【紛らわしい言葉編】「SaaS」とは、「無駄に用語を増やさないで」とエンジニアの心に去来させた言葉である|#エンジニアあるある システム開発現場・実録IT用語辞典

【紛らわしい言葉編】「SaaS」とは、「無駄に用語を増やさないで」とエンジニアの心に去来させた言葉である

お疲れさまです。昔、ASPサービスの導入に関する相談を受けた際に、話を聞きながらずっと「SaaSとASP」ってどう違うんだっけ、と心の中で思っていたMWです。その日は家に帰ってすぐに「SaaS ASP」でググって、思わず2時間ほど調べてしまい、寝不足になりました。

IT関連の用語はいろいろ紛らわしいものがあって困ります。定義があいまいなもの、概念だけで実態がないもの、同じ意味の複数の用語が乱立しているもの……。

今回は「SaaS」、「ASP」、「クラウドコンピューティング」といったクラウドにまつわる言葉に加え、違いや意味が分かりづらい言葉について紹介します。

#エンジニアあるある 実録IT用語辞典【紛らわしい言葉編】INDEX

「SaaS」とは

「さーす」と読む。「さーず」と読む場合もあるが新型肺炎の「SARS」と被ってイメージが悪いので、「さーす」と呼ばれることのほうが多い。

何をもってSaaSとするか、まだ定義にあいまいさがあるような気がするもの。しかし、大きな企業が一生懸命取り組んでいるところを見ると、何だかよく分からないけど重要な気がしてしまうような、そんな言葉。

「Software As A Service」の略で、直訳すると「ソフトウエアをサービスのように扱う」だ。実際の意味は、ソフトウエアをネットワークを介して提供し、使用期間や使用する機能に応じてサービス料を取るようなモデル、といったところだろうか。

提供企業側が用意したハードウエアやソフトウエアにWEBアプリケーションが載っていて、使用者は月額利用料を支払ってネットワーク経由で使用する、といったパターンは、典型的なSaaSと呼べるものと思われる。

ASPとどう違うのかと言われると、答えに窮するというか、ほとんど同じと言って差し支えない。この辺りが、新しい概念を売る時はとりあえず名前を変えてみるというIT業界がよくやる手段の典型例みたいな気がしたり、覚えるのが大変だから無駄に用語を増やさないでといった気持ちをエンジニアの心に去来させたりするもの。

「ASP」とは

いろんな意味があって厄介な言葉。

SaaSの前身である「アプリケーションサービスプロバイダ」もASPだし、Microsoftが作った動的WEBページ生成技術「Active Server Pages」もASPだし、広告配信をする「アフィリエイトサービスプロバイダ」もASP。

そのため、ASPという言葉が耳に入った時には、「ん、どのASP?」と一瞬、戸惑ってしまうことも多い。

幸い、「アプリケーションサービスプロバイダ」はSaaSの登場によって過去のものとなりつつあり、とりあえず1つ減ってくれて、めでたしなもの。

「クラウドコンピューティング」とは

システムの構成図を書く時に、ネットワークの部分を雲の絵で表す風習(?)があることから名付けられたもの。

データもプログラムも雲の向こうに置いておいて、ユーザはそこに接続する機能と最低限の処理能力さえ持っていればサービスを使用できたりするもの。または、システムを構築する際にプラットフォームだけ借り受けて自前のサービスを導入することを指す言葉らしい。

クラウドの説明を聞いていると、グリッドとどう違うのだろうかとか、SaaSとはどういった関係に位置しているのかといった疑問がわいてくるかもしれないが、その辺りはIT系の新用語らしく、人によってけっこう認識が違うというか、割とあやふやな気がするのは、気のせいだろうか。

外のサーバにデータを預けるのはセキュリティ的に不安なような気もするが、自社サーバのセキュリティの状態だって安心かどうかけっこう怪しいようなケースもよく見かけるので、十分なノウハウを持たない会社であればクラウドも選択肢の1つになるのかもしれない。

「アドオン/アドイン/プラグイン」とは

既存のソフトウエアに機能を追加したり、一部の機能を差し替えたりするプログラムのこと。有名どころとしては、ブラウザでFlashやPDF形式のファイルを閲覧するAdobeのプラグインや、WEB開発をしている人に人気のFirefox用アドオン「Firebug」などがある。

一部のユーザだけが望むような細かな機能まで開発元がすべて実装しようとすると、工数が膨れ上がったりバイナリのサイズも大きくなったりと負担が大きい。そこでユーザが機能を追加できるような口を用意しておき、欲しい機能があったら勝手に作ってねというスタンスを取ることで、開発元もユーザも幸せになれることがあるようだ。

アドオン、アドイン、プラグインの3つの言葉はそれぞれ微妙に意味合いが違うと言われている。だが、微妙な違いしかないので、どの機能はプラグインでどの機能はアドインにあたるのかと問われると、よく分からないという結論に至ることが多い。正しい用語を使いたい時は、そのソフトウエアの公式ホームページで使われている言葉を確認しておくことがオススメされる。

