさん取ってこられる」ことです。多く見積もりをして、安く外注することで利益を上げる。こうしたビジネス構造では、プログラマが頑張る場所がありません。私は入社前から自分でプログラムを書いていたので、この構造に、歯がゆさがありました。どうにかして、プログラマ側でプロジェクトを改善できないかと、いろいろなことを試してみました。アジャイルを勉強したり、社内SNSを立ち上げて「社内転職」をしてみたり。でも、あまりうまくいきませんでした。

――倉貫さんは、講演などで「ディフェンシブな開発」という言葉を使っています。それが、「SI企業のビジネスモデル」の構造的な問題だということでしょうか。

マイナビエージェント
キャリアコンサルタント

折尾大介氏
自身もエンジニアの経験あり。製薬や自動車、大学、ネット証券などの基幹業務システムや、 自社Webサイト(LAMP環境)の企画・開発・運用を経験。

【IT業界の中で特に強い分野・職種】
・コンサルティングファーム、SIer
・Webサービス系エンジニア
・汎用系/オープン系/Web系SE
・ITコンサルタント

倉貫:そうですね。ディフェンシブな開発とは、「開発途上のリスクを計画の段階でなるべくつぶし、開発側に発生する利益分を減らさないような開発の進め方」です。一括請負の場合、まずは期限という約束事が発生し、約束をすべて要件定義した後に開発が始まります。そうすると後で「この機能が欲しい」「この機能はいらない」となっても、そうそう簡単には変えられません。最終的にお客さんが本当に欲しかったものと違うシステムができそうになっても、「約束」の方を優先してしまう。

折尾:私がエンジニアをしていた時もそうでした。お客さんが自ら欲しいシステムの全容を具体的に分かっているわけではないのに、最初から仕様をがちがちに決めてしまい、一度決めたら後で変更しにくい。

倉貫:とはいえ、それでビジネスが回っているのなら、ビジネスとしてはありなのだと思います。でも私個人としては、ディフェンシブな開発をやりたくありませんでした。

折尾:2009年のリーマンショックは、やはりその意味では大きな変化を与えたのではないでしょうか。各企業がシステムに掛けるお金は、下落し続けています。

倉貫:そうですね。完成責任で一括請負するビジネスは、お金がある時はそれなりにうまく回るんです。ですが、お金がない時にはうまくいかない。

折尾:キャリア相談に来るSIエンジニアの方には、実際にSIビジネスの今後に不安を持っている方も多くいます。実際お話をうかがってみると、「単価が下がっているので赤字でも請け負う」「安く請け負って外注せざるを得ない」「単価がどんどん下がっている」といった声が多いですね。

「一括請負ではなくスモールスタート」へ、ユーザーのニーズ変化

――倉貫さんはソニックガーデンで、「納品しない開発」というスタイルを掲げています。これは、受託開発が抱える問題点を解決するものなのでしょうか。

倉貫:ソニックガーデンで提供するのは「システム」ではなく、「サービス」です。「システムを完成して終わり」という発想はありません。そもそも要件が決まっているシステムの依頼は来ず、「新しいビジネスや新機能を、スモールスタートで始めたい」というお客さんが多いですね。

「Point of Sales」から「Point of Use」へ

Point of SalesとPoint of Useの違い

折尾:新規ビジネスの案件が多いということでしょうか。

倉貫:ほとんどがそうです。お客さん側でも「こういうものを作りたい!」というイメージが固まっていないことが多いですね。要件や仕様が変更することなど日常茶飯事です。手作業をシステムで行うといった「効率化」については、どの企業もほぼ終わっています。だから、これから企業がIT投資したいのは「新規ビジネス」分野だと思います。

折尾:なるほど、そういうニーズは実際に増えていますか。

倉貫:確実に増えているし、これからも増えると思います。そもそも、お客さんとなる企業自体が「エンドユーザーに付加価値を提供しなければ、この先生きていけない」という問題意識を抱えています。新しいサービスをITで提供する必要がある。しかし、本業とは違うことをするので、はっきりとした将来像が決まっているわけではない。いろいろ軌道修正しつつ、スモールスタートで始めたい――そうした案件を私たちは受注しています。

ユーザーニーズの変化。エンジニアに求められるスキルや考え方は変わるか?

