第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.66女優 中越典子
流れ流れて見つけた世界
Heroes File Vol.66
掲載日:2012/1/6
NHKの「連続テレビ小説『こころ』」への出演を機にテレビや映画、舞台にて幅広く活躍中の女優・中越典子さん。舞台の仕事への思いや、テレビドラマ撮影時の苦労話、辛かった時に俳優・竹中直人さんからもらったアドバイスまで、人懐っこい笑顔で何でも話してくれた。
Profile
なかごし・のりこ 1979年佐賀県生まれ。モデル、テレビ番組のリポーターを経て、2003年にNHK「連続テレビ小説『こころ』」のヒロインを務める。以降、舞台や映画、ドラマなどに多数出演。1月27日(金)から赤坂ACTシアターにて舞台「金閣寺」に出演する予定(大阪公演は1月19日(木)から)。
自然体に憧れた20代
以前出演した舞台の演出家に「こいつは変態になっていくヤツだ」と言われたことがある。「変態って、その方の最大の褒め言葉なんです。私、普通に見られることが多いだけにめちゃくちゃうれしくて」と、ちゃめっ気のある笑顔で楽しそうに語る中越典子さん。
専門学校時代、友達に背中を押されて現在所属する事務所のオーディションに応募した。女性誌のモデル、情報番組のリポーターなどをしながら、徐々にドラマにも出演するようになっていく。「当時は『流れるままに生きる』をポリシーにしていました。目標を1つに絞るのが怖かったのと、がむしゃらに頑張るより自然体で生きる方がカッコいいと思っていて。自分には運があると妙に強気な部分もあったかな。だから自分の努力より、周りに誘(いざな)ってもらいこの世界へ入った感じなんです」
それでも、ドラマや映画で端役をもらうたびに、演じることに本格的に挑戦したいという思いがどんどん膨らんでいく。
そんな気持ちもあって、NHKの「連続テレビ小説」のヒロインオーディションを受け続けた。4回落ちて5回目、「これでダメだったら諦めよう」と覚悟して臨み、見事ヒロインに抜擢(ばってき)されたのが、ドラマ「こころ」だった。
「こころ」での経験が自身の基盤に
「こころ」の撮影は、粗削りのまま、死に物狂いで日々立ち向かうという感じだった。
「演技力のなさや要求に応えきれていない自分が悔しかった。それでも主役の自分が落ち込んだり悩んだりして、他の役者さんたちに不快な思いをさせるのは嫌だから、努めて明るく振る舞いました。相当気を張っていましたね。そういえば、大きなミスをして、それがトラウマになり、翌日なかなかスタジオへ入れなかったこともありました」。そんな話をしながら、中越さんはあることを思い出した。
「『こころ』の撮影中、気持ちが混乱し、どうしていいのか分からなくなった時、以前共演した俳優の竹中直人さんに相談したんです。そうしたら『俺は好きだから芝居をやっている。技術がどうこうより、まず好きという気持ちがあれば、それでいいんじゃない』と言ってくれたんですよね」
竹中さんらしい熱い言葉に一気に気持ちがほぐれた。その言葉を大事にしたくて、すぐにノートに書き留めた。
「全て含めてあの10カ月の経験が私の基盤になっているのは確か。そして、あれほどの思いをすることってなかなかないんです。もう一度あんな経験がしたいから女優を続けているのかも」と少し悔しそうにほほ笑んだ。
貴重な経験だったニューヨーク公演
2011年、中越典子さんはKAAT神奈川芸術劇場のこけら落とし公演「金閣寺」に出演した。三島由紀夫原作のこの舞台は高く評価され、7月にはニューヨーク公演が実現。中越さんも初の海外舞台を経験した。
「現地の方々の反応がすごく良く、新たな興奮と刺激がありました。三島文学が海外で本当に愛されていることも実感できました。また、演劇というのはどこで誰に観(み)てもらっても同じで、いいものはいいと受け入れてもらえるものなんだと思いました」
そして2012年1月、その凱旋(がいせん)公演が東京と大阪で行われる。
「毒々しくて強烈なんだけど、観終わった後ふつふつとプラスの感情が湧き上がってくるような、ちょっと不思議な力を秘めた舞台。私は登場シーンは少ないものの重要な役なので、前回以上に印象に残るような芝居を心がけたいです」
最近は舞台の仕事が増えている。約1カ月の稽古を通し役を作り上げていく、その作業が好きだという。
「演出家の方のタイプはさまざまです。事細かく演出する方もいれば、何も言わず、にこやかに見ているだけの方も。後者のタイプの場合、『だったら私がいろいろと変えなくちゃ』と変な意地が出て、要求されていないのに毎回違う芝居をして勝手に疲れたり(笑)」
でも、それら全てが勉強になるのが舞台。「ライブ感もたまらない。だから、映像の仕事も好きだけれど、舞台もずっと続けていきたいです」
年を重ねるごとにハングリーさが増す
現在、31歳。20代の頃に比べ体力は落ちたものの、ハングリーさはどんどん増しているという。「なるようになるさ、なんて考えていたかつての自分はもういません(笑)。常に自分の役が作品全体の中でどういうポジションかを考えるし、自分はどんな印象を与えたらいいか、より丁寧に深く考えるようになりました」
心が折れそうになるぐらいしんどいこともある。だが結局は自分が向き合うしかない。
「一緒にやりましょうと言ってくださる方がいる限りこの仕事は続けたいし、続ける限りは自分との闘いから逃げちゃいけないと思っています」
以前、舞台で共演した先輩たちは「50代が一番楽しいわよ」と口をそろえて言っていた。「だとしたら私はまだ30代、守りに入るわけにはいかない。刺激を求めて挑んでいかなくちゃって思っています。と言いつつ、私生活はやや守りに入っているからまずい(笑)」
仕事だけでなくプライベートだって充実させたい。「でもなあ、いつ来るのかな、そんな日が」。30代女性らしい素顔をのぞかせた。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
定職に就かず、さまよっていたかも。高校時代は画家の嫁になりたいと思っていました。絵が売れなくて、ただひたすら情熱だけで生きているような芸術家と結婚し、どろどろとした生活を送る、みたいな感じに憧れていたんです(笑)
人生に影響を与えた本は何ですか?
絵画なのですが、画家フランシス・ベーコンの「頭部Ⅵ」という作品。座っている男性の頭部が飛んでしまっている絵なのですが、高校時代に見て、何とも耐え難い気持ち悪さに妙に心惹かれました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
金魚の水槽を洗うこと。忙しいとなかなか手が付けられず、洗っていないことが自分の運気を落としている感じがして気になってしかたないので、ここぞというとき気合いを入れて洗います。
Infomation
中越典子さん出演の舞台「金閣寺」の日本凱旋公演が決定!
2011年、KAAT神奈川芸術劇場オープニング作品として上演された「金閣寺」。同年夏に「リンカーン・センター・フェスティバル2011」に正式招待されたが、その大絶賛を受けて凱旋公演が決定。吃音から疎外感に悩まされて育った主人公・溝口を演じる森田剛さんら豪華キャストが、若者の苦悩を全身全霊で演じる。
「金閣寺―The Temple of the Golden Pavilion―」
東京公演/2012年1月27日(金)~2月12日(日)
会場/赤坂ACTシアター
原作/三島由紀夫
演出/宮本亜門
出演:森田剛、高岡蒼甫、大東俊介、中越典子、高橋長英、大西多摩恵、花王おさむ他
問い合わせ/サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
公式サイト/http://www.parco-play.com/web/page/information/kinkakuji2012
※1月19日(木)~22日(日)梅田芸術劇場にて大阪公演あり