この企画は、Web業界で名を馳せる伊藤直也氏と注目企業のCTOが、寿司を摘まみつつホンネで語り合う、かつて無かったインタビュー企画である。
元・超ワガママエンジニアのクックパッドCTOと語る、「CTOって何する人だ?」論 【前編】 #naoya_sushi
Twitterでハッシュタグ「#naoya_sushi」が生まれてしまうほど、無類の寿司好きとして知られる伊藤直也氏(@naoya_ito)。そんな伊藤氏をホスト役とし、トップエンジニアをゲストに招いて、寿司をつまみつつホンネで語ってもらおうという、この企画。
記念すべき第一回のゲストは、伊藤氏とは『はてな』時代からの長い付き合いになるという、『クックパッド』の執行役最高技術責任者(CTO)舘野祐一氏(@hotchpotch)。秋も深まったある日の宵の口、広尾の寿司屋で繰り広げられる「CTO論」に乞うご期待!
▲今日はこちらの豪勢なネタをたっぷりと味わい尽くします。
記念すべき第1回目の「#naoya_sushi」、堂々グランド・オープン!
— 伊藤直也(以下「naoya」):一応、我々二人の関係を知らない読者もいると思うんで、馴れ初めから振り返ってみたいんだけど。ちなみに舘野さんは id:secondlife というはてなID を使ってたから “セコンさん” と呼ばれてます。で、セコンさんとはもともと『はてな』時代の上司と部下で、俺があの会社でCTOやっていた頃に、セコンさんが同じチームで働いていて。『はてな』に入る前は…
— 舘野祐一(以下「secondlife」):PHPがメインの受託開発会社にいました。
— naoya:俺が『はてな』に入ったのが2004年で、セコンさんは確か2006年頃だったかな?
— secondlife:15人目のメンバーだったね。
— naoya:俺で7人目だもんね。2人とも『はてな』の本社がまだ東京にあった頃の、その東京の初期メンバーと言って差し支えないかな。
— secondlife:僕が『はてな』に入ったきっかけは、『パターン・オブ・エンタープライズ・アプリケーション・アーキテクチャ』の読書会でnaoyaさんと会って、ちょっと相談いいすか?という感じで僕が声を掛けたんだよね。
— naoya:お互いWeb上で知っていたくらいで直接の面識はなかったんだけど、会ってみたら2人で飯食いに行きたいって言われて。で「はてなに入りたいです」と。じゃあ検討しようかということで。
— secondlife:「受託開発じゃなくて、ユーザー向けのサービスを創りたい」と思い始めて、色んな勉強会に参加するようになって。で、たまたま『はてな』のnaoyaさんと一緒になったんで、コンタクトを取ったっていう感じ。その頃の『はてな』って、突拍子もないことをやっていて面白いし、すごいエンジニアもいるから、こんな環境で働いてみたいなって。
— naoya:お互い2010年の夏頃に辞めてるから、俺が6年、セコンさんが5年弱くらい、『はてな』にいた勘定か。で、当時は俺がマネジメントをしてたんだけど、当時のセコンさんといえば、全然言うこと聞かなくてふざけんな!って感じだったのにねw なのに今は『クックパッド』のCTOで、マネジメントやってるっていう・・・
▲一品目に登場したのは、旬のいくらの茶碗蒸し仕立て。話そっちのけで舌鼓を打つ二人。
今明かされる、セコン氏の超絶ワガママ時代
— secondlife:当時『はてなブックマーク』のリードエンジニアみたいな肩書きで、サーバサイドをメインに、UIとか拡張機能とかを実装するみたいなことをやってた時に、naoyaさんから「これからiPhoneが来るからiOSアプリつくってみない?」って言われて。でも、当時はiOSに興味がなかったから、「嫌です」って即答したw
