第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.151女優 鈴木砂羽
やりたい仕事は、勝ち取らねばと気づいた
Heroes File Vol.151
掲載日:2016/6/16
女優のほかバラエティー番組などでも活躍する鈴木砂羽さん。人前に出て表現したいという思いは小さいころからあり、さまざまな活動に取り組んだという。そして今、デビューして二十数年、満を持して舞台「マクベス」の“マクベス夫人”という大役に挑んだ。そんな鈴木さんの仕事への向き合い方や考え方の変化などについて、その思いを伺った。
Profile
すずき・さわ 1972年静岡県生まれ。94年に映画『愛の新世界』の主演でデビュー。以降、映画やドラマ、舞台、バラエティー番組などで活躍。2016年6月17日現在、東京・世田谷パブリックシアターで上演中の舞台「マクベス」では、マクベス夫人を好演。同舞台は地方公演も控えている。
キリリとした力ある瞳が印象的な鈴木砂羽さん。女優、バラエティータレント、更には漫画家として多彩に活動中だ。この(2016年)6月も、世田谷パブリックシアターで上演中の舞台「マクベス」に野村萬斎さんの相手役マクベス夫人として出演し、話題を集めている。
「女優としてデビューし二十数年が経ちますが、こうした古典劇、しかもシェークスピアを演じるのは初めてです。萬斎さんにはセリフの発声からしごかれました。この年になると注意されたり教えられたりする機会がなかなかないので、心からありがたいと思っています。年齢的にもこれからの自分のキャリアをどうするか考えることが多くなってきていたので、この作品との出合いはとても良い節目だと、いつもにも増して前向きに挑んでいます」
両親が画家というアーティスティックな環境に育ったこともあり、子どものころから「表現者」になりたかったという鈴木さん。高校は芸術クラス、卒業して美術短大に進んだが、実は絵にはあまり興味が持てなかった。
「小学生からモダンバレエを習い、ステージに立つという経験をしていたので、どちらかと言うと人前で表現するようなことをしたいという思いがありました」
そこで10代後半は、自主映画やバンド活動ほかさまざまな表現活動をかじってはやめかじってはやめ、いわゆる「自分探し」に明け暮れた。
「当時の私は自分が何も持っていないと感じていて、何か備えなくてはとあれこれチャレンジしてみたんです。紆余曲折(うよきょくせつ)はしましたが、やっぱり正統派でいかなきゃと、女優を目指して文学座の研究所へ。そして21歳の時、オーディションで映画の主演に選ばれ、それをきっかけにこの世界に入りました」
右も左も分からないまま、20代は怒濤(どとう)のごとく過ぎていった。30代になりようやく周りが見えるようになってきたら、今度は関心が自身に向いた。仕事より人生について考えることが多くなり、恋愛に夢中になったり、結婚に気持ちが向いたり。それがようやく落ち着いて、あらためて仕事に真摯(しんし)に向き合おうと思い直したのが30代後半だと語る。
「話をいただき、それを受けるのがこの仕事だと思っていたけれど、そうじゃない。本当にやりたいことは自分で勝ち取らなくてはいけないんだということに、ようやく気づいたんです」
そのために必要なのは、まずは知名度を上げること。そう考えた鈴木さんは、当時たまたまオファーのあった、バラエティー番組の仕事を引き受けることにした。
自分をさらけ出し、可能性を広げていった
気品を感じさせるのにざっくばらん、力強いのに色っぽい―― そんな両面性が魅力の女優・鈴木砂羽さん。野村萬斎演出・主演の舞台「マクベス」では、マクベス夫人役に抜擢されて注目を集めた。その舞台は2016年6月現在、東京にて公演中で、月末からは地方公演がスタートする。
「今、私は40代初め。一生女優としてやっていけるかどうか、ここで決まると思うんです。そんな大切な時期に、このように情熱を傾けられる作品に出合えたことはすごいチャンスだと受け止めています」
けれどこのチャンスは、たまたま天から降ってきたのではなく、巡り合うべくして出合ったものだと鈴木さんは語る。
「やりたい仕事を勝ち取るために、まずは知名度を上げなければ」と、30代後半からバラエティー番組に出演。サバサバとした物言いで、バラエティータレントとしての人気を獲得していった。それと共に女優としての道も広がり、今回の抜擢(ばってき)は言わばその集大成となった。
「バラエティー番組に出るにあたって、そりゃあ初めは葛藤がありました。女優とはこうでなきゃという思い込みがあったので。でも、表現の一つとして自分の中のひょうきんな部分を見せたらどうなるのかと考え、思い切ってやってみました。大変でしたよ、自分をむき出しにして傷口をさらけ出しましたから。その傷が癒えてかさぶたができたのは、つい最近」
酸いも甘いも噛み分けて、人間的な深みが増したところで出合ったのが「マクベス」。だから、この舞台に懸ける思いは強い。
「作品の時代背景を知るうちに、中世の魔女やその時代の女性の生き方などに興味がわいてきて、そこからひも解いて役作りにつなげました。自分なりに作り上げたマクベス夫人を見てほしいという思いは当然ありますが、最近思うのは、人それぞれ感じ方は千差万別なのだから、どう見るかはその人の感性に任せるしかないということ」
肩ひじ張らずに演じられるようになったのは、長年この仕事を続けてきたからこそだ。
「行動力を発揮するのは若者の特権ですが、『これは自分のやりたいことじゃない』と言ってすぐにやめてしまうのはもったいない。私自身、女優という職業自体には早く就けましたが、やりたい仕事ができるようになるまでには10年以上かかりました。自分で植えた種は、毎日水をやり日よけをし、ようやく出た芽を大切に育てていかなければなりません。石の上にも三年。若い人たちには少々古いかも知れないけれど、この言葉を贈りたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
漫画家、あるいは陶芸家、あるいはヘアメーキャップアーティスト。女優と同じで「表現者」、そして「もの創り」に関わる仕事をやっていると思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
子どものころに、親に大人買いしてもらった少女漫画『ガラスの仮面』はインパクトがありました。だから女優を目指した、というわけではないのですが(笑)。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
新しい舞台に挑む時などは下着や化粧品を一式買い替えます。楽屋に新品が並んでいると気分が上がるんです。
Infomation
話題の舞台「マクベス」再演!
2002年に東京・世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任して以来、シェークスピア作品を能・狂言の手法で演出している野村萬斎さん。シェークスピアの没後400年にあたる今年は、10年の初演から再演を重ね、海外でも評価の高い「マクベス」を装いも新たに上演している。わずか5人の出演者、大胆に構成された脚本、そしてストイックなほどにシンプルな美術で舞台を構成。支配者になるという野心から王や仲間を殺(あや)めるマクベスを萬斎さんが演じ、鈴木砂羽さんはその妻マクベス夫人役としてシェークスピア作品に初出演、劇中に新しい息吹を送り込む。
翻訳:河合祥一郎
構成・演出:野村萬斎
音楽:藤原道山
出演:野村萬斎、鈴木砂羽、小林桂太、高田恵篤、福士惠二
日程:16年6月15日(水)~22日(水)
会場:世田谷パブリックシアター
問い合わせ先:世田谷パブリックシアターチケットセンター(電話03-5432-1515)
全国ツアー:16年6月25日(土)~7月12日(火)に豊橋、兵庫、札幌、名古屋、滋賀、宮崎でも上演。