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最新技術を生む開発の現場 第3回

三菱重工業株式会社 クリーンエネルギーの大本命!次世代太陽電池で世界をリード 「薄膜型太陽電池」の開発 三菱鉱業株式会社 長崎造船所 太陽電池事業ユニット 事業ユニット長 渋谷修さん(写真右)製造課 主任 山根司さん(写真左)

地球温暖化など環境問題が叫ばれる中、石油・石炭といった化石燃料に代わる自然にやさしいエネルギーとして注目されているのが太陽電池だ。この分野で日本は長年、世界をリードする立場にあった。にもかかわらず、ここ数年で状況は一変。ドイツ、中国などの生産量・導入量が一気に増大し、主導権を奪われつつあるのも事実だ。そんな太陽電池業界で、独自の高度な技術により躍進をめざす三菱重工業・長崎造船所の諫早工場を訪問。太陽電池の現状と未来についてお話をうかがった。

太陽光発電は自然にやさしい最高のエネルギー

今年の夏も、暑かった。強烈に降り注ぐ太陽光線の下、エアコンをガンガンに効かせた部屋で、大画面テレビを楽しむ……と、ふと考えてはみまいか。そう、エネルギーのことを。

いまさら改めて記すまでもないだろう。私たちの地球は、エネルギー問題に直面している。石油を代表とする化石燃料は枯渇の危機を迎えているだけでなく、CO2の排出で地球環境にもたらす負の側面もすでに以前から指摘されているところ。その一方で、人口爆発の問題は深刻度を増すばかり。発展途上国の経済発展も着実に進み、100年後のエネルギー需要は現在の4倍に達すると予測されている。

そこで目を向けたくなるのが、空でギラギラと輝く太陽の存在だ。強烈な陽射しを地球に降らせ続ける、ありがたいお天道様。その光線を利用する発電システムが、太陽光発電である。発電過程でCO2やNOxを排出しない太陽光発電は、まさにクリーンエネルギーの代表格。しかも太陽光線は、空に太陽があるかぎり無尽蔵で、地球上のどこでも平等に降り注ぐ最高の自然エネルギーといえる。

2005年における世界の総発電量は約160兆kWhにもなるが、陸地のわずか0.1%の面積に太陽光発電システムを設置すれば、そのすべてを賄えるという。ドイツ政府の諮問機関による予測では、将来、全世界のエネルギーの大部分が太陽光発電によって供給されるようになるという(図1参照)。

伸びゆくヨーロッパ、そしてニッポンは……

三菱重工の太陽電池工場に設置されている 太陽電池パネル

長崎県諫早市にある三菱重工・長崎造船所の太陽電池工場を訪れたのは、皮肉にも、九州地方に台風15号が最接近した秋の日だった。朝から曇り空、そして雨模様。日照時間がほとんどなく、太陽電池の取材には最悪と思えるコンディションだった。こんな日に発電は無理ですよね?と太陽電池事業ユニット長の渋谷修さんに話を向けると「一日中曇りや雨という日でも、光が少しでもあれば太陽光発電はできるんですよ」との答えが返ってきた。

実は日本は、太陽光発電の世界でリーディングネーションだった。「太陽電池といえばメイド・イン・ジャパン。これがちょっと前までの世界的な常識だったんですが……」。太陽電池事業ユニット製造課主任の山根司さんがそう言った。過去形となっている部分がやはり気になる。

太陽光発電の年間導入量において、日本は2003年まで世界トップの座にあった。しかし2004年には、ドイツが驚異的な伸び率を見せて一気にトップへ浮上。その後もさらに突き放されていく勢いだ。太陽電池の地域別生産量も、日本は2006年まで世界トップをキープしていたが、いまやヨーロッパ諸国の合計量に抜き去られてしまった。国別生産量では2006年実績で日本がまだトップを死守しているものの、これも2位・中国、3位・ドイツが大幅な伸びを示しているのに対し、日本は鈍化あるいは減少傾向。このままでは、首位の座を守るのは危うい状況といわざるをえない。

日本がリーディングネーションから滑り落ちた背景には、原料となるシリコンウエハーが不足したこともあったが、より大きな要因として、ドイツに代表されるヨーロッパ諸国の積極的な補助政策の存在がある。ことにドイツでは「フィード・イン・タリフ」(FIT)という太陽光発電の固定価格買取制度が効果を発揮し、太陽電池が爆発的に浸透。農家が農地を転用して太陽電池プラントを設置するなど、太陽光発電の積極的な導入が図られている。この動きはドイツだけでなく、ヨーロッパ諸国全体へ広がる傾向にあり、今後はスペイン、イタリアといった南欧諸国でも太陽光発電のさらなる浸透が進んでいくものとみられている。

