ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ七十六「もっとキビシイ現場で頑張らねば」そう思って選んだ現場で、やってしまった責任放棄

人に恵まれた、温かい職場。毎日が充実しているんだけど、ふと湧き上がるのは「オレ、ここで温々してて大丈夫なんだろか」という不安。ありますよね、分かりますその気持ち。
やはりそんな不安に駆られたM上さん。「よりキビシイ現場で頑張ってみる!!」と臨んだ彼に待つ運命は?
そんな今回の体験談です。

ある朝とったあり得ない行動

「よりキビシイ現場で」と考えたM上さんは、その気持ちを自社の営業に伝えました。営業サイドとしても、日頃「1つの現場に長く置くのではなく、いろんな現場に出向させて経験を積ませたい」と考えていたもんだから、これはまさに渡りに船。ほどなくしてM上さんの新しい出向先が決まりました。
ただ、内容を見ると明らかに未経験の分野なのです。「これは難しいんじゃないか」と思って上司に相談してみても、彼からは「ノリで決めちゃったんだよね」「大丈夫大丈夫、できるって言っちゃえばいいんだよ」なんて無責任な言葉が返ってくるばかり。
正直ショックでした。ことここに至ってはやってみるしかないんですけどショックでした。
そんな不安を抱えながら臨んだ新しい出向先は、基本設計書すらまるでない現場でした。いや、あるにはあるんですけど、版が古すぎて実状に合っておらず、まったくアテにならない代物だったのです。
仕事はプロジェクトリーダーさんとの2人体制。質問をしても「オレだってこれのシステムはじめてなんだから、聞かれても分かんねぇよ」「ちっとはてめえの頭で考えろよ、使えねえな」と、にべもなし。毎日が罵声(ばせい)だらけです。
「自分はなんでこんなにできないんだろう」
「1年半もやってきたのに、自分はいったいなんなんだろう」
頭の中は、いつもそんな言葉がグルグル回るばかり。M上さんはどんどん追い詰められていきました。 ある朝のこと。
「ダメだ、行けない」
M上さんの心は、いきなりそんな衝動に覆い尽くされました。ふっと心の針が振り切れてしまったのです。
……出社拒否
その日から数日。彼は一切の連絡を絶ち、電話が鳴ってもひたすら無視を続け、ただただ部屋にこもり続けたのでした。

ありのままに、そのままに

「どこまでも逃げてしまおうと思った」
出社拒否の間、M上さんはそんな風に考えていたといいます。実際にはそういうわけにもいかず、ご両親の元にまで連絡がまわり、賠償金うんぬんの話まで飛び出して、退職の手続きをしに自社へ行った時には、それはもう散々なお叱りを受けたそうです。
それからのM上さんは、貯金を切り崩しながら、プログラミングの勉強をしたりして毎日を過ごしました。
「逃げ続けた自分が今ここにいる」
「その現実をなんとか振り払いたい」

そんなことを思いながらの毎日というのは、決して快適なものではありません。事実M上さんは、退職の1週間後には「再挑戦しなきゃ」と強く焦っていたと言います。でも踏み出せない。そのままずるずると、4カ月ほどが過ぎていきました。
特になにかきっかけがあったわけではありません。時が経って傷が癒えたのか、はたまた時間が焦りを大きく膨らませたのか、M上さんは転職サイトに登録を済ませ、IT関連企業に狙いを絞って転職活動をはじめました。
面接では、前職の退職理由もすべてありのままに話しました。やはり良い顔はされず、「もう逃げない?」などと聞かれたりもしましたが、予想に反して早々に内定が下り、彼の転職活動は2週間ほどで終わりを迎えます。
では、その新しい職場ではどうなのか。
「人に恵まれています」とはM上さん。
「キビシイながらも頼りになる先輩がいて、その人が色々と指導してくれることで、日々自身の成長を感じることができている」のだとか。
「あと、思ったほどダメダメな自分ではないみたいだ」とも思えるようになり、少しばかりの自信と共に大きな満足感を持って、日々プログラミングに勤(いそ)しんでいる。そんな生活のM上さんなのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

やはり経験というのは、それを次に生かしてこそのモノなんだなと、そう感じた体験談でした。
ひとつ所に居続けたことで、「自分がほかでも通用するか」と不安を抱くのはままあることです。その現実に目を伏せず、結果として逃げることになった。
そのこと自体はほめられることじゃないですが、けれども「それがあったから」こそ今のM上さんがあるとも思うのです。
きっとこの経験は、今後の彼の支えになるだろうし、後輩ができた時にも生きてくるんだろうなと、そんなことを思ったりするのでした。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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