転職バーのハルカさん(12):感化しちゃうぞ☆――ブラックもホワイトもあっという間に慣れるもの

「ブラックだ」とウワサの「クロクロソフトサービス」にお試し就業した「シュウヘイ」。毎日竹刀で脅かされて、営業ノルマを課せられて――「エンジニアの転職」がテーマの連載なのに、妙な方向に爆走中!!!

転職バーのハルカさん@IT自分戦略研究所編集部×マイナビ転職

登場人物

シュウヘイ
そこそこの大学を出て、そこそこのITベンダーで働く、そこそこのシステムエンジニア。給与とやりがいの持てない仕事や失敗の責任を部下に押し付けて逃げるばかりの上司に嫌気が差し、同業他社への転職を目指している

ハルカさん
「転職バー ハルカ」のバーテンダー。人の匂いからその心理や行動、未来まで見抜く特殊な能力を持ち、店を訪れる客の相談に乗っている

黒ハルカさん
悪徳転職コンサルタント。シュウヘイをブラック企業に売り飛ばそうとした前科あり。ハルカさん(白)のいとこであり、彼女の弟のことも何か知っているらしい

サディスティック・ミミ
ハルカさん(白)の幼なじみの保育士。ハードなファッションに身を包み言動も乱暴だが、園児や保護者たちの人気者

黒田シロウ
「クロクロソフトサービス」営業部主任

前回までのあらすじ

「転職バー」のバーテンダーハルカさん(白)の弟は、ブラック企業につぶされてひきこもりになったらしい。

彼女の幼なじみの「サディスティック・ミミ」から「弟を勇気付けるために会ってみないか」と提案されたそこそこのエンジニア「シュウヘイ」は、情報収集のために「クロクロソフトサービス」の黒田を呼び出した。面会の理由を聞かれて、「クロクロに転職したい」とその場しのぎのウソを言ってしまったために、1週間のお試し就業をすることになったシュウヘイ。スパルタ指導に耐えられるのか???

働け、働け、働け!!!(ビシッ!)

ハルカさん(白)の弟がひどい目にあったという「クロクロソフトサービス」の営業部に、転職希望者を装って潜入することになったシュウヘイ。ただでさえ営業なんて苦手な上に、超体育会系のクロクロの営業なんて……やっぱり無理だよね。

朝礼でノルマを達成できなかったことを謝罪するシュウヘイ。傍らには竹刀を持った怖い課長がいて……。

わ、私わあ……。

声が小さい! もう1回!(ビシッ!)

竹刀が床をたたく音。もうそれだけで、シュウヘイは大混乱だ。

ひ、ひいい……わ、私わあ!

まだまだ!

私わあ!! さ、昨日ー、約束の1日20件訪問をー、達成することがー、で、できませんでしたー。も、申し訳ございませんでしたーーー。

本当に申し訳ないと思ってるのか!(ビシビシッ!)

ひい、お、思ってるでありますう。

よおし。じゃあ、お前、明日から毎朝7時出勤で、フロア全員の机掃除だ。

そ、そんなあ。

お前が使えないせいで、みんなの負担が増えるんだ。それくらい当たり前だろ! 皆もそう思うよな!

当然です!

う、うぇーん。

泣いてる暇なんかないぞ、このお荷物社員! 今日からは30件のアポなし訪問だ。すぐ行け! 急げ!! 電車の中も駆け足だ!!!

アホな……。

とっとと走れ!!!!!(ビシビシビシビシビシッ!)

ひいいぃぃぃ……。

イラスト1

「ビシビシいくぞ、オラぁ!」「(ひぃぃぃぃぃぃぃ)」

ブラック? ホワイト?

こんな感じで1週間を終えたシュウヘイ。「転職バー ハルカ」で「サディスティック・ミミ」に会社の様子を報告だ。でも、やっぱりハルカさんはお休み。店番は…… ん? 黒ハルカ? 前回、いらんこと言ってハルカさんを傷つけたおわびかな。

かくかくしかじか……(ビシッ)……(ひょえー)……(ビシビシッ)……(ぎょえー)……というわけなんですよ。

うわー。立派なブラック企業じゃん。

無理なノルマ長時間労働の強要大勢の前で恥をかかせて、「使えねえ」などの人格をおとしめるような発言をして……そりゃあ、典型的なブラックだ。

そーかなあ。

あん?

大勢の前で大声を出す的な社員研修やってる会社、他にもあるじゃない。心を鍛えて気合いを入れるためには、そーゆーのもアリなんじゃない?

