ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ十一不当な扱い。激務。給与カット。 食うためにガンバル彼女はやがてうつ病に……

やりがい、そしてお金。どちらも働く上では欠かせない要素たちです。でも、もしそのどちらもない職場で心をすり減らしていたとしたら……。
激務の果てに、うつ病となってしまったS水さんは、そんな職場で疲弊する一人だったのでありました。

給与未払い……、それ以上に泣けたこと

S水さんが新卒で入った会社は、社員数15名の零細企業。そしてその実態は、社長が顧客から口先だけでかき集めた資本金を、個人的用途に使い込むばかりの、恐るべきゴーイングマイウェイ会社であったのです。
当然、社員は逃げますわね。
そんなわけで、残ったのは未だ逃げる実力を持たない新人たちばかりなり。月250万という家賃の一等地ビルに入居しながらも、社員には給与未払いが常態化。当然、仕事など教えてもらえるはずもありません。
でもやらせるんです。がんばらせるんです。
そんな中、わからないなりに独学で、無理矢理押しつけられたシステムと格闘する、S水さんなのでありました。
そんなある日のこと。
「やっぱ未経験者にゃ荷が重いかぁ」

「こっちでデキル奴見っけたから、君はもういいよ」
社長の口から、そんな言葉が飛び出しました。今までの苦労、がんばり、そんなものはすべて「無駄だったね」と言わんばかりの口ぶりです。
「やらせるだけやらせて、こっちの要請は全部無視しておいて、代わりができたら用なしってか?」
そう思うと泣けてきました。実際、泣きながら帰りました。そして彼女は、翌日辞表をたたきつけ、社を後にすることとなったのでした。

うつ病、そしてリストラへ……

地元密着型の零細企業に鞍替えしたS水さんを待っていたのは、さらに追い打ちをかけるような悪待遇でした。
なんでもこの社長。異業種交流会にずっぽりとはまり込み、やたらとそこから「お友達価格」で案件をひっぱってきちゃうんです。もう自社の利益は常に後回し。受注時点で赤字が決まってるんですから、業績が芳しいはずもありません。
そのツケは?

「売り上げあげてないから、君ら給与カットね」
そう、社員へと回ってくるんです。シャレにならん。マジでシャレにならん。
相次ぐ給与カットで生活に困窮したS水さんは、副業として早朝のバイトを余儀なくされます。もちろん本業の仕事も忙しく、身体が持つはずもありません。
「うつ病」
そう診断された彼女には、やがてリストラという運命が待ちうけることになるのでした。


「独立するからいっしょにやらないか?」
2社目で働いていた時の上司から、そう声をかけてもらったのは、半年間の自宅療養を終えた頃でした。
会社登記の書類作成から二人でがんばり、会社はまだ赤字。でも3年目に差し掛かった近頃では、ようやく黒字化の兆しが見えてきました。
時間単価にすれば、これまでで一番安いと彼女は言います。でも、顧客と顔をつきあわせて働く毎日に、今までで一番やりがいを感じている……とも。
「振り返ってみれば、自分の能力を認めてもらえる環境が欲しかったんだと思う」
今はとにかくこの会社の業務を安定させること。そう心に決めて、彼女は今日もがんばっているのでした。

オチの一コマ
本日の一句

幸あらんことを! そう願わずにはいられない体験談でした。
コンプレックスに潰されそうになるのは、自分もよくわかるところです。それを誤魔化そうとして、自分自身から目を背ける……なんてのはありがちな話ですよね。
ところがS水さんは、自分をしっかと見据えて踏ん張ってる。潰されそうな自分を自覚しながらも、なお自分自身の力で心の支えを作り出そうとしている。
すげえ、と思いました。
この先、彼女が積み上げていくであろう社会人生活の一歩一歩が、その血肉となり、支えになりますように。そう願ってやみません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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