ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ六十四私は名ばかりの管理職。「やるしかない」と迫られ続けて、身体を壊す危機を知る

右肩下がりの業績におののき、無理を承知で「やれ」と言う。がんばってがんばって片付けてみたら、「やればできるじゃないか」とまた無理を言う。
その繰り返しが延々続く無間(むげん)地獄。
今回のS谷さんは、「プログラムが組める」という社内唯一のスキルが災いして、そんな無間地獄送り要員にと白羽の矢をたてられてしまいます。
果たしてその先になにが待つのか。聞いてて胸が苦しくなる、そんな今回の体験談です。

自宅療養のつもりがなぜこんなことに

どれだけ残業をしても、管理職であるがために残業代は0(ゼロ)。そんなS谷さんの立場につけこんで、取締役はわんさと仕事を流しつづけました。
「もう無理です」
何度も言いました。
「せめて外注に出せる金額で取ってきてください」
さらに追加で、またあり得ない金額の仕事が2件、天から降ってきました。
そんなことが延々続いて、とうとう入院する羽目になったS谷さん。見舞いにきた取締役は、彼にこう告げたといいます。
「なにも心配するな。ゆっくり休め」
さすがに対策を取ってくれたんだ……と安心したS谷さんでしたが、予定より早めに退院し、自宅療養しながら少しずつ復帰を果たそうとした彼の目に映ったのは、「ぶっ倒れて入院する前のまま放置された」仕事たちだったのです。
あ、「遅れます」と“連絡だけ”はしてくれてたそうです。どれぐらい遅れるかの説明もなしなので、当然客先はカンカンで、「自宅療養? なにそれ?」ってな案配に、S谷さんはまたまた無間地獄の闇に飲み込まれていくのでした。

「やるしかない」の先にあるものは?

1年が経ちました。
「やるしかないんだ、やってくれ」
「死ぬまでやれとは言わない。でもやってくれ」
「去年以上にがんばってくれ」

取締役とのやり取りは、その間もまるで改善には向かいません。いえそれどころか、ぶっ倒れて、入院するまで行った、それよりさらにがんばれと。
もう、S谷さんの頭は真っ白でした。
その後も、さらにS谷さんはがんばり続けました。しかし、そんな彼の目の前で、取締役は「忙しいんだ」と言っては余暇のゴルフに出かけたりするんですから、たまったもんじゃありません。
「限界にもほどがある」
血便は止まらず、極度の貧血。急性胃炎。食事も喉を通らず、食べても吐いてしまう始末。救急で運び込まれることも2度3度。
「会社を辞めます」
いよいよそう決心したS谷さんですが、それに対する取締役の言葉は辛辣(しんらつ)なものでした。 「考え直せ、自分さえよければそれでいいのか」……と。
その後も、退職時期を遅らせる羽目になったり、手元の仕事を退職後も自宅でやる羽目になったり、それに対して支払われるはずの報酬が反故(ほご)にされたりと、もめ事のタネは尽きません。
そしていよいよどうなったのか。
取締役自身が、「あまりに問題あり」として、会社を追い出される羽目になりました。
その後、S谷さんのもとには、前職の社長や同僚たちから「戻ってきてよ」とラブコールが押し寄せたといいます。
「その頃は短期の派遣仕事をしてたんですが、今は同じ会社に戻りました。経営はやはり厳しく、先行きに不安もありますが、すっかり体調もよくなりましたし、人間らしい生活ができています
自分の意見も通せるし、納得しながら仕事が進められる。そんな生活に満足を覚えるS谷さんなのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

「心身の健康を損なう前に、自分の身体第一に考えて行動してもいい」
ほんと、この言葉に集約されていると思います。
退職を申し出た時、良心に訴えかけて改心を迫るケースはままありますが、「お前が言うな」的ケースが多かったりもするんですよね。誰のせいでこうなってると思っとんねんと言いたくなるような。
自分を守るのはやっぱり自分。長く働くためにも、ご自愛くださいというほかありません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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