第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.147気象予報士 天達武史
一つの成功体験が自分を変えると信じた
Heroes File Vol.147
掲載日:2016/3/31
今やテレビで人気トップクラスのお天気キャスター天達さん。気象予報士の資格を持つが、実はその試験では苦難の末、7度目にして合格。仕事に就いても失敗ばかりで、自分のダメさ加減を嘆いていたという。ただ、その経験は多くの学びを生み、天達さんを育てた。小さなハードルをクリアしていき大きな夢をつかんだ天達さんに、その半生を伺った。
Profile
あまたつ・たけし 1975年神奈川県生まれ。御茶の水美術専門学校卒業。2002年に気象予報士試験に合格し資格取得。05年10月からテレビの情報番組「とくダネ!」でお天気コーナーのキャスターに。著書『気象予報士天達流・四季の暮らしと二十四節気の楽しみ方』ほか。
テレビの天気予報で朝の顔、と言えばこの人だ。フジテレビ系の情報番組「とくダネ!」で2005年からお天気コーナーのキャスターを務めている。
トレンド情報サイト「オリコンスタイル」の「好きなお天気キャスター/気象予報士ランキング」では、毎年のように首位を獲得するほどの人気ぶり。分かりやすい天気予報はもちろん、その親しみやすさ、誠実な語り口、そして視聴者を癒やす笑顔が支持を集めている。
「光栄ですが、僕はテレビに出ている気象予報士の中で、しゃべりが一番ヘタだと思っているので恐縮します。キャスターになって11年目。月曜から金曜まで毎日やっていますが、今でも失敗と思うことばかりで、うまくできたと言える日は月に一度あるかないか。だから日々勉強です」
担当するお天気コーナーでは「一日1へぇー」を意識し、「へぇー」と関心を持ってもらえるような情報を毎日一つ届けようと心掛けている。それに、話をより理解してもらうために得意なイラストもその場で描く。
そんな努力の人だが、かつて自分はマイナスの塊だったと天達さんは語る。「成功体験っていうものがなかったんですね。中学高校の野球部ではチャンスの時に打てない。試験でも不安が増して良い結果が出せませんでした」
高校卒業後はグラフィックデザイナーを目指して専門学校に進学する。でも、泥臭いデザインの現場の話を耳にし、華やかな世界へのあこがれが薄れて就職活動をほとんどせずに卒業。アルバイトをしていたファミリーレストランの厨房(ちゅうぼう)で働き続けた。だが、転機はやって来る。
食材の仕入れも任されていた天達さん。店はビーチリゾートにあり、天気が客足に大きく作用した。「お客さんは平日で雨なら来ないし、暖かな休日は普段の3倍。予報が外れたら食材が余ったり足りなくなったりしたんです」
そんな時、新聞で目にしたのが気象予報士通信講座だった。現状のフリーター的な生活から脱したいという思いもあり、一念発起、約30万円の学費を払って勉強をスタートさせる。
ところが資格試験の合格率は4、5%の難関で、授業も難しい。結局、天達さんは小学4年レベルまでさかのぼって学ぶことになる。「大金を投資したので後には引けない。それに、一つ成功体験をしないと自分は変われない、ここで踏ん張らないと社会にきちんと出られないんじゃないかと強く思ったんですね」
試験は年2回あり、6回不合格。焦りと失望の年月を過ごしていた天達さんだったが、ついにある策を得ることになる。
小さなハードルをクリアして大きな夢へ
「あまたつ!」という小倉智昭キャスターの呼び掛けで、天達さんが登場し、担当するお天気コーナーが始まる。フジテレビ系の朝の情報番組「とくダネ!」ではおなじみの光景だ。
お天気キャスターとしてトップクラスの人気を誇る天達さん。その出発点となったのは、2002年の気象予報士試験合格だった。
一念発起で挑んだ予報士の勉強。アルバイトの傍ら休日2日間を勉強に充てたが、それでは効率が悪く、試験の不合格が続いた。そんな時、理系出身者からダメ出しをされる。「たとえ3分でも毎日勉強しなきゃ」と。
そこで出勤前に図書館に寄って1、2時間学習。3カ月ほど続けたら、点と点がつながって線となるように理解が進んだ。その波に乗り、7度目となる試験で見事合格。「継続は力なり、なんですね。そしてあきらめるのはもったいないことなんだと心に刻みました」
だから、興味のあることがあるならぜひチャレンジしてほしいと話す。「高い目標だと嫌になるので、小さなハードルを幾つも作ってクリアしていく。それをやり続けたらきっと夢はつかめると思います」
そうやって27歳にして夢を手にした天達さん。しかし就職先探しでは苦労したという。そしてやっとつかんだのが、日本気象協会でメディア向けに気象情報を流す仕事。「でもパソコンが苦手で、最初は使い物にならなくて周りの優しい方々に助けられました」。やがて、1年ほどして「とくダネ!」のキャスターオーディションの話が舞い込んでくる。
周りに押され、名前をもじって「天気の達人」としてダメ元で応募。面接で番組の企画を提案したのが良かったのか採用された。番組初日、小倉さんが原稿を無視して「あまたつ!」と呼び捨てにし、それが知名度を上げる結果となった。でもやっぱり最初は失敗ばかり。「会議で小倉さんが『俺は天達を有名にするんだ』と言ってくれ、今の僕があるんです」
そんなある日、事件は起きた。入念に準備した原稿が本番10秒前に風で飛ばされてしまったのだ。うろたえながらも画面に向かって自分の言葉で伝えたら、それが意外にも分かりやすかったと好評を得て、以来、原稿を丸読みせず語り掛けるように話している。
天達さんは語る。「僕は試験に受かるという一つの成功体験が自信となり、気持ちに余裕ができて、目を向ける世界が広がりました」。週末は講演活動で全国を回る。地球温暖化、防災、そして野生動物や森林など、関心のある事柄はどんどん増えている。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
全然想像できないですね。でも、もしかしたらファミリーレストランの厨房にいたかも。ただ接客が好きなので、管理職とかにはならず、ずっと現場の仕事をしていたいですね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
野球選手の本ですね。イチローさんとか、松井秀喜さんとか。華やかな世界で活躍している人たちなのに、日ごろは地道に努力している。基本に忠実なところなど、勉強になります。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
僕、そういうのあると逆に緊張してしまうので何もないですね。いつもどおり、普段の自分を隠さず出そうという考えでやっています。
Infomation
天達さんがお天気キャスターを務める
「情報プレゼンター とくダネ!」放送中
小倉智昭さんをメインキャスターに、菊川怜さん、梅津弥英子さん、笠井信輔さんらが出演する朝の情報番組。放送はフジテレビ系で毎週月曜日〜金曜日の8:00〜9:50。放送開始から18年目となる人気番組で、天達さんが担当するお天気コーナーも好評を得ている。そのコーナーでは天達さんが分かりやすい天気予報をしてくれるほか、「一日1へぇー」を目指して一日一つ、小ネタを披露。「へぇー」とうなずく情報、役立つ情報を伝えてくれる。