注目記事

グーグルとアップルが描く AI エージェントの未来——その時に必要なエンジニアの視点と スキルとは

thumb_google_01

この記事でわかること

  • グーグル、アップルの最新イベントから読み解く両社の AI 戦略の特徴

  • エンジニアが知っておきたい「Google I/O 2026」と「WWDC 26」の情報まとめ

  • AI エージェント時代に期待されるエンジニアキャリアの 2 つの方向性

IT業界における歴史的なパラダイムシフトは、いつもその根底にあるインフラストラクチャーの変革から始まる。

筆者は今年5月と6月、ITテクノロジーのトレンドを牽引する米国ビッグテック2社の開発者会議を現地で取材した。グーグルの「Google I/O 2026」と、アップルの「WWDC 26」だ。オンラインとリアルのハイブリッドで開催された両イベントには、世界中から数多くのデベロッパが熱い視線を送っていた。

昨今は生成AIの進化により、プログラミング経験の浅い初心者であっても見よう見まねでアプリを作れてしまう。誰もがアイデアを具現化できるようになった一方で、プロフェッショナルとしてのエンジニアを目指す人々にとっては、「AIに代替されない自分自身の価値をどこに見出せるか」が大きな関心事になっている。

自律型AIエージェントを発表したグーグル

img_google_01

今年もGoogle I/Oの基調講演には、グーグルの親会社であるAlphabetのCEO、スンダー・ピチャイ氏が登壇。Geminiの進化を語り尽くした。(画像提供:Google)

Google I/Oの基調講演から見えてきたのは、グーグルがAIモデルの「開発競争」から一歩踏み出し、今度は社会基盤として24時間365日休むことなくAIを稼働させる、実用化と運用のフェーズへ完全に舵を切ったという事実だ。このことを象徴する発表が、自律的に思考し並行処理を行うAIエージェント「Gemini Spark」だった。

ユーザーが端末の電源を切った後も、Gemini Sparkはクラウド上で独立して稼働しながら、ユーザーから受けた指示を実行し続ける。例えばメールボックスの監視、カレンダーの調整、複雑なデータの集計といった手間のかかる面倒なタスクを、ユーザーが手を休めている間にAIがバックグラウンドでこなしてくれるイメージだ。

img_google_02

Geminiが進化した最新のAIエージェント「Google Spark」を発表。最初は米国でGoogle AI Ultraサブスクリプションに登録するユーザーから提供を開始する。(撮影:山本 敦)

このAIエージェントを支えるために、グーグルは2022年時点では310億ドルだったAIインフラなどへの投資金額を、2026年度にはその約6倍となる1,800億ドルから1,900億ドルの規模にまで引き上げる。

この巨額なAIインフラへの投資は、その一部が今年4月の「Google Cloud Next 26」で発表された自社開発の第8世代カスタムシリコン「TPU 8シリーズ」として結実している。グーグルによる新しいAI向けシリコンチップは、学習用の「8t」と推論処理に特化した「8i」へとアーキテクチャを切り分けた。

img_google_03

グーグルの独自開発によるクラウドソリューション向けのカスタムシリコンを発表。最新のプロダクトについては推論処理に特化した「TPU 8i」を切り分けて揃えた。(撮影:山本 敦)

巨大なモデルを構築する「学習」と、完成したモデルが要求に応える「推論」とでは、求められる計算処理のアプローチが全く異なり、推論処理には低遅延かつ高効率での連続稼働が不可欠になる。そこで、推論特化型のTPU 8iを導入することで、大規模モデルを低コストで、かつ素速く運用できるようになる。無数のAIエージェントが一斉に大量の推論を行う未来を見据えて、これを継続的に、かつ安定的に提供するためのインフラの要としてグーグルはこのシリコンチップを開発した。