— naoya:「Androidだったらイイですよ」とか言われちゃって。でも、当時はまだAndroidなんか iPhone ですらまだまだという時期だったので。先にiPhoneでやってよ、って。そうしたら「嫌です」とかw
— secondlife:面白かったのは、嫌ですって言ったら、naoyaさんも「そっかー、嫌だったら仕方ないね」みたいな感じだったこと。
— naoya:他にもセコンさんにマネジメントやってみる?って投げてみたら、「絶対に嫌です。意味わかりません」って返ってきたこともあったな。
— secondlife:「なんでコードを書く以外の仕事をやらなくちゃいけないんだ」ってw
— naoya:だから、当時の俺からしたら、セコンさんが『クックパッド』でCTOやるなんて、まったく想像つかないわけですよ。
▲岩塩で出来た皿に盛り付けられたサワラの刺身が登場。絶妙の塩加減に酒が進みます。
マネジメントの重要性を体感した『はてな』時代
naoya
そうは言っても、セコンさんは『はてな』時代にマネジメントの重要性ってのを感じたんだと思うけどね。『はてな』という会社も、最初の頃はマネジメントが全然できてなかったんだけど、事業も大きくなり人が増えてくると、やっぱりうまくいかなくなるわけで。それでマネジメントをちゃんとやんないとねって話になって、俺とかが試行錯誤しながらやってたのを、そばでずっと見てたでしょ。
普通は、最初からマネージャーがいるところに入社することが多いから、マネージャーがいない組織というのはどういうもので、それがマネジメントされることでどう変化するのか、そこを見てたわけだから。
— secondlife:そうだね。何もなかったところにマネジメントをプラスしていくのを横で見れたっていうのは、今思い返すと良い経験になったかな。
— naoya:でも、その過程を見ていながら「マネジメントがやりたい」とは決して言わなかったw そういうタイプだったので、セコンさんはもう、ずっとコードを書いて、モノづくりの最前線に居続けるのが希望なのかなと思ってた。
— secondlife:2009年の夏くらいに『はてなブックマーク』のチームをnaoyaさんから譲り受けてチームリーダーになったけど、今思うとマネジメントという観点では全然できてなかった。マネージャーといっても8割くらいはコード書いてた気がするね。
— naoya:俺の記憶だと、辞めるって言い出した時に「なんで?」って訊いたら、「やっぱりマネジメントじゃなくって、現場でもっとコード書きたいから」って言ってた気がするんですけど・・・
— secondlife:そうだねw
▲新鮮そのもののズワイガニは刺身と甲羅酒で味わいます。
フロントエンドからバックエンドへのシフトは飽き性だったから!?
— secondlife:実際、『クックパッド』に入って2年間くらいは、バックエンドのエンジニアをやってた。その頃やった仕事でいうと、テンプレートエンジンを切り替えたりとか、Ruby on Railsのバージョンアップとか。Rails を使い続けるには最新バージョンに上げ続けなきゃいけないんだけど、大きい規模のサイトを、どれだけユーザーに影響を与えず、どうやったらうまく裏側の仕組みをがらっとアップデートできるかってのを考えたり。あとはログ基盤。当時データが肥大化して、ログ集計が遅かったのを別の基盤に入れ替えたりとか。開発速度を高めたり、エンジニアがより開発をしやすい環境をつくる、というような仕事をメインにやってたね。
— naoya:『はてな』時代はUIとかフロント周りが多かったけど、『クックパッド』でバックエンドの仕事に取り組むようになったっていうのは、どんな理由があったわけ?
