第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.100俳優 小柳 友
悔しさが本気に火をつけた
Heroes File Vol.100
掲載日:2013/6/7
187cmの長身と端整な顔立ちからは想像できないほど愛敬とユーモアに満ちあふれた俳優、小柳友さん。物心ついた時にはもうモデルの仕事をしていたという彼が本気で俳優を志したのは、ある監督の一言がきっかけだった――。
Profile
こやなぎ・ゆう 1988年東京都生まれ。「タイヨウのうた」で2006年スクリーンデビュー。その後テレビ、映画などで幅広く活躍し、12年に「家康と按針」で初舞台を踏む。2013年7月8日(月)から舞台「パルコ劇場40周年記念公演『非常の人 何ぞ非常に ~奇譚 平賀源内と杉田玄白~』」に出演予定。
監督の一言で前向きに役者を目指す
プロフィールに「3歳からモデルとして活動」とある。その話から切り出すと、「それがどうも0歳で既におむつCMのオーディションを受けていたみたい。それに出ていたら芸歴24年と言えたのに、残念(笑)」と明るく楽しげに話す。「中学生の頃は下ネタばっか言ってました」などとおどけたコメントまで。一気に場は和やかな雰囲気に包まれる。
小柳さんがモデルから俳優へ転身したのは16歳、今の所属事務所に移ったのがきっかけだ。当初は周りに言われるまま映画やドラマに出演している感じだったという。
その意識が変わったのが、18歳の時。ある監督の一言がグサリと刺さった。
「この役は絶対に自分がやりたい」と初めて思った作品のオーディション。最終審査まで残ったのに、結局落ちてしまった。「しかも監督から『演技ができていれば、君にしたのに』と。本当に悔しかった。それからです、真剣に芝居を頑張ろうと思ったのは」。レッスンに真面目に通い、オーディションにも真摯(しんし)な気持ちで臨むようになった。そのかいあって仕事は着実に増えていった。
作品と出合うたびに自分が進化していく
そんな小柳さんにとって転機となったのは、19歳の時に出演した映画「トウキョウソナタ」。特に黒沢清監督との出会いが大きかったという。
「監督によってこんなにも違うんだと思うほど、それまでの現場とは違うものを感じました。照明、撮影、録音などのスタッフの方々は、黙々と作業しているんだけど、でも、この現場を愛しているんだということがひしひしと伝わってきたんです。もの作りを楽しむってこういうことなんだと、その現場の雰囲気から学びました」
父親役の香川照之さんからも刺激を受けた。「父子でけんかをするシーンがあったのですが、香川さんは僕が本気で反発したくなるように芝居の流れを持っていってくれた。実際、僕はワナワナと震え、心の底から父親を憎むような気持ちになれた。演じていて鳥肌が立ったのも初めてでした」
この作品で、自分の持っているものを引き出してもらえたこと、演技の面白さを体に染み込ませてもらったことは今も役者として財産になっているという。ちなみに同作で弟役だった井之脇海さんとは、2012年ドラマ「平清盛」で一緒になり、13年になってある撮影現場でも顔を合わせた。「俳優を続けていれば、一緒に仕事をした人とまたどこかで会えるし、共演できる。それが素直にうれしくて。続けるって大切だなとしみじみ思いました」
間もなく始まる舞台もまた、かつての共演が、出演のきっかけとなった。
生の舞台で自分を試したい
2013年夏の舞台「非常の人 何ぞ非常に」(マキノノゾミ作・演出)に出演することになった小柳さん。同作は、江戸時代の天才2人、平賀源内と杉田玄白の友情とその崩壊を描いたオリジナル時代劇だ。チャンスをくれたのは、源内役の佐々木蔵之介さんである。
「蔵之介さんが主演するドラマにゲスト出演させて頂いた際、ちょっと話があるからと神妙な面持ちで声を掛けられたんです。何かやらかした、絶対に叱られると思っていたら、この舞台のお話でした(笑)。『いいものにしたいので協力してほしい』と。期待されているのかなと感じ、何が何でも頑張ろうと思いました」
