何もない時にこそ歩む方向を変える
朝井:高橋さんはモーニング娘。を25歳で卒業されました。他の人よりも遅かったですよね。
高橋:先輩たちは22歳ぐらいで卒業していくなか、なぜか私にはそのタイミングが訪れなかったんです。モーニング娘。が嫌なのではなく、卒業という一つのゴールが見えないのが不安でした。
朝井:卒業のきっかけは?
高橋:帝国劇場での舞台のお話をいただいたことです。ずっとやりたかったミュージカルで、でもモーニング娘。は年4回大きなツアーがあり、在籍したままだとほかの仕事に費やす時間がなかなか取れなかったんです。
朝井:女優志向が強かったんですね。
高橋:演技に目覚めたのは22歳のころ。恋愛禁止なのに歌うのは恋愛の曲ばかりで、何となくもどかしさを感じていた時、ドラマに主演させてもらいました。そこで「経験がなくても演じればいいんだ」って思ったらぐっと楽になって、同時に、演じることがすごく楽しく思えた。だから将来、女優でやっていこうと決めたんです。朝井さんは今年4月末で会社を退職し、いよいよ専業作家になられた。それこそ大きな決断ですよね。
朝井:昨年10月、高橋さんにとっての帝国劇場的な大きな仕事をいただいたんです。準備も相当しなければいけないし、長期取材も必要。どうしようかと随分悩みましたが受けることにしました。
高橋:それはどうして?
朝井:作家になって5、6年が過ぎ、自分の書くものの範囲が何となく見えてきて、それが怖かった。そんな時に今回の依頼を受け、自ら書きたいジャンルではなかったけれど、むしろこれは挑戦すべきことだと思ったんです。人
って何か大きなことが起きたから変わりたいのではなく、実は何もない時に一番変わりたくなるものなのかも。僕も社会人4年目となり、例えばこの仕事なら何から始めてどう終わればいいのかということが見えてきていた。そのまま自分にできることだけして、それしかしない人間になってしまうのが嫌だった。無謀な挑戦を時折人生にぶち込んでいった方が自分を活性化できるし、より自分らしく生きられるような気がするんです。
高橋:私も楽な方ではなく、あえて未知の世界へ飛び込む方が人生楽しくなるって思います。とは言え、ご両親は反対されなかったのですか?
朝井:地に足のついた実直な両親なのですが、味方をしてくれました。年末に相談したのですが、父親なんて「上司に退職を申し出るベストタイミングは年始一週目の金曜日がいい」とアドバイスしてくれたほどです。
高橋:おもしろい!
朝井:そのころならみんな何となく休みボケが残っていて、そっと辞められるからって(笑)。転職志望者にはお勧めの辞め方かも知れませんね。
正しい選択はない。正しかった選択にする
朝井:高橋さんはモーニング娘。時代、アイドルという意識ってありましたか?
高橋:実は「私はアイドルじゃない、アーティストなんだ」という気持ちが強かったんです。プロデューサーのつんく♂さんも私たちをアーティストとして育ててくれていたような気がします。
朝井:アイドルと思っていない姿勢はファンとしてビシバシ感じていました(笑)。今は女優、モデルとして活躍されていますが、日々の仕事で大事にしていることは?