secondlife
そもそも継続的に使われるサービスって、つくるのがすごく難しくって。例えば『クックパッド』も成功するまでに10年以上かかってる。本当にユーザーのことを考えながら徹底的にやり続けないと、良いものって生まれないでしょ。
僕、割と飽き性なんで、一つの物事に3ヶ月くらいしか熱を入れられないしw そうすると、やっぱり一つのサービスだけを突き詰めていくより、良いものをつくり続ける人たちを支える側に立った方がいいんじゃないかと感じたのはあったかな。
naoya
3ヶ月で飽きるっていうのは本当に酷いよねw 『はてな』時代も、しょっちゅう「あれやりたい、これやりたい」って言って。俺は基本、やりたいっていう人がそれをやるのが一番いいって考えだから任せるようにしてたけど、セコンさんはすぐ飽きちゃうから困ってた。だから、それをメンテナンスする人をいつも探してたもん。
セコンさんは、新しい技術が使いたいとなると、それを理由に新しい機能をつくりたいって言い出して、良いものつくるんだけど、周りの人が全然知らない新しい技術を使って、3ヶ月で飽きちゃうから、結果的に誰も知らないものが残っちゃうのが問題だったw
— secondlife:短期で終わる仕事だといいんだよね。たとえば『はてな』が Subversionから Git に移行するのは僕が主に行ったんだけど、そういう短いスパンでがーっとやって終わりとかなら。
— naoya:それならいいんだけど。ほら、MochiKit(*関数指向を取り入れたJavaScriptライブラリ)のときも・・・w
— secondlife:MochiKitが局所的に流行った頃、「これおもしろいから入れましょうよ」って、はてなダイアリーとかに入れて、ほんの一部の機能にだけ適用して、そのまま飽きて放置とか。今考えると、ライブラリを会社に導入するって、既存のライブラリよりこんなメリットがあって、社内に啓蒙してちゃんとその技術を伝えていくっていうのとセットで導入するわけでしょ。当時とかはそんなことまったく考えずに自分が使いたいから導入して、しかも即飽きるから、「このMochiKitって入れたの誰?」みたいになってたね・・・w
— naoya:CTOの重要な仕事の一つとして、会社の技術の標準化というか、似たようなものが乱立しないようにコントロールするというのは重要なわけだけど、セコンさんが入れては飽きて、入れては飽きてだから、非常に大変だったw
— secondlife:当時はノーマネジメントだったような気がするけどw
— naoya:確かにMochiKitの頃はそうだったねw
— secondlife:でも、今のnaoya さんだったら、「いやいやお前さぁ、入れるって言ってるけど、そういうのちゃんと考えてる?」みたいに諭すわけじゃん。
— naoya:葛藤はあるよ。若い人が新しいことをやりたいって言ってるのに、それをなんのかんの理由つけて諭すっていうのは当たり前っぽすぎるじゃない?みんなのこと考えたら、そんな新しいもの入れるのなんて正しくないって言うのはさ。なんか、あまりにも常識的な発言過ぎて、自分で言うのが嫌になってくる。なんで俺がこんな保守的なこと言わなきゃいけないんだって。だから、なるべくとっちらかしたのを片付けるっていう役割に徹してたの。でも、大変だったなぁ。
▲熟成させたカツオを生姜醤油で。セコンさんはこれが大変お気に召した模様。
もっと書きたい!と転職したはずが、技術部長に昇進!?
— naoya:だから、セコンさんが『クックパッド』に行ってしばらくしたら技術部長とか名乗り始めて、ウケるなぁってw
— secondlife:入って2年くらいで技術部長になったんだよね。そもそも『クックパッド』に入社した理由はいくつもあるけど、一つはコードが書けるっていうのが大きかった。当時の『クックパッド』では、RailsができてJavaScriptが書けるエンジニアが必要とされていたので、その技術領域をやりたかった僕としてはちょうどよかった。この環境だったら、まだまだこの会社は成長するし、コードもどんどん書いて貢献できそうだなと。
— naoya:ただ、当時のクックパッドって今ほどテックカンパニーじゃなかったよね。
— secondlife:当時社長だった佐野さんは、テクノロジーカンパニーだって言い切っていて、「ユーザーのために技術をどれだけ徹底的に使えるか、うちはそれを徹底的にやる会社だ」と。実際、入社前に『クックパッド』のエンジニアたちと話をする機会があったんだけど、彼らは「こういう風にユーザーに役立てられるから、この技術を使うんだ」っていう話を最初にするんですよ。
— naoya:うんうん。
