第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.120料理研究家 コウケンテツ
熱意があれば道はつながる
Heroes File Vol.120
掲載日:2014/8/21
旬の素材を生かした簡単でヘルシーなメニューを提案しテレビや雑誌で人気の料理研究家、コウケンテツさん。やわらかな関西弁のせいか気軽に話し掛けられる親しみやすさが魅力だ。いつも周囲を明るく楽しくするそのコウさんの源泉にあるものは何なのだろうか。
Profile
1974年大阪府生まれ。旬の素材を生かした簡単でヘルシーなメニューを提案。著書「子どものまんぷくごはん」「僕が家族に作りたい 毎日の家ごはん」ほか。テレビ朝日系「情報満載ライブショー モーニングバード!」に出演中。イベント「食からの健康づくりシンポジウム」に出演予定(ルネこだいらにて2014年9月10日〈水〉14:00から)。
高校を中退してまで目指したテニスプロ
テレビや雑誌でおなじみの料理研究家、コウケンテツさん。韓国料理をはじめとする幅広い料理を得意としていて、素材を生かしたヘルシーなメニューに定評がある。
料理の原点は家族。大阪で4人兄弟の末っ子として生まれた。韓国から日本に渡り、一から工場を起こした父は「この世の中で食事が一番大事」が口癖で、母の手料理を家族そろって食べるのが当たり前の家庭に育った。
高校時代にテニスを始める。スポーツは何でも得意だったがテニスだけは歯が立たず、負けず嫌いな性格から、「こんな難しいスポーツがあるんだと思った瞬間、テニスで食べていこうと決めました」。
本格的に学びたいと考え、名門テニスクラブの門をたたく。だが入れてもらえたのは小3のクラス。自分のレベルの低さにがくぜんとし、「生活すべてをプロと同じようにしなければ強くなれないと思い、高校を中退することに。もちろん親も親戚も猛反対で、でも絶対頑張るからと説得しました」。
その時、食生活もプロ仕様にしようと思いつき、ジョン・マッケンローなどトップ選手の栄養指導をしていた人の本を参考に毎日自分で弁当を作るようになった。それが後々、現在の職業に生きてくる。「熱意を持って取り組めば、たとえ道半ばで挫折してもどこかで必ず将来へつながっていくんだと今、改めて思います」
夢は破れ、さらにバイトばかりの日々に
テニスに明け暮れるコウさん。だが18歳の時、悲劇が起こる。無理な練習がたたり、椎間板(ついかんばん)ヘルニアになってしまったのだ。「あきらめるしかなかった。それが悔しかったのと、あれだけプロになると公言していた自分が恥ずかしかった」
そして2年間の療養生活を経て、その間を支えてくれた家族への恩返しと、これからの生活の糧を得るため、体が回復した直後から働き始めた。
パン屋、飲食店、本屋、荷物の仕分け、弁当工場、コンビニ、警備員などいろんな仕事を掛け持ちした。「20代は働いた記憶しかない」ほどだという。しかし、変に気持ちを腐らせることはなかった。それは中学時代、英語塾でお世話になった70代の老先生の教えがいつも心にあったからだ。
「人生が順調な時は誰でもいい男でいられる。でも生きていたら必ずどん底に落ちる時がある。その時こそ男の真価が問われるんや、と。断腸の思いでテニスをあきらめ、他にもうまくいかないことがいろいろ重なり精神的にもしんどい時期だったのは確か。でも、今が自分にとってのどん底なんだと冷静に受け止め、対処できたのはその先生のお陰です」
人との会話に仕事のヒントがある
コウさんが20代後半に入った頃、母親の李映林さんが「自分の夢をかなえたい」と料理研究家となった。当時いろいろなアルバイトで生計を立てていたコウさんは、忙しくなった母を手伝うようになり、それをきっかけに料理の道へ。
「転機は雑誌『オレンジページ』の編集者が、ただのアシスタントの僕に料理に関する連載をやらないかと声を掛けてくれたことでした」
思い切って始めてみると今までにない高揚感があった。「相手が何を求めているのかを必死に考え、そこに自分らしさを2割ほど加えてメニューを提案する。しかもそれが雑誌に掲載される。こんなうれしいことはなかった。スポーツ以上に刺激的に思えました」