限度ってものがあんだろ。それに、謝罪させるのはどうなのよ。それにそれに、上司が部下に「使えない」とか「お荷物」とか言うのも……。

そんなのでいちいちブラックとか言ってたら、世の中の管理職なんて全員クビじゃない?

そもそも会社に竹刀があること自体、おかしいだろ。

保育園児をムチでシバいてる人に言われたくないけど?

シバいてなんかいないよ! ちょっと、脅すだけ……。

それだって、十分ブラックよ。

な、何を! アタシは、愛のある園児教育をだなあ!

まーっ、ゆがんだ愛だこと。

テメエ!!

イラスト2

「何よ、ヤル気?」「おー、やってやらあ!」「(ボーッ)」

ま、まあまあ2人とも……。

何が「まあまあ」よ。そもそもアンタがボーッとしているから!

そうだそうだ。お前が悪い!

ええ? 何で僕?

まあ、君は生まれながらに、そういう役回りってことだ、シュウヘイ。

苦労が報われたんです

シュウヘイ! お前はクロクロのこと、どう感じたんだ? やっぱりブラックだろ?

う、うーん。

そんなんでもないよね?

ええっと……。

ハッキリしろい!

あ、あわわわ。な、何ていうか、よく分からない……。

分からないだあ?

クロクロは、確かに厳しかったんです。もーやんなるくらい。でも、厳しくされるのは、僕にも原因があるんじゃないかとか……それに、毎日やられてると慣れてきちゃうし。あと……。

あと?

さ、最後の日に、僕、1件受注が決まったんです。

ほお。

そしたら、みんながスゴく褒めてくれて。で、な、何か今までの苦労が報われた気がして……。

ほおら、見なさい。受注につながったんだから、無理なノルマも長時間労働も必要な苦労なのよ。クロクロはブラックなんかじゃない。

そんなことねえだろ。たまたま受注ができたからよかったけど、やってることはやっぱりブラックだ。

そんなことない!

ある! 大ありだ!

ウチに来ないか?

やれやれ、どこまでいっても平行線だね。それにしてもブラックとホワイトの区別って、どこで付けるんだろう。シュウヘイがブラックと感じないなら、クロクロはブラックじゃないのかな?

あっ、シュウヘイ。携帯鳴ってるよ。

は、はい。あっ、黒田さん?

えっ……今ですか? えっと、「転職バー ハルカ」っていうお店で……。

クロクロの別の課で働いてる営業マンの黒田が、今からこの店に来るみたいだ。

よう、シュウヘイ。美女に囲まれてご機嫌だな。で、どうだった? ウチの会社。

あ、あの……何かスゴイなっていうか、その、皆さんの気合いに圧倒されたっていうか……。

そうか! で、いつから来るんだ?

えっ?

クロクロに転職したいんだろ?

いや、まあ、その……。

転職するわけないよね。お試し就業は、ハルカさん(白)の弟に会う前の潜入捜査なんだから。

入社、決めてくれたか?

す、すみません。やっぱり、ぼ、僕には無理みたい……。

無理?

い、1日30件の訪問とか、朝礼で謝罪とか、何か違うなって……。

まあ、お前が行った部署は、社内でも特別厳しいっていうか、課長が気合い入り過ぎの人だけどな。

でも、聞いたぞ。お前、その厳しさに耐えて受注をキメたそうじゃないか。

あ、はい。それはとてもうれしかったんですけど……。でも、やっぱり、僕にはちょっと厳しいかなって……すみません。

黒田さん、怒っちゃうかな?

三重苦のお前には無理だ!

……安心した。

えっ?

「安心した」って言ってんだよ。お前の言う通り、あの部署は異常だよ。根性なし、体力なし、頭脳なし三重苦のお前には耐えられない。

(三重苦って)。

だがよ。あの部署の課員の中には、本当は無理なのに気付いていない奴もいる。

気付いていない?

「異常も毎日続けば正常」って言葉があるだろ? 明らかにメチャクチャな職場なのに、頑張ってるうちに慣れちゃって、おかしいものもおかしいと思えなくなっちまう

でも、それは頑張って乗り越えたってことじゃあ……。

耐えて成長できる奴はそれでもいいさ。でもな、シュウヘイ。お前みたいな根性なし、体力なし、頭脳なしの三重苦は、どうやっても、ああいう厳しい環境には順応できない。

(また三重苦っすか)。

それなのに、「自分のいる会社は異常じゃない。悪いのは自分だ」って考えていたらどうなる?

