第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.158俳優 新納慎也
現状に満足せず、いつも飛び出してきた
Heroes File Vol.158
掲載日:2016/11/24
甘いルックスと抜群の歌唱力、そして見る人を魅了してやまないダンスの実力。これらを生かすべく、これまではミュージカルなどの舞台を中心に活躍してきた新納さん。しかし2016年は、NHK大河ドラマ「真田丸」で時代劇に初挑戦。豊臣秀吉のおい、秀次役で注目を集め、映像での存在感も増した。そんな新納さんに、現在の心境や仕事観などを伺った。
Profile
にいろ・しんや 1975年兵庫県生まれ。ミュージカル「エリザベート」をはじめ数々の舞台に出演。ドラマや映画、ライブでも活躍。2016年、NHK大河ドラマ「真田丸」に豊臣秀次役で出演。新作の2人舞台「スルース~探偵~」は16年11月25日(金)から新国立劇場 小劇場にて上演。
NHK大河ドラマ「真田丸」に豊臣秀次役で出演。その演技で注目を浴びた俳優、新納さんが今、全身全霊で挑んでいるのが舞台「スルース~探偵~」だ。密室で男と男のうそと本音がぶつかり合うサスペンス劇。ベテラン俳優、西岡德馬さんとの2人芝居である。
「男2人のやり取りに、お客さんも翻弄(ほんろう)されだまされる仕掛けになっています。こういう濃密な芝居をずっとやりたかっただけに気合も十分。僕の代表作にしたいと思っています」
高校時代にスカウトされ、モデルの仕事を始めた。「でも、あくまで服が主役の世界では、自分自身を表現できない」と思い、役者になるため大阪芸大の演劇コースへ。しかし新納さんは2年で自主退学し、そのまま上京する。
「当時からプロ志向が強く、ちゃんと芝居でご飯を食べていける役者になりたかった。そこを目指すなら、ここにいてはあかん、早く東京へ出たほうがいいと考え、そうしました」
ところが、せっかく受かっていた劇団をケンカして2週間で辞めることになる。「この時ばかりはさすがに途方に暮れました。今の自分には何もない、何しに東京へ来たんや、親の反対を押し切って飛び出してきたのにって」
しかし1年ほどして、NHK-BSの幼児番組「にこにこぷんがやってきた!」に「うたのおにいさん」としてレギュラー出演することになる。「無名の僕が、何とか世に知られる存在になりたくてオーディションを受けたんです」
実際、この番組をきっかけにいろいろな仕事が舞い込むようになった。「『うたのおにいさん』が終わった翌月は、ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』で女装し、『うたのおねえさん』になっていました(笑)」
そして舞台「エリザベート」に出演。これが爆発的な人気作となり、“トートダンサー”の一人だった新納さんの知名度もグッと上がった。
「でもその時、アンサンブルキャストのような、主役の後ろで歌って踊る役で満足し、そのまま終わるのは嫌だと思ったんです。だからこの舞台を終えた際、アンサンブルはもうしたくないと事務所に申し出ました」。そうしてその後オーディションを受け、「GODSPELL」という舞台の主役の座を射止めたのだった。
現在41歳。新納さんは、その時その時に置かれている状況から飛び出そうとする力を、30代半ばくらいまでいつも意識的に持ち続けていたという。「現状に甘んじるのが嫌なんでしょうね。『ここにおったらあかん』という強い気持ちに突き動かされるまま進んできて、今ここまで来たという感じがします」
人は人、自分は自分。そう思えば飛躍できる
抜群の歌唱力とダンスセンス、そして長身で甘いルックスを生かし、これまでミュージカルや舞台を中心に活躍してきた新納さん。クールなイケメンかと思いきや、根っこはサービス精神に満ちた関西人である。今回の取材中も面白おかしく語り、周囲を笑わせる。そんな新納さんの本質をイチ早く見抜いたのは、演出家で脚本家の三谷幸喜さんかも知れない。
約10年前。舞台を終えた新納さんの楽屋に三谷さんが突然現れ、「一緒に芝居をしませんか」と声を掛けてきたという。その翌日、正式にオファーが届いた。
