第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.136プロレスラー 棚橋弘至
鍛錬が夢を現実にする
Heroes File Vol.136
掲載日:2015/7/16
プロレスの黄金時代をテレビで見て育った世代だ。「プロレスラーになれば、心も体も強くなれる」と思ったと語る棚橋弘至さん。現在は試合に年間130日以上出場しながら自ら広告塔となり、プロレス人口を増やそうと業界に貢献し続けている。
Profile
たなはし・ひろし 1976年岐阜県生まれ。立命館大学卒業後、新日本プロレス入門。2011年1月から約1年間でIWGPヘビー級王座11連続防衛。新刊『1/100 The one‐hundredth』。リーグ戦「G1 CLIMAX 25」が7月後半から全国で19大会開催。ファイナルは東京・両国国技館大会にて8月14日(金)から3日間。
真夏の祭典にすべてを懸ける
迫力のある筋肉。鍛え抜かれた肉体が美しく神々しいプロレスラーの棚橋さん。新日本プロレス最高峰のIWGPヘビー級王座に何度も君臨し、その圧倒的強さを誇る。そして勝つ度に金色の長髪を揺らしてエアギターを弾き、「愛してま~す!」と叫ぶパフォーマンスは多くのファンを魅了する。名実共に新日本プロレスの最強エースだ。
そんな棚橋さんが今、すべてを懸けて挑戦しようとしているのが今年(2015年)25回目となる新日本プロレス最大のイベント「G1 CLIMAX 25」である。7月20日(月・祝)に札幌で開幕し、全国各地で大会を開催。最終決戦は8月14日(金)から3日間、東京・両国国技館で行われる。
「勝ちます。そしてただ勝つだけではなく来場しなかった人たちが悔しがるような面白い試合をします」。人懐っこい笑顔で語る強気の発言も魅力の一つだ。
野球一色だった青春がプロレスに変わったのは高校時代。テレビで試合を見てとりこになった。激しく戦った翌日も平然とリングに立つ、その姿にしびれた。プロレスラーになれば心身共に強くなり、自分に自信が持てるようになると思った。
大学でプロレス同好会に入り、トレーニングを始める。
「肉体改造のため、筋トレして大量に食べてを繰り返しました。その結果、65キロの体重が1年で80キロとなり、それが何ともうれしくて。肉体の変化が、プロレスラーになる夢を現実に近付けてくれました」
王座に輝くも業界の人気は下降
大学2年から新日本プロレスの入門テストを受け、3度目の正直で合格。大学卒業後の1999年4月に入門し、練習生からスタートした。食事付きの寮生活で、最初は無給だが新弟子に昇格すると月5万円が支給された。
新弟子の時期に大切なのは、どんなに投げられても身を守れてケガをしない体を作り上げること。「息が上がっても正確に受け身を取れるようにならないと試合には出られない。早くデビューしたくてひたすら練習に明け暮れました」
努力の末、普通は1年半かかるところをわずか半年でデビュー戦にこぎつける。しかし「このまま続けていればスターになれる」と期待するも、そうはならなかった。黄金期のスターが相次ぎ離脱し、プロレス人気が低迷してしまったのだ。
「特に僕が初のヘビー級王座をつかんだ2006年ごろがどん底。しかも、僕は悪役ではないのに、チャラい、レスラーらしくないヤツが王者かよと観客に批判され、試合の度にブーイングが起きてしまって。自分が目指す強さに達していないことへのもどかしさもあり、何をどうしていいか分からず、言い訳ばかり探して焦っていた時期でした」
ファンは選手の覚悟の量を見ている
ここ数年、再び注目を浴びているプロレス。2000年ごろから低迷し続けていたが、その人気回復の立役者になったのが棚橋さんである。
転機は07年。ガラガラの試合会場でレフェリーが、「お客さんが入っていない時こそ全力でやろうよ」と。まさに目からうろこが落ちた瞬間だった。
「最悪の状況を愚痴ったり、人のせいにしたりする前に、プロレス全体の再起を図り、すごい試合をすることが先決なんだと気づかされました」。いい試合は必ず口コミで広がる、だから一つひとつの試合に全力で臨もう。そう決めたらプロレスへの姿勢も変化した。