か、体壊しちゃいますね。

体も、そして心もな。毎日毎日「自分は能なしだ、ダメな人間だ」と自分で自分を追い込んで、自己否定を繰り返し、結局はメンタルをやられちまう。そういう人間を、俺は嫌ってほど見てきた。

シュウヘイも、ののしられ続けているうちに、だんだん「この会社のやり方はそれほど異常じゃないかも」って思うようになったんじゃないか?

それが一番怖いんだよ。お前みたいな、根性なし、体力なし……。

そこ、必要ですか?

じゃあ、お前みたいなヘタレで、ミミズで、糸コンニャクみたいな奴が……。

(も、もっと悪い)。

ヘタレミミズくんが変にウチの会社に慣れちまったら、外の会社で通用しなくなっちまうか、ブラック上司になっちまうかだろ。

ブラック上司に?

自分がやられたことの意味や危険を考えないで、部下に同じことをする奴さ。「これが当たり前」なんて思ってるからタチが悪い。

な、なるほど。じゃ、じゃあ、やっぱり僕はクロクロには入社しない方がいいと?

自分でもそう思ってるんだろ? この2人の美女のおかげで。

アタシたち?

2人のメンター

そこまで、話が進んだとき、店に入ってきた新しい人影……ああ、これは。

ハ、ハルカさん!

ハルカ!!!

イラスト3

本連載の主役(久々に)大登場!

ごめんなさい。心配かけたわね。

い、今まで、どうしてたんですか。

ちょっと旅にね。弟のこと、一人で考えたくって……。

それはそうと、話が聞こえたわ。今回は黒ハルカとミミが、シュウヘイくんのメンターだったようね。

メンター?

相談相手や助言者のことよ。業務指導だけでなく、人間関係や会社生活など、幅広い相談に乗ってくれるありがたい存在ね。

(な、何だ、この美人は)。ま、まあ、そういうことだ。シュウヘイ。

つまり、クロクロがブラックかどうかは、お試し就業で環境に慣れてしまったお前には、かえって分からない。

それを少し離れた立場で客観的に見て、この2人がいろいろと話してくれたから、お前は、クロクロには入社しないって決められたんだろ?

た、確かに、2人の話を聞いているうちに、自分とクロクロのことを落ち着いて考えられるようにな……。

シュウヘイ君、これ。

ハルカさんが差し出したカクテルは、「ブラッディ・ブル」。カクテル言葉は「感化」だ。

これを飲んで、あなたに掛かってる「感化」つまり、「これが当たり前」病を全部解いてしまって。

は、はい。(ゴクリ)。ハルカさん………やっぱり、いいなあ。

ブラックかどうかはそのさなかにいると分からないもんな。

だから、それを客観的に見られる人が大事ってこと?

こちらの黒田さん……だったかしら? は、そう考えているのよね。私も、そう思うわ。

そして、ブラックじゃない場合も、自分だけではなかなか分からないものだわ。教育的指導をパワハラだと思ってしまう場合もある。そういうときに良きメンターが、状況を見極めてアドバイスしてくれたらうまくいくこともある。そうよね、黒田さん?(ニコリ)。

(きれいな人だなあ、誘っちゃおうかなあ、コクっちゃおうかなあ)。

黒田さん、ちょっといいかしら?

え? ハルカさんの香り診断、今回は黒田? ああ、シュウヘイの惨めな顔。

な、何すか! いきなり。

さわやかなミントみたいな香り、あなたは本当にシュウヘイ君のことを考えてくれているのね。

ま、まあ、そりゃあ。

ありがとう。そして、申し訳ないけれどあなたの告白は受けられないわ。

え、えええ! な、何でコクろうとしたって分かるの? で、何でダメなの???

ごめんなさい。クロクロの人には、私まだ向き合えないの。

うーん。ハルカさん、やっぱり弟の件では、クロクロにわだかまりがあるみたいだね。一体、何があったのか。次回、いよいよハルカさんの弟が登場だ!

次回に続く

カクテルを作るハルカさん

ハルカのワンポイントレッスン

今の会社や転職先の会社がブラックかどうか、本人には分からないことも多いわ。信頼のおけるメンターを持つことは、そんなとき、とても有効よ。


※企画・制作:@IT自分戦略研究所編集部
※テキスト:細川義洋
※イラスト:鳴海マイカ(ad-manga.com)
※@IT Special の記事(2019年1月)に再編集を加えて掲載しています。

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