第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.92俳優 戸次重幸
マルチな経験が役者の筋力に
Heroes File Vol.92
掲載日:2013/2/8
北海道で絶大な人気を誇る演劇ユニット「TEAM NACS」。現在、5人のメンバーそれぞれが全国区で活躍しているが中でも数多くの舞台や映画、ドラマに相次いで出演しにわかに注目を浴びているのが戸次重幸さんだ。
Profile
とつぎ・しげゆき 1973年北海道生まれ。北海道の演劇ユニット「TEAM NACS」に所属。2005年「1リットルの涙」で連続ドラマ初出演。以後、ドラマ、映画でも多数活躍。舞台では脚本・演出も手掛ける。13年3月22日(金)からはパルコ劇場40周年記念公演「趣味の部屋」(脚本:古沢良太、演出:行定勲)に出演予定(地方公演もあり)。
憧れの俳優と共演できる喜び
キリッとした眉。爽やかな容姿だが、その奥から時折ちゃめっ気をのぞかせる。北海道発の演劇ユニット「TEAM NACS」の戸次重幸さん。最近は映画やドラマ、舞台などに数多く出演し、ソロ活動の幅を広げている。
2013年3月から始まる舞台「趣味の部屋」もその一つ。中井貴一さんが企画・主演するサスペンスコメディーで、脚本がドラマ「相棒」「リーガル・ハイ」の古沢良太さん、演出が映画監督の行定勲さんという話題作だ。
「まさに最強の布陣。出させてもらえるだけで光栄です」
全く人見知りしない性格で、どの現場でも、先輩方であっても積極的に話し掛けるそうだ。
「その方が得るものも多いし、そうやって新しく人間関係を築いていく行程が好きなんです。今回は初対面の方ばかりなので一層楽しみです」
イッセー尾形さんの一人芝居で決意
役者になると決めたのは大学浪人時代。小学生の頃から建築士になるのが夢だったが、ある時「あれ、なぜ建築士になりたいんだっけ?」とふと我に返ったのだという。
「よく考えたら、それは親が僕に目指してほしかった職業だったわけです。これは刷り込みだと気づき、じゃあ自分は何がやりたいんだろうと考えていた矢先、偶然観(み)たのがイッセー尾形さんの一人芝居でした。体一つで観客を釘づけにしている姿を見て感動し、これだ! と。一応、大学の工学部へ進学するのですが、その時にはもう役者になると決めていましたね」
大学では迷わず演劇研究会へ入る。そこで大泉洋さん、安田顕さんらと出会い、やがてNACSを結成することになる。NACSは1996年の初公演以降、回を重ねるごとに飛躍的に動員数を伸ばし、北海道の演劇シーンを牽引(けんいん)するほどの存在へと成長していった。2004年には初の東京公演を開催。今やその人気は全国規模となり、公演チケットは7万枚が即日完売するほど。
「大学を出て、NACSの公演活動を続けながら、僕を含め、メンバーは道内でタレント活動も開始。地元のテレビやラジオなどに出演させてもらうようになりました」
当時、事務所から「マルチであれ」と言われたそうだ。
「北海道ではほとんどドラマは作れない。役者で食える土地ではないんです。パーソナリティー、お笑い芸人、歌手、脚本家など何でもできなければやっていけないと。だから本当にバカなことでも何でもやりました」。しかしその経験が、役者としての基礎体力、筋力になっていると戸次さんは確信している。
メンバーとファンのお陰でここまで来た
北海道を拠点にしていた戸次さんが、東京へ本格的に進出したのは32歳の時。連続ドラマへの出演がきっかけだ。
「どんな仕事も10年続けば自分に向いているということだ、と何かに書いてありました。学生時代に芝居を始めてから20年以上が経ち、しかもいまだに楽しめている。続けていられることに幸せを感じています」
ただ、大学卒業後すぐに一人で上京していたら、きっと役者にはなれなかったという。
「TEAM NACSというグループの強みがあったからこそ、今の自分があると思っています」。特にメンバーの中に大泉洋さんという突出した存在がいたことが大きいと分析する。