例えばFirefoxのホームページではアドオンという言葉が使われている。画像編集ソフトGIMPのホームページではプラグインという言葉が使われている。

アドオンやプラグインはソフトウエアのかゆいところに手が届くようにしてくれるとても便利なものだが、十分な信頼性があるか、重複して導入した場合に競合しないかといったことは、使ってみないと分からない。アドオンを大量に追加したらアプリケーションが頻繁に落ちるようになったという話を聞くことも多いので、安定性を求める人はあまり入れ過ぎないほうが良いかもしれない。

「フリーソフトウエア」とは

フリーなソフトウエアのこと。

何を持ってフリーとするかは諸説分かれるところだが、一般的には「無料で使えたらフリー?」といった認識で使われることが多いと思われる。

一般的にはそういった認識で問題ないかもしれないが、ハッカーとかギークといった人種が多数生息するシステム開発現場では、うっかりそんなあいまいな認識の発言をしてしまうと、彼らにフリーソフトウエアの歴史からリチャード・ストールマンの生い立ちまで懇切丁寧な説明を聞かされるといった事態が発生してしまう(←実体験)かもしれないので、気を付けたほうが良いもの。

ギークの皆さまが満足するレベルの知識を得ようとすると、コピーレフトやらOSSやらFSFやらそれだけで本1冊書けてしまうような話にあっという間に膨らんでしまうので、筆者にはとても説明できないが、とりあえずフリー(自由)の概念として、「ソースコードが配布されている」、「コードを改変してもよい」「再配布してもよい」などが含まれていることと、上記の条件が満たされていれば、無料じゃなくてもフリーソフトウエアと呼ばれる場合もあったりするといったことを覚えておけば、ギークの皆さまから説教されるといった事態は避けられるのではないかと思われるもの。

「Sun」とは

開発現場で「サン」と言ったら大抵は「Sun Microsystems」を指していると思ってよかったもの。

Sun Microsystemsは、最も需要のあるプログラミング言語の1つである「Java」や、大企業での導入実績も豊富なOS「Solaris」を開発し、LAMP開発などで高いシェアを持つデータベース「MySQL」を保有している。Microsoftの独壇場であるOffice市場に風穴を開ける「OpenOffice.org」なども開発し、IT業界に大きな影響力を持つ企業の1つである。

と、こういうふうに書いているととても経営危機に陥る企業には思えないような気もするかもしれないが、残念ながらそれらのソフトウエア資産が必ずしも利益に結びつかなかったり、本業であるサーバ販売の売り上げが不況によって落ち込んだりしたことが影響して、Oracle社にドナドナと身売りする運びとなった。

Sunのソフトウエアには、エンジニアであればどれか1つは使ったことがあるような有名なものが多いこと、それらが大抵無料で提供されていること、同社が営業力よりも高い技術力を武器にしてきたことなどから、エンジニアからの評判は比較的良い会社であった。 

「Oracle」とは

もっとも有名なデータベース管理システムの1つ、Oracle Databaseを開発している企業。

2008年にアプリケーションサーバ「WebLogic」などで知られるBEAシステムズを買収し、2009年にSun Microsystemsと買収の合意をしたことにより、DBMSだけでなくサーバからOS、そしてそこに搭載されるミドルウエアまですべてを1社で受け持てるだけの資産を持つこととなった。

よほど大きな会社で働いていない限りは、信頼性があり高機能ではあるけれど溜め息が出るほど高額なOracle Databaseを使うことはあまりないかもしれないが、請負や派遣で会社を転々としながら開発をしているエンジニアはけっこう触れることが多いと思われる。

大して重要でもなく規模も小さいシステムがOracle Databaseを使用しているのを見るともったいないなぁと思ったりすることもあるが、逆にオープンソースのDBMSを使うことになった時に勝手の違いに戸惑って「Oracle Databaseは便利だったなぁ」などと懐かしく思ってしまうこともあるもの。

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この連載記事には必ずしも正しいとは限らない内容が含まれています。この記事を信じたことによって発生した障害に対して、筆者及び株式会社マイナビは一切の責任を負いません。ご容赦ください。

※この記事は2007/11/23〜2009/08/28に連載された内容を再構成しています

著者プロフィール:MW(えむだぶりゅー)

Java、PHP、C、C++、Perl、Python、Ruby、Oracle、MySQL、PostgreSQL関連の業務経験がある、典型的な広く浅い役に立たない系のウェブ(時々クライアント)アプリのエンジニア。 週に1日休みがあれば、ほか6日間は終電帰りでも全然へーきな体力と、バグが出ても笑って誤魔化す責任感の無さを武器に、今日も修羅場った開発現場の風景を横目で見ながら、適当に仕事をこなす日々を送る。
著書「それほど間違ってないプログラマ用語辞典」(発行:毎日コミュニケーションズ)

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