初舞台は12年の「家康と按針」。ずっと憧れていた舞台出演だったが、実際に出てみると、勝手が分からないということもあり、思っている以上に舞台上で動けていない。そんな自分にがくぜんとした。「だからこそ舞台にもう一度挑戦したかった。今回は後悔しないよう全力を尽くしたいです」
仕事は夢や活力を与えてくれるもの
さまざまな役を演じていくうちに、いろんな考え方があることも学んだ。「役を通して、こういう価値観もあるよって教えてもらい、それがいつしか自分の中に浸透していき、僕という人間の幅を広げてくれている気がします」
現在24歳。いわゆるゆとり教育を受けた一人だ。「叱られるのが極端に苦手な世代。僕も前は叱られるのが嫌でした。でもこの仕事に就いてからは慣れた(笑)。何より人を叱るってすごくエネルギーを使うこと。それを自分のためにしてくれているのに、変わらなかったら申し訳ないと思う。今は、叱ってくださった方にはむしろ感謝します。もちろん理不尽だと思えば反発もしますが」
先日、ある先輩俳優がこんなことを言った。「最近、ゴツゴツした若いヤツが少ない。テストやリハーサルだったら何かやらかしてやろう、叱られたらごめんなさいって謝ればいいんだからって思えばいいのに、みんな監督に従順すぎて面白くない」と。
「謝って許されることに甘えてはいけないけれど、反対に失敗を怖がり過ぎては何も始まらない。そう思うので、僕はこれからも、叱られてもいいから、貪欲(どんよく)に自分なりの役作りを監督にバシバシぶつけていきたいです」
仕事は夢や活力を与えてくれるものという。もちろん嫌なこともあるが、そんな時は友達と飲んで発散し、次を頑張ればいいと思っている。おおらかで素直。真面目な話をしたかと思えば、さりげなく冗談を言い、笑いにつなげていく。不思議な魅力満載。今後の成長が楽しみな俳優だ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
動物に関わる仕事には憧れがあります。犬アレルギーなのに犬が大好きなんです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
僕も出演させて頂いたドラマ「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」の完全シナリオ本。監督でもある福田雄一さんが書かれたものなのですが、セリフ一つひとつに力があり、それだけでキャラクターが浮かび上がってきました。本当に素晴らしい作品だと思い、感動しました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
鼻毛を抜きます(笑)。目が覚めるし、何より気合を入れて臨む場所で鼻毛が出ていると嫌ですし。 あと、オーディションの時には必ず袖の短いジャージを着ていきます。「全然袖が足りてないんですけれど」と言ってややウケするとたいてい受かる(笑)。たぶん、その場が笑いで温まると多少自分のやりやすい雰囲気ができるので、のびのびと演技できるんだと思います。
Infomation
「パルコ劇場40周年記念公演 『非常の人 何ぞ非常に』~奇譚 平賀源内と杉田玄白~」
軽妙洒脱で才気煥発な平賀源内、生真面目な書生肌で堅物の杉田玄白。江戸時代の天才2人に起こった事件を通して、友情とその崩壊、さらには人間の生き様を熱く語りかける時代劇。演出家マキノノゾミによる書き下ろし、オリジナル作品だ。源内を佐々木蔵之介、玄白を岡本健一が演じる。そこへ大工見習いの若い男・佐吉として登場するのが小柳友。「最年少としてフレッシュ感を出したい。たった5人の出演者で、どこまで観客を魅了できるのか。僕自身も楽しみです」(小柳さん)
公演日程(2013年):
7月8日(月)~28日(日)パルコ劇場(東京)
7月31日(水)キャナルシティ劇場(福岡)
8月9日(金)岡山市民会館(岡山)
8月11日(日)石川県こまつ芸術劇場うらら(金沢)
8月14日(水)柏崎市文化会館アルフォーレ(新潟)
8月16日(金)~18日(日)森ノ宮ピロティホール(大阪)
作・演出:マキノノゾミ
出演:佐々木蔵之介、岡本健一、小柳友、奥田達士、篠井英介
問い合わせ先:パルコ劇場(電話03-3477-5858)
公式サイト:http://www.parco-play.com/