ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ十六正社員になって給料アップ。 けれども笑顔が奪われリハビリ生活へ……

派遣社員から正社員となって、年収アップに大喜びだったS野さん。ところが事務員の彼女を待っていたのは、なぜかシステム管理者への道だった……。
今はリハビリを終え、新しい環境で本来の明るさを取り戻しつつある、そんな彼女の体験談です。

その役員さんは、鳴り物入りでやってきた

正社員になったS野さんを待っていたのは、「パソコンに詳しい」という鳴り物入りで本部にやってきた役員さんでした。労働組合の組合員は約3万人。その管理コスト削減のために大量のコンピュータを導入し、ネットワークを活用することで業務フローのオートメーション化を図る。いわばそのために呼ばれた必殺仕事人というわけです。
ところがこのオジサン。蓋を開けてみればただのパソコンおたくだったからさあ大変。ネットワーク? 業務システム? なにそれわかんなーい……がほんとのとこなわけですよ。
そのツケは、すべて直下のS野さんに降りかかってまいりました。事務として働いていたはずの彼女に、システムの立案から発注からメンテからなにからなにまで「お前一人でやれ!」とお達しが下ったのです。
んな、むちゃくちゃな。
それでもS野さんは必死で勉強しました。勉強して勉強して勉強して勉強して、なんとか社内的に提案ができるところまでまとめ上げました。
しかしこの役員がまた、社内会議でそんな難しいもん説明できないわけですよ。結果、「効果がようわからんからダメ」と裁定が下り、ついでにその場でこの役員のメッキもはげ落ちて、居場所を失った役員はその憂さ晴らしを自分の部下たちへ向けることになりました。しかもメンツがあるのか、システム開発はいっこうにストップさせてくれません。
サービスインの見込みがない開発作業と、毎日怒号が飛び交うギスギスとした職場。
いつからかS野さんは、自席にいるのがつらくなり、サーバルームに引きこもる毎日となっていったのでした。

鬱になって休職、やがて退職へ

明るく、社内のムードメーカー的性格だったはずの彼女からは、すっかり笑顔が消え失せていました。社内にはメッキのはげ落ちた役員への疑念から、部署そのものの存在を否定する機運も高まっており、それがますます彼女の引きこもりに拍車をかけます。
そんな中、S野さんには「働き過ぎによる鬱病」という医師からの診断が下ります。 限界でした。
会社から休職を言い渡され入院。退院後にリハビリ出社するも欠勤扱いとされ、結果「規定の休職期間を超えたため」と退職へ。
こうして無職となったS野さんは、自宅療養に入ることとなったのでした。
しかしS野さん。その後のガンバリが偉いのです。療養後、彼女はハローワークで見つけた技術専門校へ入学します。激務だった仕事の中で興味をもったネットワークの世界。それ一本で仕事ができるようにと、彼女はそこで猛勉強をするのです。
そうして半年が経ち、自信を身につけた彼女は転職活動を開始。見事に6社からの内定を取り付けることに成功したのでありました。
ただ、最終的に決めた1社に「ごめん、やっぱ仕事なくなっちゃったから、内定なし」なんて裏切りにあって、3週間ほど凹むことにはなるのですが……。
今は彼氏や友人の支えで再度転職活動を開始した結果、めでたく新天地での会社生活がはじまっているそうです。

オチの一コマ
本日の一句

「前職では“頑張れ”と無責任に励まされてきたが、無理な命令は“自分の努力”だけでは解決できないとようやく知った」とはS野さんの言葉です。
本当にその通りなんだろうと思います。そして、そのサジ加減を知ることこそが、長く仕事を続けるために欠かせないことなんでしょうね。
マジメであればあるほど頑張りすぎてしまうものですが、そんなたくさんの「S野さん予備軍」の方々に、是非とも読んでもらいたい体験談だと思いました。
というわけで、さっそく私も今日は1日休みにしたいと……え? だめ? 早く原稿をあげろ? 締め切り過ぎてる? ……シクシクシクシク……。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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