ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十四日本は不況でチョー大変? だったら不況じゃない国に行けばいいじゃない

最近不況ですねーっと言っても、その言葉が指し示す範囲はさまざまです。
社内だけか、その地域周辺か、それとも県内全域か、いやいや地方全体か?
今なら日本全体ですね。
じゃあ、その指し示す範囲外に出ちゃえばどうなるでしょうか……。
国境を越えちゃえば、日本が不況であっても関係ない。シンプルでありながら実行が難しいこの事実。今回は、それをさらりとやってのけちゃったT良さんの体験談なのであります。

日本での転職は最初から考えませんでした

時は2009年初頭。ダイビングを趣味として、AV機器なんかの組み込み系開発に精を出す……そんなT良さんも、この度三十路前となりいろいろ思うところが出てきました。
通勤の関係でかれこれ7年間、ずっと都内のホテルに仮住まいをしています。出張費がたくさんもらえると喜んでいましたが、そろそろこれは良くないんじゃないかと、いい加減地に足をつけて生活したいじゃないですかと、そんなことを思いはじめていたのです。
「しかも自社を見れば、その周辺はヤンキーがやたら多い地域なわけですよ。ここで一生暮らすのかと自問したら『ムリ!』のひと言しか出てこなくて」
こう見えてもT良さん。社内ではそれなりに期待されている立場でした。しかし!
「早期退職者募集の話が社内で出たのを機に、タイで転職活動することに決めちゃいました」
その決断力!  勇猛果敢な行動力!  そこにシビレル憧れるぅ……ってちょっと待って、なんでタイなんですか?
「実は海外に目をやれば、国内と違って今でもIT系の求人って多いんですよ」
彼には、趣味のダイビングでアチコチの海をバックパッカーとして渡り歩いてきた土地感覚がありました。その彼の分析によると「ダイビングが気軽にできて、ソフトウェア産業がさかんで、かつ物価が安いアジア圏……という条件で絞り込むと、残るのはフィリピンかタイになるんですね」なのだそうな。
そして「ご飯のおいしいのはタイなんです」という理由でタイに決定!
実にまったく明快至極。そこにシビレテ憧れます。

訪タイの末に職ゲットーーー!

「いざ転職!」と決めても、いきなり辞表を出したわけではありません。
「以前バックパッカーで滞在した時に登録だけしておいたので」というタイの人材派遣会社に連絡を取り、とりあえず紹介してもらえる先をあたりました。
結果、返ってきたのは3社。
「職歴から言うと10社程度行けるらしいんですが、英語力がネックだったみたいです」
それでも口はあるということなのでさっそく訪タイして面接を行い、うち1社から内定をもらいました。
面接した3社のうち1社は「ロン毛茶髪に金メッシュ」というフリーダムな格好が受けいれられなくてNG(本当は髪を切ったりしたかったが、そうすると在籍中の会社に転職活動がバレるので切れなかったんだとか)、もう1社は英語力ではじかれたそうです。
なにはともあれ、新しい職場は決まりました。さっそく彼は退職手続きを済ませ、新しい会社に通うためにと、タイへの移住手続きも済ませ、1カ月後の勤務開始日に向け……って、1カ月後? それまで何をしてるんでしょうか。
「1カ月の間に何をするかは前から決めていたんです。ダイビングのプロライセンスを取るために、タイのタオ島でインターンして過ごしてました」
なるほど、ここでも実にシビレます。

タイには日系企業の工場が多いらしく、T良さんの新しい職場は、それらを対象とした生産管理や購買・会計システムなどを手がけていました。当たり前ですが、一緒に仕事をしている同僚は90%以上がタイの人。ただ残り10%は日本人なのだそうな。
さてT良さん。転職活動を振り返って次のように語ります。
「タイで働くことができるようになったので、この会社には感謝しています。ただ、組み込み系の開発にやはりこだわりたいので、英語力をつけたあとで、そっち系の現地企業にアタックしたいと考えています」
どうやら転職自体はバンバンザイな結末……ではなかった様子。しかしタイという国に来たことは、なんら問題でもない感じです。
この先T良さんが、この国でどんな物語を紡ぐのか。きっと楽しい後日談となるに違いないと、そんな風に思うのでした。

オチの一コマ
本日の一句

普通の人が壁としてためらうところを、なんの痛痒(つうよう)も感じずするりと進んでいってしまうT良さん。爽快さを感じるとともに、憧れに似た気持ちを抱いてしまったのは私だけでしょうか。
なにかにこだわると、それが自分の世界を狭める要因になってしまう。頭の中では理解しながらも、いかに自分は自分を狭い井戸に押し込めてしまっているのか。そんな風に思えてしまった、シビレまくりな体験談でした。
あ、ちなみに冒頭4コマの下心うんぬんは、本当に勝手な創作なので、どうかスルーしてくださいね。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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