第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.110映画監督 山崎 貴
情熱は、人の心に必ず響く
Heroes File Vol.110
掲載日:2013/12/13
昭和の街並みをCGでリアルに表現した「ALWAYS 三丁目の夕日」が大ヒットを記録。以後、次々と話題作を手掛けている映画監督・山崎貴さん。CGを駆使した視覚技術、VFXを世に知らしめた第一人者でもあるがすでに13歳で今の道に進むことを決めていたという。その真意を伺う。
Profile
やまざき・たかし 1964年長野県生まれ。1986年株式会社白組入社。CMや映画でのミニチュア製作を担当後、2000年に「ジュブナイル」で映画監督デビュー。2005年「ALWAYS 三丁目の夕日」で日本アカデミー賞ほか各映画賞を総なめに。「永遠の0」が2013年12月21日(土)から全国ロードショー。人気漫画「寄生獣」の映画化も予定している。
襟を正してリアルを真摯に追求した映画
現代を生きる青年が、特攻隊員として戦争に散った祖父の人生をたどり、真実に迫っていく小説「永遠の0(ゼロ)」。この作品を映画化した山崎さんは、同作を読み終えた時、言葉にできない、さまざまなものが一気に降りかかってくるような、不思議な感動を覚えたそうだ。
「この面白さをぜひ映像で表現したいと思ったのと、特攻には以前から関心があり、映画監督として一度は対峙(たいじ)してみたいという気持ちもありました」
CGを駆使したVFX(視覚効果)の名手として知られる山崎さんだが、「CGっぽさが出てしまうとお客さんも一気に興ざめし、深い心情までたどり着けないと思い、できる限りリアルに描くことを心掛けた」と語る。戦争を題材にしているだけに、先人に失礼があってはいけない。襟を正して真摯(しんし)に取り組んだという。
13歳の時、映画「未知との遭遇」「スター・ウォーズ」を観(み)て感動し、SF映画の作り手になろうと決めた。とはいえどうしたらなれるかは分からず、まずは美術専門学校へ入学。そこで映像制作会社のアルバイト募集の広告を見つけ、「ここだ!」と思って応募し、運良くその会社に就職した。
「当時の僕は本で得た知識だけで熱く語るような、やっかいな若者でした(笑)。でも社長は面白がってくれ、新しく造ったばかりのVFXのスタジオも任せてくれた。とにかく熱意だけはあると認められ、入社できたのだと思います」
伊丹組で学んだ監督としての在り方
最初はCM映像が中心だったが、やがて伊丹十三監督作品「大病人」「静かな生活」などにCGチームとしてかかわるようになった。「伊丹さんはVFXをすごく楽しんでくれ、僕らとも対等に話をしてくれた。伊丹さんによる演出や、監督としての立ち居振る舞いなどをそばで見ることができたことは、今思えばとても貴重な経験でした」
仕事は充実していた。しかし30歳を過ぎたあたりから、「このまま人の作品を手伝うだけで終わりたくない。自分の作品を作りたい」と思うようになった。
そこで、映画の企画書をまとめ、上司に提出。だが、「やってみる価値はありそうだ」と評価されたものの、予算面で折り合わず膠着(こうちゃく)状態に。「そのまま放っておいたら、監督になりかけた時があったねっていう語り草にしかならない。マズイと思っていろいろ調べ、リアリティのある、予算内で実現できるSF映画の企画を出し直したんです」
こうしてVFXを駆使した作品が生まれ、予想通りのヒット。36歳で映画監督としての一歩を踏み出した。
VFXは映画においてすこぶる豪華な額縁
山崎さんを一気にメジャーにしたのは映画「ALWAYS 三丁目の夕日」。下町を舞台にした人情ドラマで、懐かしい昭和の風景をCGでリアルに再現し、大ヒットを記録した。
ところが、話が来た当初はできればやりたくないと思っていたという。「僕は未来と宇宙船を描くSFが撮りたいのに、なぜ昭和なのかと(笑)。でもこの作品のお陰で、CGを駆使したVFX(視覚効果)なら、未来の空想世界だけでなく実際にあった過去も描け、人の心の奥まで揺さぶる力があるんだということを知りました」
また、VFXはもはや主役ではなく、映画を彩る豪華な額縁、脇役なのだとも気がついた。「VFXのもたらす魔法のような効果が大好きだし、僕の映画製作においては欠かせない存在。でも今はVFXがどんなに良くてもお客さんは映画館に来てくれない。今回監督した『永遠の0』でも、零戦や空母がVFXで緻密(ちみつ)に再現されていますが、それよりもお客さんの心に残るのは、主人公の気持ちや家族への思いという人間ドラマの方だと思います。そういうことをちゃんと踏まえて、VFXを上手に活用し、より面白く、魅了する映画を作り続けたいです」
夢を語るだけでは人は動かせない
日本の映画界が誇るヒットメーカーの山崎さん。順風満帆に見えるが、それはひとえにチャンスは必ず訪れると信じ、来た時には逃さなかったからだ。「というか、自分から大声でチャンスを呼びにいっていた気がします」。例えばSF映画の監督がやりたいというのも、映像制作会社に入った当初から周囲にアプローチしていたこと。「同じ能力の人が2人いたら、やりたがっている方に任せてくれるでしょう?」
それに、どんなに夢を語っても、実際に自分がまず行動しなければ人は動いてくれないと思い、やりたいことを実現するための、具体的な方法を提示するようにしていたという。「とんでもない才能があれば別ですが、待っていれば誰かが夢へ導いてくれるなんてありえない。稚拙でもいいので自分で考え、動く。チャンスはそういう人に寄ってくるのだと思います」
現在も制作会社の社員。後輩を育成する立場にあるが、「裸の王様にはなりたくない。誰からも歯に衣(きぬ)着せぬ意見を言ってもらいたい」と思い、できるだけ後輩たちがツッコミを入れやすいような雰囲気作りを心掛けている。「かつて学んだ師のように、僕も後輩に自ら意見を求めにいきます」
凝り固まった人になってしまったら終わり。時代に合わせて変形していきたいと、その生き方を語った。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
学校の先生かな。学校の雰囲気が好きなんです。映画の製作現場も文化祭みたいな感じなので、自分に合っているんでしょうね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
今は「永遠の0」(百田尚樹著)と言っておきます(笑)。幼いころからとにかく本は大好きで、よく読んでいました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
濃いめのコーヒー。気合を入れたい時には必ず飲みます。
Infomation
2013年12月21日(土)全国ロードショー
映画「永遠の0」
進路に迷う26歳の青年・佐伯健太郎は、戦争で亡くなった祖父・宮部久蔵の人生を調べ始めた。祖父は天才的な操縦技術を持つゼロ戦パイロットで、誰よりも生還に固執し続けたにもかかわらず、なぜ特攻出撃したのか――。ベストセラー小説「永遠の0」が山崎貴監督によって映画化され、いよいよ公開される。60年の時を超えて明かされる深い愛を描き出した大作だ。
原作:百田尚樹「永遠の0」(太田出版)
監督・VFX:山崎貴 脚本:山崎貴・林民夫 音楽:佐藤直紀
主題歌:サザンオールスターズ「蛍」
出演:岡田准一、三浦春馬、井上真央、濱田岳、新井浩文、染谷将太、三浦貴大、上田竜也、吹石一恵、田中泯、山本學、風吹ジュン、平幹二朗、橋爪功、夏八木勲ほか