一方の日本はといえば、ここ数年の補助金撤廃や国の支援政策打ち切りなどによって生産・導入がともに伸び悩んだ。そもそも日本はエネルギー政策について「政府が主導的な立場にならず、電力会社におまかせという伝統が強いんです。それが海外に対して競争力を失っている一因であることは、やはり否めません」(渋谷さん)。そういう現状にあるため、太陽電池業界では国の積極支援を期待する向きが大きい。はたして今後、国レベルで太陽光発電にどう取り組んでいけるだろうか。

太陽光発電のメリットは、やはり「太陽のおかげ」

太陽光発電のメリットとはどのあたりにあるのだろうか。山根さんに聞いてみた。

「やはり、永続的かつ膨大な太陽エネルギーを利用するため、クリーンで環境にやさしいというのが最大のメリットになるでしょう。太陽光が当たるところであればどこでも発電できます。また、太陽電池は長寿命で、一度設置してしまえばメンテナンスがほとんど要らないというのも大きなポイントですね」

地球温暖化をはじめとする環境問題が叫ばれる中、時代の……いや地球の要請にフィットしたエネルギー、それが太陽光発電というわけだ。

そもそも太陽電池には、大分類として「シリコン系」と「化合物系」がある。現在実用化されているのは主にシリコン系。シリコン系太陽電池の原理は、シリコン半導体で構成された膜を含む太陽電池パネルで太陽光を受け、発電する。太陽光を受けると電圧を生じるシリコン半導体の特性を利用したものだ(図2参照)。

シリコン系太陽電池はさらに「結晶型」「薄膜型」の2種類に大別される。現時点で世界の太陽電池メーカーの趨勢としては、前者の結晶型(単結晶型・多結晶型)が主流となっている。一方、三菱重工が取り組むのは薄膜型だ。薄膜型には「アモルファス型」と、アモルファスに微結晶シリコンを組み合わせた「微結晶タンデム型」があり、三菱重工はその双方を手がけている(図3参照)。

三菱重工では、まずアモルファス太陽電池に着手。ここ長崎造船所の諫早地区に2002年、アモルファス工場が建設され、生産が開始された。2007年にはアモルファス工場の増設と微結晶タンデム第1期工場の建設が行われ、生産開始。さらに2009年には微結晶タンデムの第2期工場が稼働する予定となっている。山根さんは微結晶タンデム電池の製造プロセスの開発に携わり、電池性能を日々調整・評価する仕事を担っている。タンデム第1期工場については工場建設計画開発時から関わってきた。

現在主流の結晶型に対する薄膜型のアドバンテージは?

アモルファス太陽電池で使うアモルファスシリコン膜は、厚さがわずか0.3μmで、人間の可視光域にほぼ相当する短波長の太陽光を受けて電圧を発生させる。アモルファス太陽電池のモジュール(パネル)は1.4×1.1mのサイズで、動作電圧は100V、1枚あたりの最大出力は100Wだ。これに続いて生産が開始された微結晶タンデム太陽電池は、アモルファスシリコン膜に加えて、厚さ2μmの微結晶シリコン膜も備える。微結晶シリコンはアモルファスよりも長い波長の太陽光をとらえるため、変換効率が高くなる。このため、パネルのサイズと動作電圧はアモルファス太陽電池とまったく同じでありながら、1枚あたり最大出力は130Wと、アモルファスの1.3倍の発電性能を実現している(図4参照)。

微結晶タンデム型太陽電池パネル

薄膜という名の由来は、要はシリコンの膜(層)が薄いということ。結晶型太陽電池では、300μmほどの厚さのシリコン膜を使う。前述のように薄膜型はアモルファスが0.3μm、微結晶シリコンが2μmだから、原料となるシリコンの使用量で比べると、結晶型の1000分の1から100分の1程度で済むわけだ。現時点でシェアの大勢は依然、結晶型にあるが、現状は現状として、今後は状況が変わってくると山根さんは指摘する。

「有力な根拠としてまず挙げられるのが、シリコンの問題です。原料となるシリコン量が少ないということは、原料の確保という面でも有利ですが、それ以上に製造時のエネルギー消費が少なくなるため、CO2の削減効果が大きいというメリットがあるわけです」

薄膜型の優位性は、「エネルギー・ペイバック・タイム」(発電システムの製造過程などで必要とされるエネルギーをそのシステムが発電するエネルギーにより何年で回収できるかを表すもの、EPT)にも表れる。結晶型(多結晶型)はEPTが2.2年であるのに対し、薄膜型(アモルファス型)は1.4年。より短い期間での回収が可能というわけだ。総じて薄膜型は、環境負荷が低い太陽電池の中でも、とりわけ環境にやさしいシステムであるといえる。

薄膜型が有利な点はほかにもある。太陽電池は根本的に高温環境が苦手で、夏季には発電性能が低下するのが常識。その事情は結晶型でも薄膜型でも同じだが、薄膜型は結晶型に比べて高温時の性能低下が少なく、電力需要がとくに多い夏場でも結晶型より高い発電効率を持つという特性がある。このため同一出力で比較すると、結晶型を100%とした場合、薄膜型ではアモルファスで110%、微結晶タンデムで105%の年間発電量を得ることができる(図5参照)。「とりわけ日射量の多い東アジア、東南アジア地域や、ヨーロッパでもスペイン、イタリアといった南欧では、薄膜型が優位性を主張できる状況にありますね」と山根さんは語る。