「あいつは、グループの知名度を上げるためにも、まずは俺が売れるからと先陣を切ってメディアに露出し、事実、全国区で売れてくれた。そのマインドにメンバー各自が刺激され、それぞれの仕事に精力的に取り組み、自身の世界を広げていくことができたわけです」
それと、ずっと応援してくれているファンの存在も、さらに頑張ろうと思う何よりの原動力になっているという。
「家族のように見守ってくれていて、ありがたいことに一緒に年を取る気満々なんです。そういうファンの期待を裏切らないためにも、役者としていい仕事をしたいし、同時に北海道でのタレント活動も今まで以上に大事にしたいと思っています」
80歳まで突っ走りたい
何があってもあまり落ち込まないという。どんなにつらい状況にあっても、いつか時が解決してくれると考えているからだ。
とはいえ、不安や悩みが全くないわけではない。特に芝居の現場では、毎回「何が自分には足りないのか」「この芝居でいいのか」と苦しむ。
「でも、これは役者として絶対に忘れてはいけない感覚。逆に、迷ったり悩んだりしなければいい芝居なんてできないと思う。他の仕事でも同じ。これでいいのかって考えながらも、どこかで結論を出して自分を一歩前進させていく。それが仕事なんじゃないかなと思います」
80歳になったら、この仕事を辞めるかどうか考える。それまではひたすら前へ突き進みたいという戸次さん。「その間にNACSのメンバー皆でもっと売れたいです」
では個人的な目標は?と聞くと「結婚です」ときっぱり。確かに気づけばメンバーの中で唯一の独身者。「子どもの運動会で場所取りをするのが昔からの夢。早くかなえたいです」。少年のような素朴さ、純粋さが持ち味。そこが魅力であり、多くの人との確かなチャンスを引き寄せている。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
大学の工学部を卒業する際、測量士補の資格を取得しているので、たぶん測量士でしょうね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
栗本薫さんの『グイン・サーガ』。高校時代、図書館で見つけて読み始めましたが、まさに運命的な出会いでした。それと、先日読んだ鈴木おさむさんの『芸人交換日記~イエローハーツの物語~』。相方に対する愛に満ちあふれていて久々に号泣しました。僕自身の、NACSメンバーへの愛もさらに高まりました(笑)。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
特にないですね。あまりゲン担ぎとかしないので。
Infomation
戸次重幸さんが出演するサスペンスコメディー
パルコ劇場40周年記念公演「趣味の部屋」
男たちが趣味のために借りた、とある部屋。おのおのの趣味に興じる中、仲間の一人が失踪。それが、新たな事件の幕開けとなり、男たちの楽園は瞬く間に疑いと諍いの修羅場と化してしまう……。名優・中井貴一さんと4人の曲者俳優たちががっつり組んで、サスペンスコメディーに挑戦! しかも脚本は、その構成力と展開の巧みさで高い注目を浴びている古沢良太さん、演出には映像の第一線で活躍しながらも、近年は舞台にも力を入れる行定勲さん。果たしてこのカンパニーがどんな化学反応を引き起こし、どんな舞台を繰り広げるのか?!
日程:2013年3月22日(金)~4月14日(日)
会場:パルコ劇場(渋谷パルコパート1 9F)
脚本:古沢良太
演出:行定勲
出演:中井貴一、戸次重幸、原幹恵、川平慈英、白井晃
問い合わせ:パルコ劇場(TEL 03-3477-5858)
公式サイト:http://www.parco-play.com/web/
福岡公演:4月16日(火)福岡市民会館 大ホール
大阪公演:4月18日(木)~21日(日)森ノ宮ピロティホール
名古屋公演:4月24日(水)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(旧名古屋市民会館 中ホール)
須坂公演:4月26日(金)須坂市文化会館メセナホール・大ホール
札幌公演:4月29日(火)札幌市民ホール