「以前から幾つか舞台を見て頂いていたみたいです。三谷作品には2007年の『恐れを知らぬ川上音二郎一座』で初めて出演させてもらい、2年後にはニューヨーク公演『TALK LIKE SINGING』、今年はNHK大河ドラマ『真田丸』です。三谷さんは人生のここぞという時にふらっと現れ、進むべき道を照らしてくれる。僕にとっては大切な存在です」
「真田丸」で与えられたのは豊臣秀吉のおい、秀次役。秀吉に人生を翻弄され、不遇の最期を遂げる人物だ。そんな秀次をとことん研究し、人懐っこくて明るく、少々出来の悪いボンボンのイメージで演じ切り、話題を呼んだ。
新納さんの役作りは作品を俯瞰(ふかん)することから始まる。「現在(16年)上演中の舞台『スルース~探偵~』もそうですが、台本をもらったら最初2、3回は小説のように読んで全体を理解し、そのうえで自分はどういう存在でいなければならないかを考えます」。そうするとおのずと自分の役割が明確に見えてくる。こうした、作品への向き合い方は昔も今も変わらないという。
「仕事の場では、言うべきことは上下関係にかかわらず、遠慮なしに言わせて頂いています。口に出さないと何も伝わらないので。それも20代の頃から変わっていないですね」
人と自分を比べることもしない。「うちはうち、よそはよそ」と育てられたからだという。「今もその魂が歴然と自分の中にあります。だから、後輩が先に売れてスターダムにのし上がった時も気にならなかった。彼は彼、僕には僕の良さがあると思っていましたから」
今後は? と問うと、「ずっと目標は立てずに進んできたし、そのスタンスを変えるつもりはありません。ただ、『真田丸』で映像の面白さを改めて実感したので、これからは舞台、映像の垣根なくいろんな作品に挑戦したい」と話す。
置かれた立場を超え、常に一歩先を見つめて進んでいく。周囲にも惑わされない。軽やかな“自己更新力”を持つ俳優だ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
具体的な職業としてふと浮かんだのは美容師。昔、美容室でアルバイトをしたこともあるので。ただ、中学校の卒業アルバムに「僕は自分の力が目に見えて評価される仕事に就きたい」と書いているんです。その思いは今も変わらないので、何かしらそういう仕事には就いているでしょうね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
すぐにこれっ! というのは出てこないのですが、本はたくさん読みます。その中でも作家・原田宗典さんの本をよく読んでいたので、ブログなどの文体は原田さんの影響を受けているところもあるかも知れませんね。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
本番前などに余計なプレッシャーを感じたくないので、ゲンを担いだりはあえてしないようにしています。
Infomation
トニー賞演劇作品賞に輝く傑作舞台「スルース~探偵~」に出演
男たちのだまし合いに観客までも翻弄(ほんろう)されるスリリングなサスペンス劇。『ナイル殺人事件』『地中海殺人事件』などの映画脚本で知られるアンソニー・シェーファーが1970年に書き下ろした戯曲。ベテランの著名なミステリー作家の元に、その作家の妻の愛人が訪ねてくるところから物語が始まり……。著名な作家役に西岡德馬、妻の愛人役に新納慎也と音尾琢真がダブルキャストで挑む。男たちの会話による攻防戦が見もの。しかもアッと驚くトリックなど、驚きの結末まで一瞬たりとも目が離せない。「劇場でぜひこの逆転劇をお楽しみください」と新納さん。
日程:2016年11月25日(金)~12月28日(水)
(新納出演「探偵バージョン」:11月25日~12月11日、音尾出演「スルースバージョン」:12月17日~28日)
会場:新国立劇場 小劇場
演出:深作健太
公式サイト:http://www.parco-play.com/
問い合わせ先:パルコ・ステージ・インフォメーション(電話03-3477-5858)