
この記事でわかること
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FinOpsとは何か。DevOpsとの関係はどうなっているのか
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技術特化の時代が終わったエンジニアの生き残り方とは
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日立製作所ではITと非ITを融合する課題に挑戦できる
クラウド活用が企業のあたり前となった今、注目を集めているのが「FinOps(フィンオプス)」だ。ファイナンス(Finance)とDevOpsを組み合わせた概念であり、クラウドのコスト管理・最適化をエンジニアリングサイクルに組み込むことで、ビジネス価値の最大化を目指す考え方である。
世界に目を向ければ、Fortune 100企業の97社がFinOps Foundationに参加する(https://www.finops.org/)ほど普及しているが、日本では認知度がまだ低いのが現状だ。そんな中、グローバルな非営利団体「FinOps Foundation」の日本初の拠点である「Japan Chapter」の設立メンバーとして名乗りを上げたのが日立製作所である。
今回は、そのムーブメントを牽引するシニアクラウドアーキテクト・松沢敏志氏に話を聞いた。Linuxカーネル開発から始まり、Japan AWS Top EngineersやGoogle Cloud Partner Top Engineerに選出されるまでに至ったキャリアの軌跡、そして「社会インフラを支えるエンジニアの責任」について語っていただいた。
▶AWSとは?メリットや何がすごいのか、初心者にもわかりやすく解説松沢敏志(まつざわ さとし)氏
(株)日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 シニアクラウドアーキテクト
2007年日立製作所に入社、当初はLinuxカーネル開発に従事したが、2020年日立グループ内にクラウドCoEチームの設立に伴いクラウドエンジニアに転身。AWS、Azure、Google Cloudなどマルチクラウド活用案件の支援を担当。FinOps Foundation Japan ChapterやNew Relic Trailblazerなどのコミュニティ活動を通じた各分野の普及促進にも貢献。エンジニア向けメディアへの寄稿、勉強会などでの登壇も多く、Japan AWS Top EngineersやGoogle Cloud Partner Top Engineerにも選出されている。翻訳書に『クラウドFinOps 第2版』『責任あるソフトウェアエンジニアリング』(いずれもオライリー・ジャパン)、著書に『合格対策Microsoft認定AZ-204』(リックテレコム)などがある。
目次
FinOpsとは何か—コスト削減ではなく最適化を目指す

——最初に、FinOpsとはどのようなものか教えてください。
松沢氏(以下 敬称略):DevOpsという考え方があります。これは、開発チームと運用チームを一体にして開発スピードを上げる考え方ですが、そこにファイナンス(財務)の視点を加えたのがFinOpsです。クラウドは使った分だけ料金が発生するので、コスト管理も開発・運用のサイクルの中にしっかり取り込んでいきましょう、というのが基本的な考え方になります。
——海外と日本の導入状況はどうなっていますか。
松沢氏:グローバル企業は導入があたり前になっています。Fortune100企業のうちの97社がFinOpsの考え方を取り入れていて、特別な企業がやるものではなく、IT、非ITに限らず、どの事業領域の企業であっても必須なものという認識になっています。
かたや国内では、日立製作所がFinOps Foundationに参加した2024年の段階では、FinOpsを導入しているという日本企業は全体の10%にも満たなかったと思います。
——コスト管理において、コスト削減とコスト最適化はどう違うのでしょうか。
松沢氏:削減というと、ただ数字を下げる節約になってしまいますが最適化は違います。エンドユーザーの体験を損なうような改善は最適化とは呼びません。むしろ、今の設計が導入企業の求める品質に対して足りていなければ、コストが上がる選択をすることもあります。それでも「お客様のニーズに対してベストな状態にした結果」であれば、それが最適化です。一概に安くすることだけが答えではないんです。
FinOps Foundation Japan Chapter設立の狙い
——日立製作所がFinOps Foundationに参加し、Japan Chapterを設立した背景を教えてください。
松沢氏:大きく2つの理由があります。ひとつは、日本でFinOpsを広めたいということです。FinOpsに関するコンテンツは全部英語で、学びたい人が言葉の壁に阻まれている状況がありました。それなら日本語で発信できる拠点を作ろうと。
もうひとつは、ビジネス的な側面です。日立製作所はHARC(Hitachi Application Reliability Centers)のクラウドコスト管理サービスとして、FinOpsの支援を2023年からスタートさせ、すでに海外で十数社に提供しています。FinOps Foundationのカタログに正式に掲載されることで、「FinOpsサービスを提供できる企業の一つとして日立製作所がある」と認知してもらえるようになるわけです。
——日本のITカルチャーを変えることも意識されていますか。
松沢氏:変えたい、という気持ちは正直あります。FinOpsの本質は「データに基づいて意思決定する組織に変革する」ということです。経験則や直感だけで動く組織は、どこかのタイミングで必ずつまずくんですね。全員で、データを見ながら議論し、判断できる、そんなカルチャーが広がったらいいな、と思っています。
エンジニアとビジネスを繋ぐ──FinOpsが担う「真ん中の役割」