三菱重工の薄膜型太陽電池においては、同社が誇る高速製膜技術が大きな強みとなっている。シリコン膜を製造する際、製膜速度を高速にすればするほど生産量が増えていく。従来の半導体技術の延長として太陽電池を製造するメーカーでは、一般的に13.56MHzという周波数帯の高周波電源を用いて製膜が行われているが、三菱重工では高度な技術により、60MHz帯高周波電源の利用を実現。この高速製膜技術を用いた独自開発の星型プラズマCVD装置により、「他社に比べ2倍程度の生産量で、かつ品質の高い製品を製造可能な設備」(渋谷さん)を持っているのが三菱重工の大きなアドバンテージとなっている。

太陽電池工場に設置されている星形プラズマCVD装置。 工場内はクリーンルームになっている

薄膜太陽電池と太陽光発電自体の未来はどうなる

もちろん現状の薄膜型には問題点もある。結晶型に比べて単位面積あたりの変換効率が低く(モジュール表面温度25度で比較した場合、結晶型が10〜14%であるのに対し、アモルファス6.3%、微結晶タンデム8.3%)、約1.5倍の設置面積が必要になる。このため、現状では大規模工場の屋根や、農地を転用した巨大プラント、大きなビルの壁面といった広大な設置スペースを確保できる場所での利用に限られ、一般家庭への浸透は進んでいない。

これからの課題としては、やはり変換効率の改良が重要になってくる。そこで実現しなければならない技術的なブレイクスルーが「トリプル」だという。トリプルというのは、現行の微結晶タンデム(タンデム=ダブル)電池よりさらに発電層が一層多いものということ。「技術的にはとても難しいですし、現時点ではようやく基礎研究に入った段階ですので、具体的にいつ実用化できるかは言えないですが、薄膜型で変換効率15%という数値がひとまずの最終目標ですね」(渋谷さん)

薄膜型太陽電池事業における現在から将来へ向けての目標数値については、渋谷さんはこう語る。「(薄膜型で)シェア10%をキープすることです。いずれ太陽光発電の単価が下がり、グリッドパリティ(火力発電など主要エネルギーの単価と太陽光発電の単価が等価となること)を達成できれば、太陽光発電の需要が大きくなり、各国の支援政策がなくても太陽光発電が売れるようになっていきます。2015年に達成できるという見通しもありますが、そのときにシェア10%をキープできていれば、ビジネスとしても大いにはじけるのではないかというのが私たちの考え方です」

日々変化するエネルギーに携われるのが大きな魅力

渋谷さんは、実は転職組。もともと素材メーカーの研究所にいたが、海外のプロジェクト建設に携わりたいとの思いで三菱重工に転職。17年間世界を飛び回り、そのあと機械の管理部門に異動して、太陽電池事業を担当するようになったのは今年の4月からだという。「だから、まだまだ太陽電池については素人です」と渋谷さんは笑顔で言う。

一方の山根さんは、大学時代から太陽電池に興味を持ち、研究をしていた。当然、太陽電池をやりたくて三菱重工に入社したわけだが、「最初は燃料電池に配属されたんです。燃料電池を3年ほどやって、そのあと太陽電池にきて、5年くらいです」。燃料電池に配属されたときは、さすがに「あれっ?」と思ったらしい。しかしそれが三菱重工なのだと渋谷さんは言う。「三菱重工は太陽電池だけをやっている会社ではなく、エネルギーひとつをとってもいろんな道があるんですね。そのいろんな道を経験することで、可能性も広がるわけです。さまざまな可能性を受け入れる大きさがあるのも、当社の良いところです」

もちろんそのさまざまな可能性の中でも、太陽光発電はいまをときめく分野。山根さんも「日々変化していく世界というのが、やはりいちばんの魅力です。変化のスピードについていくのも大変ですけど、すごくやりがいがありますね」と話した。

ヨーロッパでは大規模な太陽電池プラントの設置が進む。左はスペイン、右と中央はドイツの大規模プラント(すべて三菱重工製)

編集後記 〜取材を終えて〜

太陽光発電は、化石燃料に代わるものとして地球の未来に欠かせない自然エネルギー。太陽電池に力を注ぐ技術者たちの努力が結実した暁には、人類の、そして地球の明るい未来がきっと待っている。太陽光発電がいまよりもっと広範にわたって浸透すれば、人類が必要とするエネルギーのかなりの割合を担うことが可能となるだろう。各国・各企業が積極的な取り組みを始めた現状から想像すると、その実現の可能性は低くない。ということは近い将来、広大な太陽光発電プラントが世界各地に建設され、宇宙から見る地球の景色も変わるかもしれない。

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