ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ二十四社内No.2のポジションなんだけど。 安い給与と非協力的な態度にツカレ果テタ彼なのです

会社設立時から、技術的な面を一手に引き受けてきたM下さん。
でも待遇はろくなもんじゃなく、事なかれ主義の社長のもと、ワガママな現場に振り回されるばかりの毎日……。
いつしか彼は幻滅し、転職への道を辿ることになったのでした。

今風に言えばCTOなのだ

「待遇については安いのひと言です」
M下さんは、社員数10名ほどの会社に所属するエンジニア。設立時点から技術的なことを一身に背負い、新規案件の受託、要件の取りまとめ、開発、そして仕上がりのチェックと、ひと通りの面倒を見てきました。
そんな彼は、社内No.2のポジションでもあります。
ところが給与はスズメの涙。保険関係もきちんとしてはもらえずに、この7年間というもの昇給も一切ありません。毎日10時過ぎまで働くも、残業代だって一切ありません。
……でも、それだけならまだいいのです。
M下さんの本来の仕事は、新規顧客の開拓と、その案件を取りまとめてシステム部におろすことでした。今どきはWebシステムの開発が主体になるので、画面デザインもおろそかにはできません。したがって、画面まわりに関しても要件をきっちり切り分けて、デザイン部へとおろさなくてはいけませんでした。
ところがデザイン部ときたら「オレたちゃデザインで勝負してんだ、システムにオマケでつくようなとこやってられっか」というノリで、きちんとしたクオリティのものをあげようとはしてくれません。システム部もシステム部で、「言われたことしかやんねーよ」というスタンスなので、結局詳細設計までを彼がおこしてやらなきゃうまく回りません。
そんな毎日は、否応なく彼を疲弊させていったのでした。

転職活動はじめました

個人主義という名のもとに、連絡や報告という概念もなく、自分たちの好きなように仕事をいじくり回す現場たち。一方で、新規顧客の開拓にと、常に外を飛び回らなければいけないM下さん。
しかし社長はそんな間を取り持とうともせず、それどころか「売上が足りない」と言っては、新しい仕事をひっぱってきてM下さんに押しつけてくる始末。
それも、「システム部は手いっぱいみたいだから、お前の方で開発しちゃって」なんつって。
東京や大阪のお客さんを飛び回り、その状態でも詳細設計を詰めなきゃ動かないもんねとシステム部からつつかれて、デザイン部は舌打ちまじりでやる気なし。そこをなんとかかんとか言いくるめ、自身の抱える開発要件をプログラミング。システム部の作ったプログラムを納品のためにチェックして、自身の作ったプログラムを納品のためにチェックして、保守メンテ結んでる先でトラブルがあれば出張し、気がつけば案件の切れ目が迫っているので新しい仕事を得るために奔走し……。
でも昇給はなし。
そんなのが気がつきゃもう7年間。
ほとほと幻滅しきった彼は、こうして転職を決断したのでした。
さて、そんなM下さんが仲の良い取引先と打ち合わせ後に雑談していた時のこと。
「転職活動をはじめることにしたんですよ、近いうちに引き継ぎのもの連れてきますね」
「え、じゃあちょっと待っててもらえますか?」
その数分後には、そこの社長と面談することになっていました。その場で希望条件を飲んでもらえて即決。こうして彼の転職活動は、はじめようと思った矢先に終わりを迎えることになったのです。
給料も良くなる。残業代だって出るようになる。そしてなにより、公私ともに相談できる取引先の担当さんが、これより先は同僚としてともに働けるようになる。
「ひさしぶりに仕事が楽しみになっています」
そう言って、M下さんは自身の転職体験を「満足」と振り返るのでした。

オチの一コマ
本日の一句

自分なんかはM下さんの足下にも及ばない立場ではあったのですが、それでも近い状況の経験を持つので、人ごとではない体験談でした。ある意味懐かしかった。
上は仕事を取ってこいと言うし、現場はもう取ってくるなと言うし、じゃあ取ってきたら誰がやんのかしらと思ってたら自分にお鉢が回ってきたりして。
ただただムナシイんですよねこーいうの。
新しい会社で、なによりも「この人といっしょに仕事ができるのが楽しみ」と思えるようになったM下さん。とにかくおめでとうございます!きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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