ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ三十五血尿とともに4年間 失意の後の幸せとは

創業のパートナーとして、血尿を出しながらがんばってきた4年間。しかしその報酬というには、あまりに情けない会社がそこには出来上がっていました。
そして失意の末、退職を選ぶA坂さんではありますが…。
「がんばる」っていいよねと、あらためて再認識。そんな今回の体験談です。

変わりゆく会社

当時勤めていた会社が倒産。その時に、付き合いのあった技術者から誘われて、ともに会社を興したA坂さん。最初は、たった2人でのスタートだったといいます。
給料が安くても、残業が月200時間越えの連続であっても、家に帰れず子供らの顔が見えなくても、「いずれ還元したい」という社長の言葉と、「会社を作っていくぞ」という気持ちが身を支えていました。
そして3年。
金銭交渉以外の全業務を引き受けているうちに顧客からの信頼も得てきていたし、給料だって安いながらも安定して出るようになってきた。いい感じで進んできているように思えました。
事務所も引っ越して、新人も入ってくるようになって。うん、それはいい。
でもなにかがおかしいのです。
「昇給を考えてる」と言いながら、いっこうに上がる気配のない給料。新人の育成をしようにも、気まぐれで口をはさんでは現場をひっかきまわしていく社長。見積もり200万円のシステムを、「100万円でOKです」と社長のひと声で安請け合いしてきた挙げ句、その担当者に対して「売上低いね」とペナルティ。有給も残業手当もないくせに、遅刻だ欠勤だはしっかり減俸対象になったりもして。
なのになぜか社長は高級車を乗りまわし、高い保険料もすべて会社持ち。そして当然その車は社長専用車ときたもんだ。
………社長と2人で立ち上げた会社。創業の志に燃えていたはずの会社。
しかしそれはいつの間にか、「責任のみ背負わされて権限はなく、がんばった分は社長の趣味につぎ込まれていく会社」へと変貌していたのです。

失意の後、退職へ

4年目になって、決定的な出来事がおこりました。いつものごとく社長が安請け合いしてきたプロジェクトで、A坂さんが「納期遅れのため」と、お客さまのお叱りを受けることになってしまったのです。
詳細は省きますが、要員追加の約束と交換に他案件の火消し役をしていたはずが、社長から約束だけを一方的に反故(ほご)にされて、生じた遅れをすべてA坂さんのせいにされてしまった……という顛末(てんまつ)でした。
「理由はどうあれ、会社の看板を傷つけたわけだから」と、これにも耳を疑うようなペナルティ。
これでA坂さんは悟りました。「この会社でがんばっていく意味はないな」……と。
半年後、「身体壊しそうなので辞めます」とA坂さんは社を後にします。実際、血尿を出しながらがんばってきたし、退職後1カ月は気管支炎で寝込んだほどです。ただ、退職直前数カ月のタイムカードをコピーしておいたのが幸いして、ハローワークでは「自己都合ではなく会社都合」扱いを認めてもらい、当面の生活費はその手当てでカバーすることができました。
さて、そんな風な苦労の末、報われないままに退職の道をたどったA坂さん。今はどうなっているのかというと、自身で会社を立ち上げて、経営者としてがんばっています。
退職後に今までのお客さんのところへ挨拶に行ったところ、「うちの仕事を」「うちでも仕事を」と引き合いが多く、その要望に応えるためには自分で会社を持つしかなかったんだとか。
「お客さま第一でがんばってきて本当によかった」
社内ではなく、社外で実は報われていた。そんなA坂さんの今なのでした。

オチの一コマ
本日の一句

「まずは今できることをちゃんとやる」
この言葉にシビれました。
ほんとそうですよね。遠くをみて不安になったり、うんざりしたり、焦ったり。そんなことよりも、まずは今目の前にあることを、ちゃんと丁寧にひとつずつ片付けていく。その積み重ねの先に色んなことが待ってるんですよね。
がんばりってのは、たとえ誰かが報いてくれなくたって、自分の中の血肉になってくれるものだと思います。だから決して無駄なんかにゃなりゃしない。とにかく「オレがんばったぞ」と言えるかどうかが大事だぞと。
この体験談を読んだ後、「初心忘れるべからずだなぁ……」と、最近ちょっとたるみがちな自分に、思わず活を入れてしまったのは言うまでもありません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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