——最適化を進める上での課題は、お客様自身が何が最適なのか定義できていないということですよね。その場合、どのようにして最適化を進めていくべきでしょうか。
松沢氏:お客様と一緒に探って考えていくことが大切です。たとえば最近、データ分析基盤の最適化に関わる機会が増えています。IoT機器などからデータを集めてきて分析基盤に入れている、でも運用を続けるうちに蓄積するデータが増えてコストがかさんできた、というケースです。
そこで実際に使われているデータを可視化してみると、「このデータ、全然アクセスされていないな」というのが出てきます。そこから「そもそもリアルタイム処理は必要か?1日1回のバッチ処理でいいのでは?」という議論になり、コストを10分の1以下にできるケースもあります。このように、お客様が求めているものを実際のデータを見ながら一緒に考えていくプロセスが大切だと感じています。
——エンジニアにもビジネス側との対話スキルが求められる場面ですね。
松沢氏:まさにそうです。FinOpsは、エンジニアとビジネスの「真ん中に立って繋ぐ」役割を担うと最近言われています。技術だけ分かればいい時代はもう終わっていて、ビジネスサイドのことも理解し、ビジネスサイドを説得できる人が求められるようになっています。
Linuxカーネル開発からAWS Top Engineerへ。松沢氏のキャリアパス

——松沢さんのキャリアの歩みを教えてください。
松沢氏:入社したのは2007年です。当時、Linuxはまだミッションクリティカルなシステムでよく使われていたメインフレームから見るとおもちゃ扱いで、「Linuxなんか危なくて使えない」という認識が強かった時代でした。私が最初に携わったのは、Linuxのエンタープライズ利用に向けた弱点、たとえばネットワークの冗長化やログ機能の強化といった開発です。その後、LinuxのL3サポートエンジニアになりました。
——サポートエンジニア時代に学んだ最大のスキルは何ですか。
松沢氏:重大な障害が発生した時の原因究明能力と、その説明能力です。社会インフラや大規模なサービスに影響が出るような障害が発生した際には、なぜ起きたのか、なぜその対策で直るのかを顧客に分かるように説明しなければなりません。相手はエンジニアだけでなく、システムを統括する責任者や、時には経営トップ層までということがあります。いかに分かりやすく伝えるか、自問自答しながら何度もやり続けました。コミュニケーション力は経験でしか身につかないと実感しています。
——コミュニケーション力を身につける以外にも、日立製作所のような大きな組織の中でエンジニアとしてのキャリアを切り拓いてきた秘訣のようなものはありますか。
松沢氏:上から言われたことをただこなすのではなく、「これは違うんじゃないか」「こっちの方がより適切だ」と思ったことは、ちゃんと上司にも意見を言ってきました。仕事に対するオーナーシップ、つまり「この仕事は自分が責任を持つ」という意識を持ち続けること。それが結果として、やりたいことができる環境につながってきたと思います。
リーダーシップにはさまざまなやり方があるかと思いますが、一般的には、メンバーを引っ張っていく強い人をイメージする人が多いかと思います。しかし、そういう人はやはりごく限られた一握りの人だと思うんです。私のような強くない人は、メンバーにフォロワーシップを持ってもらって、意見を集約して、それをチームの力に変えていくというリーダーシップが向いているように思います。
自分がメンバーの時は、リーダーに積極的に進言してきましたし、その姿を見た後輩たちも私に対して意見を言ってくれるようになっていると思います。
日立製作所の多様なキャリアパス──スペシャリストからアーキテクトまで
——日立製作所でのエンジニアのキャリアパスにはどのようなものがありますか?
松沢氏:以前は、エンジニアとしてキャリアを積むと、あるタイミングでピープルマネジメント(管理職)側に転換するのが一般的なキャリアパスとされる傾向がありました。でも今は、技術を極めるスペシャリストとして成長し続けるというキャリアパスも選べます。特にエンジニアが多い設計部署では、技術でキャリアアップしたいという人が多い印象です。私自身も、可能であれば定年までエンジニアでいたいと思っています。
——HARCチームでの働き方はどのようなものですか?
松沢氏:HARC(Hitachi Application Reliability Centers)は、SREやFinOpsをお客様の組織に導入・実践支援するサービスであり、それを提供するチームとして活動しています。特にFinOpsについては、国内ではまだまだこれから広めていく段階ですが、海外ではすでに十数社のお客様に対してFinOpsの取り組みを支援しています。鉄道、銀行、製造業など、そのシステムが止まったら日本が大変なことになる、というスケールの企業ばかりです。スケールの大きな仕事ができるのは日立製作所ならではだと思います。
エンジニアに求められる社会的責任