料理研究家としての実績はない。でも東京で一からやってみたいと31歳で上京。いくつか出版社の編集者に独立のあいさつを兼ねた年賀状を出すと徐々に仕事の問い合わせが来るようになり、とにかく全力で取り組んだ。「男性料理家がまだ少なかったので手探りの状態でしたが、常に感謝の気持ちを忘れず、どんな依頼にも真摯(しんし)に応じようと決めました。使う食材や料理の味、盛りつけまで納得がいくよう、試作は何度も繰り返しました」
コウさんにとって出会いは創造の糧。レシピのヒントは打ち合わせや人との出会いに転がっているという。「だからこそ、人の話はちゃんと聞くよういつも心掛けています」
プライドは持たず謙虚に取り組む
上京して3年目。NHKのテレビ番組でフィリピンを旅したことがある。世界遺産に登録されている棚田で米を作る15人家族の家に泊めてもらった。そこで15歳の長女が作ってくれた素朴な料理が格別においしくて忘れられない。
「料理って素材や技術だけじゃない。食べてくれる人のことを思って作るのが一番大切なんだと気づかされました」
国内外問わずさまざまな場所に食の取材で出向き、改めて自分の料理のルーツは母の味、大阪、そして韓国だと強く意識するようになった。しばらくしていろいろな人に味が変わったねと言われた。「僕なりの料理の芯みたいなものができたんだなと自信を持ちました」
現在もレギュラーの仕事は20本近い。単発で入るものも多く、最近は講演会の出演依頼も増えた。「毎日忙しいとさすがにサボりたくなる日もあります(笑)。でも仕事って、それぐらい正直に付き合っていけばいいんじゃないかな」
つらいならつらいと思う。あくまでも自然体。プライドも持たない。いつまでも自由に、新たな挑戦ができる人でいるために。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
どんな仕事についていたかは分からないですが、でもこれからなら「学生」です。今年40歳となり、人生をリスタートさせたい。そのためにも和食、中華など料理をもっと勉強したいし、大学だったら哲学を学びたい。そうそう、車の免許も取りたいし、歌もうまくなりたいので習いたいです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
小さな頃から読書が大好きでいろいろな本があるのですが、思春期に読んでガツンとやられたのは「マルコムX自伝」です。在日2世ということもあって人種問題には関心があり、歴史も好きだったので手にしたのですが、「自分の信念を貫き通す」とその生きざまがあまりにカッコよく、影響を受けました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
ゲン担ぎなど全くしないし、物への執着もないんです。あえて言えばお酒かな(笑)。お酒がすべてを解決してくれます。
Infomation
<テレビ出演>
テレビ朝日「モーニングバード!」の料理コーナー「プロ技キッチン!」
テレビ朝日系で月〜金曜日の朝8:00から放送している「情報満載ライブショー モーニングバード!」。その中の水曜日の料理コーナー「プロ技キッチン!」に出演中。有名料理人の2世が毎週交代で「わが家に伝わる秘伝のレシピ」を伝授。コウさんの回をお見逃しなく。
http://www.tv-asahi.co.jp/m-bird/
RKB毎日放送「たべごころ」
福岡県のRKB毎日放送で毎週土曜日の17:00から放送。「食文化スタジオ」を舞台に繰り広げる、コウさんと田畑竜介アナウンサーの料理番組。旬の野菜を使った料理だけでなく、同世代2人のトークも見どころの一つ。
http://rkb.jp/tabegocoro/
<イベント>
「食からの健康づくりシンポジウム 〜コウケンテツさんに学ぶ!野菜たっぷり健康食生活〜」
日時:2014年9月10日(水)14:00〜16:30
会場:ルネこだいら 中ホール(小平市民文化会館)
内容:食卓に野菜料理を増やすためのヒントや、おいしく食べるための料理方法についてプロから学ぶ。
・基調講演「野菜たっぷり健康食生活」(講師:コウさん)
・パネルディスカッション「野菜が食べたくなる」を考える(パネリスト:コウさん、野菜生産者の小野久枝さん、国際パティシエ調理専門学校の学生)
主催:東京都多摩小平保健所生活環境安全課保健栄養係(電話042-450-3111〈内線245〉)