巻ノ二十六仲良しなだけじゃ食べられない そして選んだ転職道
人間関係はとっても良好。そんな会社にいたH本さん。
でも、もしその会社の取り柄が、それひとつしかなかったとしたら……?
今の環境に足りないものを補おうした時、そこにあるのは転職だった。今回はそんなお話です。
モノ作りがしたい!!
機械設計や機械加工、電気回路の設計、製作など、学生時代から「モノ作り」に情熱を燃やし、そうした職につきたいと思い続けてきたH本さん。その熱意が高じて留年を繰り返したりもしましたが、卒業して入社した現在の会社ではWindows系プログラマとして、ソフトウェアの世界でモノ作りに邁進(まいしん)する予定でした。
ところが彼曰く「これはモノ作りじゃない」……なのです。
彼が想像していたのは、「工場の機械制御プログラムを手がけることで、実際のモノを生み出す人たちをサポートする仕事」だったはず。ところが実際は言われるがままにプログラムを打ち込むだけで、どんな装置がどんなモノを生み出してるかなんて、彼のところに伝わってなんかきやしません。仕事のほとんどが孫請け、ひ孫請けの案件なので、そもそも「どんな仕様なのか」「どんなシステムなのか」がクリアに見えてることすらまれという始末なのです。
バイトより安い時給で追い回される中、身につくものといえば細かいプログラミングテクニックだけ。システムやモノ作りに対する造詣(ぞうけい)が深まることはまるでなく、目の前には「ここが違う」「あそこが違う」と、好き勝手な変更を言い渡されて終わりの見えない仕事たちがあるばかり……。
「オレは報われてないんじゃないか……?」
ある日ぽんと頭に浮かんだその言葉を、H本さんは否定できないのでした。
待遇なんかは二の次だ
自身の報われなさに気づいて、H本さんが転職を決めたのは入社から2年半ほどが経った頃でした。転職に関する条件は単純明快で、「モノ作りができること」だけ。とにかく自社でモノ作りをしている会社に入り、その開発作業に関わりたい。彼の望みは、たったそれだけだったのです。
それが功を奏したか、H本さんの転職活動は、2カ月半程度で終わりを迎えます。応募した企業で1次面接後にすぐ最終面接の話が上がり、そのまま内々定をもらうことができたのです。
規模はさほどでもないですが、一部上場企業の連結子会社で、企業相手に自社製品を販売する、まぎれもない「モノ作り」を行う会社でした。
「あまりに簡単に決まっちゃったので、かなり脱力した転職活動でした」
そう振り返るH本さん。しかし今は新しい会社で、毎日ものすごいプレッシャーと戦っているのだともいいます。
「転職活動そのものよりも、転職した先での最初の一歩に、非常にエネルギーが必要なことを痛感しました」
そんなH本さんは、配属先の部署で「新しい風を吹き入れる役割」を期待され、同時に新入りとしての雑用も背負わされ、そして新しい仕事に早く慣れようと四苦八苦。そんな毎日を送っているそうです。
「でも、色んな知識を得る機会を与えてもらえてて、思っていたようなことができています」
そう締めくくるH本さん。今はとっても充実しているようなのです。
H本さんは、はじめの会社でもプログラミングの腕前が上がっていく最中は楽しかったそうなのです。でも、それだけじゃ限界が来ちゃった。ある意味その会社が持つ天井に、彼は頭をぶつけちゃったんでしょうね。
んで、停滞しちゃってた……と。
それだけに、新しい会社ではパーッと視界が開けたような喜びがあったんじゃないでしょうか。もう、嬉々として脳みそがガブガブと新しい知識を吸収してるんじゃないでしょうか。
自分が得たいと思うものを得られる環境か否か。会社という箱の中にいるかぎり、常にそう自問する姿勢は大事なのかもしれません。
■著者プロフィール
きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/
■著書紹介
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