――実際、「新しいサービスをITで提供する」ニーズに応えるために、倉貫さんはクラウドベースの受託開発というビジネスモデルを立ち上げたのですよね。そうなってくると、開発体制が重要になってくるかと思います。ソニックガーデンでは、どのような開発体制で実現しているのでしょうか。また、ユーザーニーズが変化している中、倉貫さんが考える「これから求められる技術者」像を教えていただけますか。

倉貫:まず、ソニックガーデンは、提供するサービスを「クラウド上で動くソフトウェア」に限定しています。サーバなどは一切持っていません。このスタイルなら、「スモールスタートしたい、でもいずれもうけられるようになったらスケールアウトしたい」という要求に応えられます。

さらに、価格を下げるため、不必要な経費を徹底的に省きました。うちの会社にはプログラマしかいません。営業担当者はいらないからです。お客さんとの会議も行いません。交通費と移動時間、会議での無駄話、こういったものはすべて「不要なコスト」です。ソフトウェア開発そのものを、ITによって効率化したいんです。いらないコストを省けば、その分、値段を下げられる。合理的ですよね。

折尾:めちゃくちゃ効率的ですね! また、お客さんとのやりとりはWeb上で行い、客先まで出向かないとうかがいましたが。

倉貫:そうですね。お客さんとのやりとりは、すべてPivotal TrackerやSkypeなどを利用します。「こういう機能が欲しい」という要求には、プロトタイプを作って見せています。なので、うちには設計書や要件定義書といった書類も一切ありません。

折尾:え、それはすごい! 引き継ぎが発生しないんですか。1人で1案件担当するわけですね。プログラマに求められるスキルも、幅広くなるのでは?

倉貫:はい。私が「プログラマ」と呼ぶのは、要件定義から開発、データベース設計、運用フェイズまでこなせる人です。もちろん、お客さんと話せる能力も必要です。

おっしゃるとおり、うちではすべて1人のプログラマが「顧問」として就き、お客さんとの打ち合わせ段階から開発、運用まで全フェイズを担当してもらいますから。全部1人で見れば、膨大な引継ぎ資料や手戻りといった手間も省けます。

折尾:なるほど。かなりハードルが高いですね。そういった人材が、確かに今後はもっと求められていくと思いますが、当てはまる人は少なそうですね。

倉貫:そうですね。しかし、もともとプログラマとは、ものすごく価値のある仕事だと思うんです。言われたとおりに作るだけの人は「なんちゃってプログラマ」です。そういう人たちは、中国やインドのプログラマの台頭により、どんどん淘汰されていくでしょう。

折尾:逆に、全工程を担当できるプログラマは淘汰されないと。

倉貫:ひととおり作るだけの技術があり、しかも日本語でコミュニケーションができる――そんなプログラマはオフショアでは代用できないと思うので、重宝されるでしょう。それこそ、「これから求められる技術者」は、そうあるべきだと思っています。

折尾:確かにソニックガーデンのビジネスモデルであれば、余計なコストを省き、お客さんは純粋に「プログラマの技術」に対して対価を払ってもらうことができますね。

倉貫:そういう体制を目指しました。プログラマの技術はもっと適切な対価を払われるべきだと思うんです。だからこそ、技術以外にかかるコストは徹底的に省き、「プログラマの技術とクラウドサービスの運用コスト」に対して、定額をいただくビジネスモデルにしています。

「お客さんと直接やりとり」でプログラマのモチベーションは上がる

――そういったビジネスモデルでは、プログラマがお客さんの声を直接聞けるんですよね。エンジニアにとってはとても良い環境だと思います。

折尾:よく分かります。転職の相談に来るエンジニアは皆、何かしらの不満を抱えていますが、やはり多いのは「自分が作っているのは何かの一部品でしかなく、誰のために何を作っているのか分からない」「自分のプログラムへのフィードバックがない」というものです。だから皆、自社サービスを持つWeb企業へと流れているのが現状です。

