巻ノ三十四責任を負いながら発言権はない。それは違うぞと選ぶ道
プロジェクトを背負い、そこの責任を取る。そのためには当然それなりの権限がなきゃ、調整ひとつとっても無理が出るわけですが、なんと今回のT沢さんには、その権限がないときた。
仕事内容と働き方のミスマッチが決断させた、そんな今回の体験談です。
あらためて実感した現実
T沢さんが勤めていたのは、社員数30人ほどの零細企業。そして、そのナリにふさわしい程度の給与をくれる会社でした。
ただ、ず~っと他社に派遣されている彼にとって、あまり「自社」という馴染みはありません。出向先の職場と近いわけでもないため、立ち寄るのだって年に数回あるかないかで、自然と自社内での人間関係は疎遠の一途をたどるばかり。出向先での「え!? T沢さんってウチの人間じゃないの!? 派遣で来てもらってる人だっけ!?」なんて言われることもあるくらいに良好だった人間関係とは、まさに対称的だったといえます。
そんな折り、何気に聞いてみた出向先社員の子たちの給与額に、T沢さんは改めて給与格差を実感します。自分が指示を出して、その通りに動いているだけの子たち。年齢で見ても、自分より3年以上も若い子たち。
その子らの方が、彼よりもうんと給与が高いのです。
「派遣社員だと、プロジェクト仕切ってたって、いざという時の発言権ないしなぁ」
そんなことを思うT沢さんに、思わぬ転機が訪れました。以前同じチームで働いていて、少し前に他社へ転職していったかつての同僚から、「うちに来いよ」と声がかかったのです。
仕事内容的にも現在のスキルが生かせるもので、「これは」と思ったT沢さん。2度の面接をくぐり抜け、見事採用をゲットしたのでした。
慰留工作は脅し文句に終始する
ところが話はこれで終わりません。自社の社長が、「辞めてもらっちゃ困る!!」と、これに待ったをかけてきたのです。
詳しくはT沢さん自身も後で知ったのですが、実は出向先の会社から、T沢さんの分としてえらい額を貰っていたようなのです。それで、辞めないよう手を尽くした……というのが本当のところなようでした。
「3月までの契約になってるので、違約金が必要だ!!」
「オレの顔は業界内では広いから、お前の次の会社を調べてイヤがらせをしてやる!!」
「退職金なんか払わんぞ!!」
社長からの慰留工作は、「辞めちゃダメよ」なんてかわいいものじゃなく、はっきり言って「脅し」としか取れないものばかりでした。もちろん、実際にはいつでも契約解除ができる状態で、違約金うんぬんなんてのはでっちあげに過ぎません。
けっきょく、転職活動自体には苦労しなかったT沢さんでしたが、この社長とのやり取りにほとほと疲れ果てることとなりました。退職金に関しては、貰う権利を主張し続けてなんとかもぎ取りはしたものの、1年前に辞めた同期の3分の1程度。10万円弱……という金額にされてしまう始末です。
とはいえ、そんな苦労を乗り切ったT沢さん。今は新しい職場で正社員となり、「良くも悪くも周りの人が遠慮しなくなった」という環境で張りのある毎日をおくっているそうです。
派遣の善し悪し、正社員の善し悪し、それぞれ人によって合う合わないがあるんだなぁと思った体験談でした。
T沢さんは「より遠慮のない環境を」と望んで正社員の道を選んだわけですが、その逆もまたあるわけで。
自分にあった働き方を自覚する。これってやっぱり大事なんだなぁと思わずにはいれません。
あ、そうそう。退職にあたって同じく嫌がらせを受けた身としては、「わぁ聞いたことある台詞だなぁ」と懐かしい話でもありました。T沢さん、お疲れ様でした。
■著者プロフィール
きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/
■著書紹介
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