エンジニアリングの観点から見ると、従来は「いかに賢いモデルを作るか」がAI開発の主戦場だった。しかし現在は、AIモデルを圧倒的な低遅延と低コストで動かし続けるノウハウにも競争領域が広がっている。伴って、AIモデルの本番運用を支えるMLOps(機械学習オペレーション)や、インフラの最適化を担うエンジニアの需要がこれからさらに高まることを意味している。

img_google_04

Google I/Oのイベント会場。数多くのテントが立ち並び、GeminiやAndroidの進化に直接触れることができるオープンな雰囲気が特徴だ。(撮影:山本 敦)

Google I/Oの発表では、セキュリティ分野におけるAIエージェント「CodeMender」も注目を集めた。Geminiモデルの推論能力を活用し、ソフトウェアのコードや依存ライブラリを解析。脆弱性の特定から、修正パッチの生成・検証までをAIが自律的に行うというものだ。従来は人間が担ってきたバグフィックスの一部をAIが代替するだけでなく、AIによって高度な「悪意あるプログラム」がかつてない速さで生成される時代においても、これに対抗する重要な役割もAIが担うことになるだろう。

今後、プロのエンジニアに求められるのは単に「コードを書く」スキルだけではない。このようなAIエージェントと二人三脚で開発を進めながら、AIが生成したコードの妥当性を見極める高度なセキュリティの知見や、システム全体を俯瞰しながらアーキテクチャを設計できる能力も、ますます重要になるはずだ。

▶スキルの掛け算で「希少性」を。エンジニアのキャリア設計

img_google_05

Google I/Oでは次世代のAndroidデバイスを披露。秋にはオーディオによるコミュニケーションに特化する、Gemini搭載のスマートグラスを商品化する。筆者もそのプロトタイプをイベント会場で体験した。(撮影:山本 敦)

OSの境界を超えてユーザー体験を統合するアップル

WWDC 26におけるアップルの最大のハイライトは、まったく新しく再設計された音声アシスタント「Siri AI」だ。

img_google_06

9月にAppleのCEOを退任。新しく取締役会エグゼクティブ・チェアマンに就任するティム・クック氏がWWDC 26の開催冒頭、ステージに立って感謝の言葉を述べた。(撮影:山本 敦)

従来のSiriは、ユーザーの音声指示に応答し、検索や簡単な操作を支援するアシスタントとしての性格が強かった。これに対して新しいSiri AIは、第3世代のApple Foundation Models(AFM)を基盤に、テキスト、画像、音声など複数の情報を扱えるマルチモーダルなシステムに進化する。その中核を担うオンデバイスモデルのひとつが最も高性能な「AFM 3 Core Advanced」だ。

重要なのは、Siri AIがただのチャットボットではなく、iOSやmacOSをはじめとするApple OS全体に根ざす対話型インターフェースとして機能することだ。デバイスの画面に表示されている情報を読み取り、ユーザーの意図を理解しながら、必要に応じて複数のアプリを横断してタスクをこなす。「オンスクリーンコンテキスト(画面認識)」の機能もまた強化する。例えばiPhoneに保存した写真の場所をSiri AIが推定して、マップでその場所までの道のりを調べることも可能になる。

これを支えるのが、オンデバイス処理とクラウド処理を使い分けるアップル独自のAIアーキテクチャだ。大きなものは200億パラメータにもなるAFMを、常時そのままのサイズで動かすだけでなく、リクエストに応じて必要な一部のパラメータを選択的に使うスパース・アーキテクチャが鍵を握る。デバイスが搭載するメモリやバッテリーにかかる負荷を抑えつつ、高度な推論を可能にする技術だ。

img_google_07

基調講演に続いて開催された「TECH TALK」では、ソフトウェアエンジニアリング担当シニア・バイスプレデントのクレイグ・フェデリギ氏が次世代のApple IntelligenceとSiri AIのバックグラウンドとなるアーキテクチャを詳しく解説した。(撮影:山本 敦)

さらに複雑な処理については、アップル独自のクラウドインフラである「Private Cloud Compute(PCC)」で行われる。そのセキュアな運用手段もアップルは確立している。クラウドには推論処理に必要な最小限のデータのみを暗号化した後に送り、回答を生成した直後に一切の記録を完全消去する。

img_google_08

iPhoneやMacに長年搭載されてきた「Siri」が、より自律的にユーザーを支援するエージェンティックなアシスタント「Siri AI」に進化する。(撮影:山本 敦)

