第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.156ダンサー 長谷川達也
見たこともない、独自表現を極めたい
Heroes File Vol.156
掲載日:2016/9/15
今年で活動20周年となるダンス集団「DAZZLE」。その主宰者である長谷川達也さんは高校生の時にダンスと出合い、踊りの魅力を知り、やがて集団で踊る楽しさにはまっていく。そして、長谷川さんは独自性のあるダンス表現を追求。しかしそれは異端視され、なかなか認められず苦難の道が続くことになる。そんな日々を経てきた長谷川さんに、今や仕事としているダンスへの思いを語っていただいた。
Profile
はせがわ・たつや 1977年千葉県生まれ。明星大学卒業。大学在学中の96年にダンス集団「DAZZLE」を結成し、現在まで主宰している。結成20周年記念公演「鱗人輪舞(リンド・ロンド)」を2016年10月14日(金)〜23日(日)に東京・池袋のあうるすぽっとにて開催予定。
物語とダンスを融合させた新しい表現を追求してきた8人のダンス集団「DAZZLE」が今年(2016年)、活動20周年を迎える。「幻惑させる」という意味を持つ名前の通り、ジャンルにとらわれない斬新なダンスで幻想的なステージを展開し、人々を魅了してきた。結成は、大学時代のダンスサークルでの出会いから。主宰を務める長谷川達也さんは、幼少時から学芸会などで注目を浴びるのが好きだったと語る。
ダンスとの出合いは、素人参加のダンスバトル番組をテレビで見た中学の時。「生き生きと踊る人が輝いていて、何か悔しくて。僕をこんな思いにさせたダンスをぜひやってみたいと思いました」。テレビを見てまねるなど独学で学び、大学ではストリートダンスのサークルに入部。踊る楽しさはもちろん、最初の自主公演で喝采を浴び、その魅力に引かれて大学時代はダンス優先の日々を過ごすことになる。
特に集団で踊る楽しさに、はまった。 「体格も育った環境も違う人たちが、動きをそろえて踊り、呼吸が合った時、その喜びを共有できる。これが皆で踊る醍醐味(だいごみ)かと感動しました」。本格的にはまったら、今度は長谷川さんの「注目されたい」願望が首をもたげ、やるからにはダンス界で名を上げたい、そのためには独自の表現をしなくてはと模索が始まった。
「当時のストリートダンスは『悪そうな人』が明るいダンスを踊るというパターンが多かったんです(笑)。そこで独自色を考え、僕は映画が好きだったので物語性のある表現に向かった。皆が選ばないダークな曲に、ストリートダンスを掛け合わせて踊ることにしました」
そしてサークル仲間の5人でDAZZLEを結成。異端とも言われた、その表現を追求していった。ただ、当時はダンスを仕事にすることは難しく、長谷川さんも当然のように就職活動を行う。でも面接で「君は就職する気ないよね」と企業側に見抜かれてしまうのだった。
「それで気持ちがはっきりし、就職はせず、結成翌年から挑戦していた、日本最大級のストリートダンスのコンペティションで入賞を目指すことにしました」。メンバーもほぼ同意見で、コンビニなどでアルバイトをしながら猛練習。コンペでは観客から熱烈な支持を受けるものの、審査員からは「君たちの踊りはストリートダンスじゃない」と酷評され続けた。
今度こそはと意気込んだ3度、4度目も敗れ、「それでも自分たちの表現に確信があった」という長谷川さんたちは、更にダンスの表現を磨く。そして生活の苦しさに耐えながらも、5度目の勝負に挑むのだった。
妥協しない姿勢が続ける力となる
2002年、長谷川さんが主宰するダンス集団「DAZZLE」の結成6年の年。日本最大級のストリートダンスのコンペティションに5度目の挑戦をし、ついに準優勝を果たす。
「それまでの僕らは審査員に酷評され続けていた。でもその時いた外国人審査員が『君たちのダンスは新しくていい。そのままいけ』と言ってくれた。うれしかったし、この時から、僕たちのダンスは自ら誇れるものとなりました」
この入賞によって、ダンスインストラクターとしてさまざまな学校から声が掛かるようになり、長谷川さんもメンバーもダンスを仕事にするという、その一歩を踏み出せることとなった。
