ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ七十四足の引っ張り合いが、評価につながる社風です。心身ともに疲弊して、やってられっかと飛び出した

他社との競争よりも、社内の競争に精を出す社風。同僚を助けるよりも、蹴落とした方が、自分の評価が高まる仕組み。
意図したわけではないでしょうが、H部さんの働く会社では、そんな仕組みが出来上がっていました。おかげで社内には、なんとも言えぬ閉塞感が漂っていたわけですが……と、そんな今回の体験談です。

孤立無援、悪循環にはまり込んだ会社にて

大学卒業後に新卒入社して、勤続10年をゆうに超えるH部さん。彼が転職を強く意識したのは、30代半ばを過ぎたあたりのことでした。
「低コスト・高品質・短納期という矛盾した要求と、果てしない障害対応に心と体が疲弊(ひへい)しまして」
人や物をアサインする権限はなく、けれども短納期で高品質で……と求められれば、自分自身を投下し続けて片付けるほかありません。しかも業務を知らない人間が設計したシステムがアチコチで火を噴いており、その障害対応にも追い回される始末。
けれども「誰かの評価が下がると、自分の評価が結果的に上がることになる」という相対評価システムをとる会社であったため、誰も現状を打破しようなんて思わないのです。評価対象外の業務に手を出すことは、自分の給与を下げる結果にしかつながらないからです。
極力自分の仕事を狭い範囲に押し込めつつ、減点を避けることのみに汲々(きゅうきゅう)とする。それがこの会社の現状でした。
孤立無援。まじめに仕事をしようとすればするほど、頭の中に踊るのはその言葉でした。
「それで、転職サイト、人材紹介会社に片っ端から登録しまして、興味のある会社に応募していきました」
こうして、H部さんの転職活動ははじまりました。重視したのは「運輸物流系でのSE経験を生かせること」「勤務地は福岡であること」の2点。あ、あと「体を壊さなくて済む健康的な仕事」も加えた3点でした。

「勤務地は福岡」にこだわるのだ

現職を続けながらの転職活動でしたが、新しい職探しは思いの外難航しました。
「やりたいことや労働環境など、自分が希望する条件の優先順位にこだわりすぎると、応募可能な企業自体が減ってしまって、本当に転職できるのかなと不安になりました」
特に勤務地の問題が大きくて、「東京ならば紹介可能な企業がたくさんある」とは、人材紹介会社の方からも再三再四言われたそうです。それでも「勤務地は福岡」にこだわり続けたH部さん。応募企業は約40社。結局彼の転職活動は、ゴールにたどり着くまで1年半もの期間を要することになりました。
「長丁場ではありましたが、社内に転職支援制度があったので、面接の日程調整なんかはそれでずいぶん助かりましたね」
そんなH部さんの新しい職場は、とある施設の経営・管理を行う会社の、物流管理部門です。彼の物流業務知識やSE経験を評価したうえで採用を決めたというだけあって、H部さん自身が望んでいた「前職の経験を生かせること」も存分に満たされているのだとか。
「今はSE経験を生かして、業務のシステム化提案をいくつか行っているところです。若い会社なので流れが速くて溺れそうにもなりますが、日々成長できてる気がします」
転職から1年以上が経ち、H部さんは現在40歳。幸い現職の仕事に不満はないので、「年齢的にも再就職は厳しそうだし、できればこのまま定年まで勤め上げることができるといいけどなあ」と、そんなふうに語るのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

そういえば昔ですね、ある企業の人事担当者さんが、自社の人事システムの問題点を指摘している本を読んだことがあります。けっこう売れた本だったんですが、やはり評価システムをこっぴどく書いてました。「これが崩壊につながった」みたいな感じで。
今回の体験談を読んで改めて、評価システムの出来が人材を殺すことにもつながるんだなと、今さらながらそんな事実に怖さを覚えたり。
そのような中にあっても、ちゃんと後に生きる経験を重ねて転職を果たしたH部さん。
ただただ「お疲れさまでした」と言うのみであります。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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