— secondlife:たとえばテストの話だったら、普通だったら開発効率を上げるとか、バグを減らすとか、そういう意味でのテストっていう話になるんだけど、『クックパッド』の場合は、ユーザーにとってこんなメリットがあるからテストを書き始めたんだ、という話になる。最初に来る主題が、技術じゃなくてユーザーだったんだよね。これまでとは全然文化が違う会社だったので、すごく面白そうだなと思ったのも、『クックパッド』に行った理由の一つかな。
▲naoyaさんは焼酎をロックでクイクイと。
— naoya:今の『クックパッド』って、Rubyエンジニアにとっての梁山泊みたいなもので、優秀なRubyエンジニアだったら、真っ先に入りたい会社に挙がるけど、そうは言っても、当時はエンジニアが働きやすい会社というようなイメージはなかったと思う。
— secondlife:確かに、コードがきれいとか、設計がよろしいって意味で出来る人がたくさんいるっていう環境では全然なかったね。
naoya
ただ、当時はRailsで大規模なサイトをつくっている会社はそんなに多くなかったんで、現実的にセコンさんくらいの腕がある人が行く会社というと『クックパッド』くらいかなあとは思ってた。だから、転職したこと自体はそんなに不思議じゃなかった。
でも、そこから3~4年くらいの間にね、ものすごい勢いで『クックパッド』が技術者にとっての憧れの会社になっていったけど、俺が見てる感じだと、セコンさんがそういうイメージを先導したように見えていたわけ。それって、対外的なイメージのコントロールっていう意味でのマネジメントなんだけど、「あれっ、セコンさん、こんな才能あったけか?」ってw それが結構びっくりしたんだよね。今日、一番訊きたかったのはそこで、3~4年の間に何をしたのかっていうこと。すごく興味深いんだよね。
— secondlife:最初のうちは、技術的にもっとよくできるところをよくしたりとか、ボトルネックになってるところを改修したりとか、いわゆる普通のエンジニアとしてできることをやってたよ。その過程で、人が徐々に増えていった。僕が入ったときはエンジニアが10人もいないくらいだったんだけど。
— naoya:それしかいなかったんだ。今、70人くらいでしょ?採用戦略とかを考えたのもセコンさん?
secondlife
いや、採用戦略を考えたのは、僕の前に技術部長をやっていた方で。「今、足りないのは優秀な人材だから」とすごく採用に力を入れてた。僕はそのかたわらで、好きにコードを書いてただけ。でも、やっぱり人が増えてくると、自分一人がどうこうするより、組織全体をもっと良い方向に変えていかないといけないなっていう感覚はあったね。
— naoya:そうなんだ?
— secondlife:会社の成長っていうか、もっと自分が働きやすい環境をつくるためには、みんなが成長しないとダメ。そういう意味でも、テクノロジー的にすごい人が生まれてくる組織にするにはどうしたらいいんだろう、とか考えてた。それが2012年頃だったけど、そのタイミングでたまたま社長が交代したんだよね。
— naoya:でもさ、交代する頃には部長になってたよね?
— secondlife:なってない、なってない。社長交代のタイミングと一緒。その時、会社の中で部署間の異動の話があって、それで声がかかった。もし、この時、そういう方針転換がなかったら、いまだにマネージャーにならない道を歩んでたんじゃないかな。
— naoya:そうだったんだ。それにしても、よく引き受けたよね。
— secondlife:もっとよくするには、全体を変えていかなくちゃという思いがあったから。あと、30歳になって、上場企業の部長っていうのを一回経験しておくのも悪くないかなとw
— naoya:www
▲そろそろ大間のマグロが登場します。
次回予告
「コードを書く以外の仕事はしたくない!」という超ワガママエンジニアだった『はてな』時代から一転、『クックパッド』では技術部長として新たなキャリアを歩み始めたセコンさん。彼がその道の先に見出したものとは――。
今回は、肝心の「CTOって何する人だ論」までたどり着けませんでしたが、そちらの話は【後編】でたっぷりとご紹介します。乞うご期待!
⇒【後編】の記事はこちら
インタビュアー紹介
伊藤直也
ニフティ、はてな取締役CTO、グリー統括部長を経て2013年9月よりKaizen Platform, Inc. 技術顧問。ブログやソーシャルブックマークなど10年間、ソーシャルメディアの開発と運営に携わる。著書に『入門Chef Solo』(達人出版会)『サーバ/インフラを支える技術』『大規模サービス技術入門』『Chef実践入門』 (技術評論社) など多数。
取材協力
鮨心(すししん)
〒106-0047 東京都港区南麻布4-12-4 プラチナコート広尾 1F
TEL:03-3280-3454