倉貫:プログラマにとっては「お客さんの声を直接聞ける」ということが一番の喜びだと思います。直接話せるし、直接喜んでもらえる。逆に間違えたら怒られますが、それも含めて、コミュニケーションはエンジニアのモチベーションにつながります。

折尾:SI企業が行う受託開発を、クラウドを使ってやる、というこのスタイルが広がれば、エンジニアのキャリアはもっと広がりそうですね。

倉貫:そうですね。このモデルはぜひとも広げたいと思っています。市場は確実にあるし、この開発体制でいけばエンジニアは間違いなく、いきいきと仕事ができますよ。うちは小さいままでいいですが、このビジネスモデル自体はどんどん広げたい。だから、私はやり方を全部ブログなどでオープンにしています。まねしてくれる人が増えないと、業界構造を変えるまでには至らないですから。

「求められる技術者」になり、プログラマを一生の仕事にするには

やはりプログラマは「スキルがあってこそ」――では、今「プログラミングが好きで、これからもプログラマとして活躍したいけれど、今の仕事環境ではシステムの一部にしか関われない」という人には、どのような道が考えられるでしょうか。

倉貫:道はさまざまあると思います。もちろん、転職も1つの手でしょう。私自身、何回も転職を考えましたが、まずは社内でできることをしようと思い、アジャイル開発や社内ベンチャー立ち上げなどにチャレンジしてきました。

勉強会などに行っていろいろな人に出会い、アウトプットするのも1つの方法です。「今の仕事ではプログラムが書けない」と嘆かず、家でプログラムを書いてみればいいのではないでしょうか。

折尾:プログラマとしてずっと生きていくためにはアウトプットが非常に重要、ということでしょうか。

倉貫:私は重視していますね。ソニックガーデンは、「プログラマを一生の仕事にする」をビジョンの1つに掲げています。うちで働きたいという人には、まず「あなたの作品――プログラムを見せてください」とお願いしています。それは、社内の仕事で書いたコードではなく、自分1人で書いたプログラムです。あとは、ブログやソーシャルメディアでどういった発信をしているか。そういったものを見た上で、何度もお話しし、採用を決定します。

折尾:倉貫さんのお話を聞いていると、やはりプログラマは「スキルがあってこそ」という印象を強く受けます。そして、求められるスキルの幅や深さが変わっていることも。

倉貫:本当にプログラミングが好きで、価値のあるプログラムを提供できるプログラマは、もっとお金をもらっていいと思うんです。うちのやり方だと、優秀なプログラマは案件を5つほど担当できますが、ルーキーは実力的に1社しか担当できません。すると、当然、優秀なプログラマの方が給料は高くなります。

折尾:「もっとプログラマとして活躍したい」という技術者にとっては、倉貫さんが実践している「クラウドを使った受託開発」モデルは、とても魅力的だと思います。逆に求められるスキルは高くなりますが、プログラマは日々のトレーニングあってこそだとも思います。

倉貫:そうですね。まずは自分なりの方法で、スキルを磨けばいいのではないでしょうか。トレーニングに割く時間すら取れないような企業にいるなら、転職して環境を変えるのも手だと思います。

折尾:SIに勤めている方から「クラウドが普及したら、自分の仕事がなくなってしまう」という声を聞きますが、倉貫さんのお話を聞いていると、チャンスは別の形で生まれてきているのだと感じることができました。

倉貫:技術の高いプログラマが、きちんと評価されて対価を得られる――いずれは、日本のIT業界全体がこういう構造になってほしいですね。

※企画・制作:@IT自分戦略研究所編集部
※JOB@ITの記事(2012年1月31日)に再編集を加えて掲載しています。

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2012年 ITエンジニア転職市場動向 第2回について
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