高橋:好きな仕事をさせてもらえ、本当に恵まれているので感謝の気持ちを忘れないようにしています。それと、今もモーニング娘。という看板があっていただける仕事も多いのですが、二度目からは絶対、高橋愛自身を指名してもらえるよう取り組んでいこうと心掛けています。
朝井:努力家ですよね。
高橋:負けず嫌いなだけです。モーニング娘。卒業後の方がオーディションを受けまくっていて、しかも落ちまくっている。でも落ち込んでいても次に進めない。早めに気持ちを切り替え、日々頑張っています。
朝井:知らなかった、今もオーディションを受けているなんて。尊敬します。僕の場合、常日ごろ意識していることは、数多くの作家がいる中で、なぜ僕がその題材でこの本を書くかということ。僕が取り組む意義、意味を考えながら一つひとつ丁寧に書いていきたいですね。
高橋:すごいなあ。私も負けないよう毎回、作品に対して丁寧に向き合える女優でありたいと思います。
朝井:高橋さんは好きなものが明確。そこがいいです。僕も含め最近の若者は好きなものが少ない気がする。なぜなら今は無料で何でも手に入るから。無料だと期待以下でもショックじゃないし、期待以上でもうれしくない。
高橋:確かに無料のものはほとんど記憶にも残らない。
朝井:自分がどんな人間かを知るために必要なのは、有限なものから何かを選び取ることだと思う。ミュージカルでも本でもいいので、好きなことにお金を払ってみてほしい。そうすると人生の選択を迫られた時、自分は何を大事にする人間か、どういうことが好きかを踏まえたうえで選べるはず。
高橋:なるほど。
朝井:選んだ時点で正しい選択などなく、それを正しかった選択にするしかない。それができるようになっていくためにも、日ごろから対価を支払って選ぶ行為を繰り返す。そうやって己を知ることが必要な気がします。
高橋:朝井さんは多面的に物事を見据え、本質を捉えていて本当に勉強になります。私も、己の小ささを実感しつつ今まで以上に努力しようって力が湧きました。
朝井:この対談、僕は本気で楽しかったです。高橋さんにはこれから先、一秒でも多く人の目に触れる場所に立っていてほしいです!
リーダーが語る、アシタを開く言葉
朝井リョウさん
「同じ人なら踊ろぜワイヤイ」
モーニング娘。のシングル曲『恋のダンスサイト』のワンフレーズ。「♪そうよ 人生はカーニバル 踊る人に見てる人」に続くこのフレーズを初めて聴いたのは、思春期。体育祭を頑張るのってちょっとダサイとか思い始めかねない年ごろでした。でも、この曲を聴き、直感的に「自分は踊る人でありたい」と思った。更に言えば、「読む人より書く人になりたい」と。このフレーズのお陰で今があると言っても過言ではありません。
高橋愛さん
「夢」
知り合いに40代になっても夢を持ってキラキラに輝きながら自分の道を突き進んでいる人がいるんです。年だからといってあきらめずにそうやって生きられる人って素敵。かっこいいなあって思う。私も夢を持ち前へと突き進んでいきたいと思っています。ちなみに、私の一番の夢はいつかハリウッド映画に出ること。口に出して言うことで自分を追い込んでいます(笑)。
キボウノアシタ読者プレゼント
下記のボタンよりキボウノアシタ読者プレゼントへ応募できます。アンケートにお答えいただいた方の中から、抽選で1名さまに朝井リョウさん、高橋愛さんの限定サイン色紙をプレゼントいたします。
応募締め切り:
2015年10月1日(木)23:59
※当選者の方には、当選のお知らせと景品送付先の確認のため、入力いただいたメールアドレス宛に締切後1週間以内にご連絡させていただきます。当選の発表はこのご連絡をもってかえさせていただきます。
※ご入力いただいた個人情報は、当選者への連絡、景品(賞品)の抽選・発送の目的以外で使用することはありません。
※ご応募はお一人さま1回限りとなります。
朝井リョウ
作家。1989年岐阜県生まれ。2009年早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』(集英社)で第22回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。12年同作が映画化され注目を浴びる。13年『何者』(新潮社)で戦後最年少で第148回直木賞を受賞。14年『世界地図の下書き』(集英社)で第29回坪田譲治文学賞受賞。最新刊は『武道館』(文藝春秋)。
高橋愛
女優/モデル/モーニング娘。OG。1986年福井県生まれ。2001年モーニング娘。のオーディションに合格して5期メンバーとして加入。07年からリーダーに就任し11年に卒業。卒業後は舞台、ドラマ、バラエティーなどのほか、抜群のファッションセンスを生かし、モデルとしても活躍。待機作に2016年春公開『星々の約束』。