Elastic CEO アッシュ クルカルニ(Ash Kulkarni)氏(写真撮影:齋藤 公二氏)オランダで設立され、アメリカで上場するElasticは3月10日、自社イベント「Elastic{ON} Tour 2026 Tokyo」を開催、日本法人Elasticsearch代表取締役社長 大谷健氏とElastic CEO アッシュ クルカルニ(Ash Kulkarni)氏が基調講演に登壇し、エンタープライズ検索をめぐる最新動向やElasticの新機能を紹介した。
最近のAIは「文脈をとらえてワークフローをこなしていくような世界に」
大谷氏はまず、AIの活用が広がる中で検索の重要性が増していることを次のように説明した。
「エンタープライズデータに占める非構造化データの割合は90%とされます。また、毎日400エクサバイトを超えるデータが作成されますが、その68%は活用されていないと言われます。そんななか私たちは1日のうち30%の時間を検索に費やしています。AI時代は、時間を使いこなす人が勝者になります。多くのデータから必要な情報を探せるようにすることが重要です」(大谷氏)
そのうえで大谷氏がキーワードに挙げたのが「コンテキスト(文脈)」だ。
「これまでのAIは、何かを聞くと何かを返すという一問一答型でした。ところが最近はAIエージェントを使って、簡単な一問一答ではなく、文脈をとらえてワークフローをこなしていくような世界になってきています。そうした世界では、データだけでなく、データにあるコンテキスト、文脈を提供することが重要です。そのデータから出てくるコンテキストをElasticがお届けすることで、使われていないデータが使われて、速く見つかる。Elasticは、そうした世界をつくっていきます」(大谷氏)

AIがコンテキストを知るために役立つのがElastic
続いて、CEOのクルカルニ氏が登壇し、コンテキストに対する考え方についてこう述べた。
「開発者ならすでにバイブコーディングに取り組んでいるでしょう。開発者でなくてもAIによってさまざまなプロセスを自動化できるようになりました。そこで行われているのがデータを使ったAIによる推論です。重要なことは進化は継続的ということです。これまでのAIは人が介在することが必要でしたが、AIエージェントの登場によって、エージェントが主体的にプロセスを実行できるまでになっています。ただ、AIが自律的に成果を出していくためにはコンテキストが必要です。AIが知るよしもないこと、例えば、組織のなかのオペレーションを正確にこなすにはAIがコンテキストを知る必要があります。そこでこそElasticが役立つのです」(クルカルニ氏)
実際にどのようにしてデータからコンテキストを抽出し、AIに与えていくのか。クルカルニ氏は、こう続けた。
「まずは、バラバラの非構造化データをきちんとリレーショナルDBのように処理できるように、構造化して関連の高いものを引き出していくことが必要です。また、AIを組織の力にするためには、そうしたデータの抽出だけでなく、データのパイプラインを作り、ベクトルデータベースに格納したり、ハイブリッドな検索ができるようにする必要があります。AIモデルの再評価やMCPへの対応、AIエージェントの開発も必要です。LLMのオブザーバビリティ(可観測性)も必要です」(クルカルニ氏)

AIエージェント管理とワークフロー機能などを備えた「Elasticsearch Platform」
こうしたデータの投入、処理、格納、検索、可視化、AIエージェント管理とワークフロー機能などを備えたプラットフォームとしてElacsticが提供するのが「Elasticsearch Platform」となる。「AIにどのようにコンテキストを与えるかが重要です。この取り組みをコンテキストエンジニアリングと呼びますが、Elasticsearch Platformは、適切なコンテキストエンジニアリング開発に必要な要素をすべて取り揃えたプラットフォームです」とクルカルニ氏は強調した。

その上でクルカルニ氏は、Elasticsearch Platformに加わった新機能を「Elastic Search & AI」「Elastic Observability」「Elastic Security」という製品カテゴリーごとにいくつか紹介した。
まず、Search & AIでは、マルチモーダル多言語検索モデル「Jina AI」をElasticの推論サービス「Elastic Inference Service(EIS)」で提供する「Jina on EIS」の一般提供を開始した。EISは、Elastic Cloud上で提供される推論サービスとなる。開発者は、EISに加え、既存のElastic向けのクエリ言語「ES|QL」、Elastic MCPツール、LLMオブザーバビリティ機能などを組み合わせて、AIエージェント開発を効率化できる。

デモでは、Elastic Agent BuilderとElastic Workflowsを用いて、旅行プランを計画するサービスサイト上で、エージェントが旅行コンシェルジュのようにプランを顧客に提案する様子を示した。サービス担当者がElastic Agent Builderを用いて、旅行の行き先や必要な日程を入力し、AIエージェントが連携してさまざまな情報を抽出・整理して、旅行に必要な装備や日程を担当者に提案する。また、サービスの利用者は同じようにプランをAIに質問することができ、担当者が作成したプランを「おすすめプラン」として採用することもできる。AIエージェントを活用することで、日程や装備、天気などさまざまな情報を自動的に検索して、提案されるため、効率良く業務をこなし、顧客満足度も高めることができる。
Observabilityでは、大規模環境においてより多くのシグナルに対応できるようにしたほか、AIエージェントを活用して膨大なシグナルからインサイトを抽出し、解析できるようにした。具体的にはログ解析のAIエージェント「Streams」、重要なイベントを自動的に抽出する「Significant Events」が新たな機能として加わった。
Securityでは、脅威の調査や対処をAIエージェントで自動化するためのワークフロー機能「Elastic Workflow for Security」などが加わった。セキュリティ担当者は検知した脅威の収集や切り分けを生成AIによる要約などを活用して効率化できていたが、膨大な量のアラートに対応するためには手作業や人による判断が必要だった。新たにワークフローをこなすAIエージェントが加わることで、判断や対処、パッチ適用などの効率化も可能になるという。

最後にクルカルニ氏は「Elasticがここまで成長できたのは、ユーザーやコミュニティの支えがあってこそです。OSSカンパニーとしてコミュニティの力を自負していますし、ユーザーこそがElastic自身を作り上げています。AI時代は驚くほど速く進化します。ワクワクする一方、怖さも感じます。Elasticは、プロダクトに投資するとともに、オンラインのライブラリやトレーニングの無償提供にも力を入れ、ユーザー、コミュニティとともに成長していきます」と述べ、講演を締め括った。
業務との関連やプロセスのつながりをコンテキストとして捉え、より上流から全体を把握していくスキルが必要に
AIエージェントがさまざまな作業をこなすシーンが増えてくると、AIエージェントをプラットフォームとして管理したり、AIエージェントにデータを与えるためのコンテキストエンジニアリングの取り組みをしたりすることが重要になる。システム開発者、運用担当者、AI開発者、セキュリティ担当者にとっては、目の前の作業を自動化したり、よりよいコードを書いたりスキルだけでなく、業務との関連やプロセスのつながりをコンテキストとして捉え、より上流から全体を把握していくスキルが求められそうだ。
ライター