ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ六十二「システムの仕事がしたい」「もっと追求していきたい」その気持ちだけを頼りに、彼女は道を切り開く

一般に「35歳定年説」なんてものがまことしやかにささやかれるこの業界。ところがその35歳を過ぎてから、逆にこの業界へと飛び込んできたT橋さん。
なにが彼女をそうさせたのか、そしてその選択はどんな結末に至るのか。
そんな今回の体験談です。

パート時代の体験が、SE職へと導いた

一般事務のOLとして働き、職場結婚で専業主婦に。やがて第一子をさずかり出産。その後は事務やデパート販売員などのパート仕事に就いていたT橋さん。
「この時に、事務員のおばちゃんたちといっしょに仕事をしてたんです。実際のシステムは彼女たちが入力作業を行います。バグ持ちのシステムや妙な仕様の表計算ソフトを使わされたりしても、その人たちは決して文句を言わず、質問もできない環境の中で黙々と作業をしてるんです」
そう語る彼女は、その後離婚を経験します。さらに白血病を患い、子どもを抱えながら5年にわたる闘病生活。その苦難を乗り越えて、「いざ職探しを」となった時、彼女の選んだ道は「SE業界への転身」でした。
「パート勤務当時いっしょに仕事したおばちゃん事務員さんたちが、『便利になった、やりやすくなった』と、そう思ってくれるシステムを設計したくて」
T橋さんは職業訓練校に入り、COBOLを学び、新聞の折り込みチラシで見つけた会社に入ります。37歳のことでした。
しかしその後ワケあって退職。2社目の会社へと移った後で、話は冒頭のマンガへとつながります。 そう、T橋さんの苦難の道は、まだまだ続いていくのです。

きっと私を必要としてくれる現場はある!!

T橋さんが勤めていた会社は、社員数20名ほどの小さなとこで、すべてのSEさんが、それぞれ2~3以上のプロジェクトを掛け持ちしているのが普通でした。誰も彼もが必死。余裕のない状態で働いています。そんな中ですから、彼女を懇切丁寧に指導できる環境など、あろうはずもありません。
「訓練校卒業の時、先生から『3年業界にしがみつけ、そしたら経験者として仕事にあぶれなくなるから』と言われたんですが、3年経って顧みたら、まったく一人前になれていない自分がいて……」
4年目になった時、彼女に「詳細設計書を作れ」という仕事が下りてきました。しかしまるでわからない。五里霧中の中なんとか形にはしたものの、レビューではボロボロで非難の嵐。泣きながら毎日毎日設計書に直しを入れるものの、それも功を奏すことなく、やがて1行もドキュメントを書けなくなってしまいます。
「それでも無理矢理出勤しようとしてたら、朝ホームで飛び込みたくなってきて」
怖くなったT橋さんは、こうして退職を決意します。年齢は、すでに40歳を越えていました。
その後のT橋さんは、「なんでもやる」の姿勢で、いくつもの派遣仕事を渡り歩いたといいます。
「どこかにきっと自分を必要としてくれる現場があるはずだ」と、そう信じて、そして「もっと続けたい、もっと自分を高めたい」の一心で、他人になにを言われようとも、システム開発の仕事のそばにしがみつき続けます。
彼女が正社員、もしくは契約社員を条件に仕事を探し、実際に就職口を見つけるまで、3年の月日を要しました。
「今は契約社員として、銀行系のシステム保守開発に携わることができています」
その現場では、開発よりも付随する事務作業が膨大で、だからこそエンジニア以外の社会経験が生きてくるのだとか。
「根拠もなく信じていた、“自分を必要としてくれる現場”にやっと出会えたと、そう感じています」
そう語るT橋さん。もちろん今の仕事は、「満足」の2文字だそうです。

オチの一コマ
本日の一句

なんというか、すごいな……と。まぎれもなくこの人はこの人の人生を生み出していると、そう思える体験談でした。
どちらかというと不器用な人の話なのかもしれないです。だからこそ「単に会社を替えました」だけの話じゃなくて、そこにしがみつき続けてきた気持ちを、彼女自身の歴史とあわせて感じて欲しい。心からそう思います。
「必ず道は開ける」と信じてがんばり続けたT橋さん。そんな彼女が言うからこそ、「道は開ける」という言葉に重みを感じずにはいられません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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