「僕へのブーイングをあおって、その分、対戦相手に声援が増えるようにしたりしました。また、相手の良さを引き出してその技を光らせ、ギリギリのところで自分が勝つというのも僕の信条です(笑)。そういう試合こそお客さんに喜んでもらえるし、盛り上がるので」
一方、独自にプロモーション活動も開始。「プロレス=怖い、流血というイメージを拭い去り、新たなファンを獲得するためです。ただ、たとえばラジオに出演してもプロレスの話はほとんどしません。棚橋自身に好感を持ってもらい、一人でも多くの人に会場に足を運んでもらおうという作戦です」
相手にとことんやられ、体を痛めつけられても歯を食いしばって立ち上がる。最後まであきらめない。観客にその強さ、覚悟を楽しんでもらうのがプロレスなんだと棚橋さんは語る。「試合を見た人が何か熱いものを感じてくれたら最高です」
エネルギーのある言葉を発する
棚橋さんはまた、精神的にも強くあり続けるためエネルギッシュな言葉を意識して使う。「語尾も『したいと思う』ではなく『します』と言い切る。自ら『100年に一人の逸材』と宣言しているのも、大見えを切ることで自分を追い込めるから。弱気になること? 今の僕にその在庫はないです」
とことんプラス思考。決して現実逃避はしない。「現実を受け入れると、そこから自分がやるべきことが見えてきます。相手の技を避けず、まず受けるというプロレスの特性がそのまま僕の生き方なんです」
年間130試合以上をこなし、筋トレは300日以上行う。ファンは確実に増えているが鉱脈はまだあると考え、地道にプロモーション活動も続ける。人に見てもらう仕事で一番怖いのは飽きられること。だから常にアンテナを張って、面白いものを発見し、何かを生み出す努力を怠らない。
「まさに、暮らしの中に修業あり。それを毎日実践しているから、僕の進化はなかなか止まらないですよ(笑)」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
探偵。でも電信柱に隠れるのは難しい。今の体格だと肩が出てしまいますから(笑)。
人生に影響を与えた本は何ですか?
童話の『泣いた赤鬼』です。友達が欲しい赤鬼のために青鬼が悪者を買って出るというストーリー。そんな青鬼に引かれるのですが、2012年の試合で全く同じようなシチュエーションを経験しました。人は自分ではなく誰かのために何かをする時の方が力を出せることにも気づかされた。僕にとって大切な一冊です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
勝負カレーです。2011年から12年にかけてIWGPヘビー級王座11連続防衛記録を樹立しました。その試合前には毎回必ずカレーライスを食べていたんです。ところが12回目の防衛の時、喫茶店に入ってオムライスかカレーか迷い、オムライスにしたら負けてしまった。それ以来、やはりここぞという勝負の時にはカレーライスと決めています。
Infomation
今年(2015年)も熱い夏がやって来る!
新日本プロレス真夏の祭典「G1 CLIMAX 25」
今年で25回目を迎える新日本プロレスの真夏の祭典「G1 CLIMAX」。今年は全19大会で、約1カ月にわたって日本全国を縦断しながら20人の選手がリーグ戦を行う。東京では8月14日(金)・15日(土)・16日(日)に両国国技館でクライマックスの3連戦が予定されている。最終日の16日は優勝決定戦となる。「約1カ月間ぶっ通しで試合を実施するので、回が進むにつれてみんなの疲労がたまり、控室からはうめき声が聞こえるようになる。だから僕にはすごく有利なんです、だって僕は生まれてから一度も疲れたことがないので! ぜひ皆さん応援に来てください」と棚橋さん。
東京公演の開始時間などは以下のとおり。
8月14日(金)・15日(土)開場17:00、開始18:30
8月16日(日)開場13:30、開始15:00
予約・問い合わせ先:新日本プロレスリング(株)http://www.njpw.co.jp/
特設サイトhttp://g1climax.jp/