WWDCでは、これから第3世代のApple Foundation Modelsがグーグルとの協業によりカスタム構築されたことも発表された。中でも、複雑な推論やエージェンティックなツールの利用を担う、最も高性能なサーバーベースモデルが「AFM 3 Cloud Pro」だ。アップルはこのAFM 3 Cloud Proをベストな状態で動かすため、PCCをGoogle Cloud上にNVIDIAのGPUを組んで構成した環境を用意した。グーグルとアップルのコラボレーションは多岐に渡る。

これからのデベロッパは、開発するアプリの性能、あるいは使い勝手を考える際に、自分のアプリがAIエージェントからどのように呼び出され、どの機能を委ねることができるのか、設計を詰めて考える必要がある。

そしてAIモデルの性能だけでなく遅延や消費電力を抑えて、プライバシーとセキュリティ、あるいはコストまでを総合的に俯瞰して、持続可能なサービスモデルにまとめあげる手腕も求められる。Siri AIの進化は、AIを単独の機能としてではなく、デバイスとOS、そしてクラウドにもひも付くユーザー体験を視野に入れて、総合的なシステムに束ねて提供する時代が到来したことを表している。

img_google_09

iOS 27に搭載されるSiri AIに関連する様々な機能をWWDCの取材機会に体験できた。iPhoneのカメラが捉えた現実のオブジェクトなどについて、Siri AIが検索して詳細を教えてくれる「Siriカメラ」の機能が新たに搭載される。(撮影:山本 敦)

▶AppleとGoogle、AI分野で戦略的提携

AIエージェントの時代におけるエンジニアの立ち位置とは

グーグルとアップルのAIへのアプローチは、一見すると大きく異なっているように見える。しかし、両社がともに目指しているのは、AIエージェントが人間の行動をより賢く、自律的に支援する未来だ。これからAI領域のスペシャリストを目指すエンジニアにとって、キャリアの方向性は大きく2つに分かれるだろう。

ひとつは、クラウドや大規模システムの側からAIエージェントの進化を支える道だ。世界規模のトランザクションを処理するインフラ、推論処理のコスト削減、分散システムの構築、異なるAIエージェントや商業システムを安全につなぐ仕組みなど、巨大なシステムを効率よく安定して動かすバックエンドを設計できる人材の重要性はますます高まっていく。

もうひとつはユーザーに近いデバイスやアプリケーションの側から、AI体験の価値を最大化する道だ。個人のコンテキストを深く理解するAIモデルを、スマートフォンやウェアラブルデバイスなど限られたリソースの中で効率よく動かす技術にも期待が寄せられている。AIエージェントからの複雑なリクエストを、OSやアプリと安全に連携させるAPIの設計や、個人データの漏洩リスクを最小限に抑えるゼロトラスト型のセキュリティ設計が重要になる。

▶AI時代に求められるセキュリティエンジニアとは

AIが誰も予測できないほどの速度で進化を続けている。筆者はグーグルとアップル、両社の開発者会議を取材する中で、AIエージェントと実社会を安全かつシームレスに結びつけるためには、個別の技術だけでなく、システム全体を見渡す俯瞰的なアーキテクチャ設計が、これからいっそう重要になることを実感した。

新しいフレームワークやインフラの思想を深く理解し、AIを単なるツールとして使いこなすだけでなく、その基盤の上に次の世代の体験価値を生み出せるエンジニアがこれからの時代を牽引していくのだろう。

ライター

山本 敦(やまもと あつし)
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。最新情報は足で稼ぐことを信条とするIT・テクノロジー系ジャーナリスト。AppleやGoogle、Amazonのデバイスやサービスまで幅広く取材しています。ほかの専門分野は海外は海外スタートアップのビジネス、コンテンツクリエーションのビジネス、アクセシビリティのテクノロジーなど。特に欧州の最新エレクトロニクス事情に精通。外国語は英語とフランス語が話せます。
山本 敦の記事一覧を見る
``