第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.29女優/歌手 福田沙紀
下積み時代が今を支えている
Heroes File Vol.29
掲載日:2010/6/25
「全日本国民的美少女コンテスト」で演技部門賞を受賞したのが14歳の時。ドラマ「3年B組金八先生」に初出演以後、数多くのテレビ番組、映画などで活躍する福田沙紀さん。今年は自ら作詞した曲を入れたセカンドアルバムを発表。8月には座長を務める舞台も控える。歌手として、表現者として、さらなる高みを目指している彼女の魅力に迫ってみた。
Profile
ふくだ・さき 1990年熊本県生まれ。2004年「全日本国民的美少女コンテスト」演技部門賞を受賞しデビュー。今年3月、シングルCD「Spr*ing for you」とセカンドアルバム「VOICE」を同時リリース。8月11日から明治座で上演される「つばき、時跳び」に主演、初の単独座長を務める。
絶対夢はかなうと信じて疑わなかった
「毎日が勝負。リラックスしている暇なんてないです」
そう言い、大輪の花のような笑顔を見せた。大きな瞳に意志の強さを感じる。
福田沙紀さんのデビューは2004年。女優の米倉涼子さんや上戸彩さんらを輩出した「全日本国民的美少女コンテスト」で演技部門賞を受賞したのがきっかけだ。すぐにドラマ「3年B組金八先生」への出演が決まり、その後数々のドラマや映画で活躍。今年8月には明治座で「つばき、時跳び」に主演し、座長も務める。
本番前はどんなに緊張していても、いざ舞台に上がってしまえば全然平気だという。
「大舞台に立てるせっかくのチャンスに、本来の自分の力を出せないまま本番が終わってしまうなんて、あまりにももったいないし、お客さんにも失礼。たとえ何か失敗したとしても、やって後悔した方がいいと思うから、とにかくベストを尽くします」
肝が据わっているのは、小さな頃から舞台に立っていたから。歌うことが大好きで「必ず歌手になる」と信じていた福田さんは、7歳からダンススクールへ通い始め、同時に芝居や歌のレッスンも受けていた。
「実は下積みが長いんです。毎週末スクールに通って、夏休みもほとんど発表会のけいこ。しかも先生が本当に厳しくてレッスンは心底つらかった。でも、あの時の自分があるからこそ今がある。芸能界へ入ってすぐドラマ出演が決まった時、変に動揺せずにがんばれたのも下積みのお陰だと思います」
母の教えが自分の心を強くした
14歳でこの世界へ入った時から決めていることがある。それは「満足しないこと」。その時最善を尽くしたことでも、あとで振り返ってみると「今ならもう少しうまくできたかも」と思えることがある。それこそがまさに成長した証拠。
「でもそこで満足したくない。ほんの少しでも日々変化していく自分でありたい」
負けず嫌いで、自分を甘やかすことができないストイックな性格。それはおそらく母親の影響だと語る。
「学校でいじめを受けた時がありました。それを母に話したら慰めてくれるどころか、反対に『あなたに悪いところはなかったのか』と。ふだんもほとんど褒めてくれない。でもその厳しさがあったから、忍耐強くタフになれたんだと思います」
そんな福田さんでも、さすがに心が折れそうになったことがあるのだという。ドラマ「ライフ」への出演の時だ。くしくもいじめがテーマの作品だった。
嫌な役を受け入れ女優として開眼
ドラマ「ライフ」で福田さんが演じたのは、同級生をいじめ抜く女子高生、愛海。あまりにも強烈ないじめが多く、最初は作品も自身の役も受け入れることができなかった。しかも放送が始まると「いじめないで」「愛海なんて大嫌い」とブログに書かれた。
「完全に嫌われ役です(笑)。でも撮影が進むにつれ、愛海の繊細さや、いじめをする理由が見えてきた。で、ふと彼女の味方は私しかいないんだと気づき、彼女をちゃんと受けとめようと思いました。泉ピン子さんにも『中途半端はダメだ』と言われ、完全にふっきれ、役に入り込みました」
福田沙紀自身が嫌われてもいい。その覚悟で演じた。心理学の本を読みあさり、愛海がなぜそういう人物になったのかも勉強した。すると自分の演技次第で作品が大きく変わった。驚くことに、見てくれている人の感想も変化した。
「それまでは何でも勉強、勉強という感じで仕事に臨んでいたのですが、この作品で初めてお芝居の楽しさを知った。女優として、プロとしてどんな姿勢で仕事に取り組むべきかを学べた気がします。いつかまたこんな激しい役に挑戦したいです」
歌手としての夢も少しずつ形に
今年3月、セカンドアルバムを発売した。自分の声でいろんな思いやメッセージを届けたいと考え、タイトルは「VOICE」に。収録曲のうち3曲は自ら詞を書いた。いずれも等身大の彼女がみずみずしく表現されている。
もともと女優より歌手になりたかった福田さん。歌手へのあこがれが強すぎて、前作では自己主張できなかったという反省があった。
「歌わせてもらえるだけで十分、自分のCDが出るだけで幸せと思ってしまって。もちろん謙虚さも必要なのですが、それだけではプロとして足りていない。音楽もお芝居同様に、作り手が何を伝えたいかちゃんと考えないといい作品にならないんです。今回は100%ではないけれど、自分のやりたいことを形にできたのでうれしいです」
デビュー当初は「若いから」と何でも許されるのが嫌だった。社会人として見られたくて、大人っぽい黒い服を身にまとい、肩に力を入れていた。
「高校卒業と同時に、その鎧(よろい)が取れて少し力が抜けた。そして今年は20歳。いい意味でさらに余裕ができ、いい仕事ができそう。これからがすごく楽しみなんです」
とはいえ、あくまで「自分に厳しく」が福田さんの信条。妥協しない姿勢があれば、必ず一歩前進できるからと。彼女のプロ根性、強さがまぶしい。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
洋服が大好きで、デザインにも興味があるのでファッション関係だと思います。もしくは保育士さんかな。
人生に影響を与えた本は何ですか?
心理学の本です。役者というのは、人間を深く突きつめていく仕事だから、人間の意識・無意識の部分を知りたいと思い、何冊も読みました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
毎日、常に勝負している感じなので、特にありませんね。逆に「ここぞ」という気構えで勝負する時がない気がします。
Infomation
最近の活動情報
~明治座8月公演「つばき、時跳び」、セカンドアルバム「VOICE」~
「つばき、時跳び」は江戸末期の武家の娘と現代のSF作家が幕末と現代をタイムマシンで行き来するSF時代劇。「私の出身地である熊本の地元ネタもある作品なのでワクワクしています」(福田さん)。
歌手としては2010年3月3日にリリースしたセカンドアルバム「VOICE」が好評発売中。金曜ナイトドラマ「メイド刑事」(テレビ朝日系)挿入歌「明日への光」の他、最新シングル「Spr*ing for you」、自身が作詞を手がけたアルバムタイトル「VOICE」を収録。
「つばき、時跳び」
原作/梶尾真治
脚本・演出/成井豊(劇団キャラメルボックス)
公演期間/2010年8月11日(水)~8月29日(日)
問い合わせ先/明治座TEL 03-3660-3900
セカンドアルバム「VOICE」
定価/¥2,500(通常盤・税込)
発売元/EMIミュージック・ジャパン