——AI時代のクラウドエンジニアに求められる社会的責任とは何でしょうか?
松沢氏:今、クラウドベンダーは全力でAIに舵を切っています。AIサービスはトークンベースの料金体系など固有のコスト構造があるので、「FinOps for AI」や「Tokenomics(Token Economicsの略、1トークンあたりのビジネス価値)」という考え方が重要になってきています。コストを可視化して、いざという時にすぐ動けるようにしておくことが求められています。AIが一気に普及した時に、企業や社会がスムースにAI時代を迎えられる準備をしておく、それがエンジニアの責任だと思います。
また、AIが出力する内容の品質、倫理の問題も重要です。ハルシネーション(誤情報の生成)の軽減、プライバシー保護、バイアスの排除—まさに私が翻訳者を務めた『責任あるソフトウェアエンジニアリング』という書籍のテーマでもあるのですが、こうした観点を、DevOpsのサイクルの中に組み込む仕組みが必要だと思います。AIを使えばコードが簡単に生成できる時代だからこそ、こうした観点が置いてけぼりになりがちです。エンジニアが意識して守らなければいけない部分だと思っています。
——エンジニアとして成長するために、コミュニティ活動はどう役立っていますか?
松沢氏:私自身、AWS、Google Cloud、Azureなどの外部コミュニティに積極的に参加しています。社内だけで活動するよりも、全然違う領域の人たちと話せることが刺激になります。実は外のコミュニティでイベントをやると、気づいたら日立製作所の人が集まってきていたりします(笑)。社内にも勉強会のようなグループはたくさんあるのですが、みなさん外部コミュニティの参加に積極的ですね。外に出ることで技術トレンドへのアンテナが格段に広がりますから。
クラウドエンジニアの魅力とやりがいとは

——日立製作所のクラウドエンジニアとして働く魅力を教えてください。
松沢氏:私が関わる案件は業界を代表するような企業が多いです。鉄道、銀行、製造——「このシステムを止めたら日本が大変なことになる」というスケールの仕事ができるのは、日立製作所だからこそだと思います。また、日立製作所はITだけでなく非ITの分野、インフラや製造業も持っています。IoTセンサーで水道管の異常を検知するシステムや、車のソフトウェア更新など、ITと非ITを融合させるような仕事は、IT特化のSIerではなかなかできない体験です。
——クラウドエンジニアに向いているのはどのような人でしょうか。
松沢氏:技術的な好奇心があって、コミュニティで切磋琢磨できる人。そして自分の意見を持ちながら、チームとしていいものを作っていこうという意識のある人です。クラウドは本当に動きが早い。キャッチアップし続ける覚悟が必要ですが、世の中の最先端トレンドの中から自分が興味あるところを見つけて食らいついていくことができれば、それ自体がその人のキャリアになっていきます。
——エンジニアとして、これからどんな自分を目指したいですか?
松沢氏:5年後・10年後に何をやっているか、正直わかりません。Linuxをやっていたらコンテナになってパブリッククラウドになって——気づいたら全部地続きで進んできました。ただ、どの時代においても「その分野のトップエンジニア」と言われるような存在でい続けたいですね。新しい技術が生まれたら、そこに食らいついて足掻いていると思います。
<編集後記>
「特定の技術だけ知っていればいい時代はもう終わり」——松沢氏のこの言葉は、これからクラウドエンジニアを目指す人に、最も刺さるメッセージかもしれない。かといって、「フルスタックエンジニアを目指しているのですか」という問いには「そういう意識はあまりなかった」と言う。
松沢氏の中心になっているのは「顧客企業が、データに基づいた客観的な意思決定ができる組織に変革するお手伝いをすること」であり、それに必要な最先端技術を学び続けてきた。軸をしっかりと定めた上で、それに沿って最新技術を学び続けていく。それがエンジニアとして成功するパスになっている。
そして、そのようなキャリアパスを実現するには、技術的選択肢が広く、最新技術にコミットし続けるカルチャーを備えた環境が必要だ。自分が描くキャリアパスを実現できる環境が整っているか、そういう観点で企業選びをすることも大切になってきている。
撮影:株式会社ブリッジ
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