しかしその後は順風満帆とはいかず、飛躍できない時期が続く。それでも自分たちの踊りに信念があった長谷川さんたちはダンスに磨きを掛け、イベントや公演に参加できるチャンスをつかんでは踊り続けた。結果、徐々に認められていき、業界の協力者も増えて、07年にDAZZLEの第1回公演を実現する。
「物語性のあるダンスでの単独公演をずっと夢見ていましたが、実現の手立てがなく長い間くすぶっていたので、結成12年目の公演の成功は大きな自信になりました。その後、『狐の嫁入り』をモチーフに日本的な演出で行った公演『花ト囮(おとり)』が演劇祭で優秀作品賞を受賞。それにより、ダンス界で異端視されてきた僕たちが、ここにいていいんだと安堵(あんど)できたんです」
この作品は海外の演劇祭でも喝采を浴び、長谷川さんはその瞬間をメンバーと共有できたことが何よりもうれしかったと語る。近年はコンサートの演出や振り付けへと仕事も広がり、昨年(15年)は坂東玉三郎さんの演出でクラシックの曲に合わせて踊る体験もした。そして、内向的になりがちだったDAZZLEのダンスに、より多くの観客に向けた表現を玉三郎さんから教えられ、また一つ殻を破る。その後、長谷川さんはバレエも始め、現在も成長中だ。
「意識してきたのは、絶対に妥協しないこと。作品作りも細部に異様にこだわりますし、リーダーとしてメンバーが納得するようなアイデアを常に提示してきました。それができなければメンバーはついてこないと僕は思います」
今年(16年)までの20年、独自表現の追求を続け、驚くような出会いや出来事に恵まれて継続は力なりと実感している。「自分の思い描く世界を表現できた時の喜びは格別で、まだまだモチベーションは尽きません。今後も僕たちが表現したいことや観客のニーズなど、さまざまなもののバランスを考えながらDAZZLEの世界を広げ、ダンスの楽しさを伝えていきたいですね」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
昔からゲ-ムが大好きなので、ゲ-ムクリエーターです。フリ-タ-をしながらダンスを続けていたころは、生活費がピンチになるたびに愛用のゲ-ムを売ってしのいでました。
人生に影響を与えた本は何ですか?
春山茂雄さんの『脳内革命』です。学生時代に読んだのですが、ポジティブであることがこれほど体に良い影響を及ぼすのか、と驚きまして。もともとポジティブでしたが、より一層ポジティブであろうと決意しました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
舞台に出る前は、天井を見上げ、「今日の公演がうまくいきますように」、そして「皆がケガなく終われますように」と祈ります。
Infomation
結成20周年記念公演「鱗人輪舞(リンド・ロンド)」開催
幾度も繰り返される人間の愚行を見つめながら、千年の時を生きてきた人魚の物語。DAZZLEの結成20周年記念公演で、異なる結末を2つ用意し、上演ごとに観客が選ぶ「マルチエンディング方式」を採用。21世紀の世界が直面する問題を示唆し、絶望の中から希望を探し出すということが、美しく心揺さぶられるダンスで紡がれていく意欲作だ。「荒廃し、水までも殺し合いで奪い合う極限の世界で、私たちは生きるために何を犠牲にするのか? 何かを選ぶことは何かを犠牲にすること。その感覚をマルチエンディング方式で実感してほしい。この公演には、僕たちの20年の経験をすべて注ぎ込んで踊ります。普段ダンスをご覧にならない方も、僕たちのストーリー性のあるダンス表現をぜひ見てほしいですね」。
演出:長谷川達也
脚本:飯塚浩一郎
振付・出演:DAZZLE(長谷川達也、宮川一彦、金田健宏、荒井信治、飯塚浩一郎、南雲篤史、渡邉勇樹、高田秀文)
日程:2016年10月14日(金)~23日(日)全14公演
会場:あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)
問い合わせ先:キョードー東京(電話0570-550-799)