ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ三十八「自分には向いてない」 彼の苦労は、そう思った時からはじまった。

畑違いの業種から、「将来性のある仕事を」と転職活動に挑んだS村さん。
職業選択の自由を謳歌する彼は、一見さしたる苦労もなく、新しい職場を見つけることができた……はずなのですが。
職業選びで考えるべきは何なのか。そんなことを考えさせられる、今回の体験談です。

将来性のある仕事にチャレンジだ!!

退職したはいいものの、特にやりたいことがあるわけでもなかったS村さん。前職の経験もあって「将来性のある仕事がしたい」と思うようになりました。
そうして彼は、「アウトソーシングの流行で活況に沸くコンピュータ業界」か、「高齢化社会でニーズの高まりを見せる医療系の業界」の2つに絞って転職活動を開始。医薬品開発のアウトソーシング業務を主とする会社から内定をもらいます。
これにかかった期間は約2カ月。他にも3社から内定をもらうなど、転職活動に関して特に苦労した感はありませんでした。
「年齢も若かったので、ポテンシャルに期待した企業が多かったんでしょう」
自身の転職活動をふり返り、S村さんはそう語ります。
しかし……。
入社から半年ほど、サポート要員として先輩たちの仕事を見るにつけ、「この仕事は、自分には難しいのではないか」という不安が色濃くなっていきました。想像とは違って、業務は対人折衝が多くを占めるらしい。多岐にわたる仕事内容のため、要領の良さも求められる。
人と話すのが苦手な上に、不器用きわまりない自分に、やれる仕事ではないような気がする……。
さして苦労せずに済んだ転職活動。しかし彼の苦労は、ここからが本番だったのでした。

門外漢でボロボロで

医薬品開発といっても、S村さんたちが行うのは「治験データの収集」業務でした。製薬会社の新薬を病院に持ち込み、数多(あまた)ある細かなルールのもと、医師に使用してもらうのが主な仕事です。 膨大な量の資料作成、そしてクライアントである製薬会社や病院との折衝。そのどれにも「要領の良さ」と「折衝能力」は求められます。もともと門外漢だったS村さんですが、こうした適性の面でも仕事が合っていなかったのか、現場に入って以降は始終目が回りっぱなしの毎日でした。
それに加えて、経験命の仕事なはずなのに、周囲を見るとどこもかしこも新卒の人ばかり。上司は3カ月単位で「使えねぇ」とクライアントのダメ出しに遭い、その都度人が入れ替わる。その後任も、なぜか毎回、製薬会社をリストラされてきた人が、「上司です」と言ってやってくる。
そうした上司たちからは、当然まともな経験など積ませてもらえるはずもありません……。
そんな調子で半年が過ぎた頃、彼はそのプロジェクトからはずされることになりました。クライアント側の資金が枯渇しはじめたため、要員を半分に削らないといけなくなったからです。
「正直、進路を考えるチャンスだと思った」
そう振り返るS村さんですが、「まだすべてのプロセスを経験したわけじゃない」という気持ちが、彼に退職を思いとどまらせます。
そうして2つ目、3つ目のプロジェクトへと彼は挑んでいくことになるのですが……。
「2つ目のプロジェクトは、自分1人で行うことになって散々な結果に。畑違いだったこともあってもともと周囲から浮いた感じだったものが、これでさらに孤立することになりました」
さらに嫌気がさしたまま挑んだ3つ目のプロジェクトでは、気持ちがそのまま仕事に出てしまい、以前からあった上司との亀裂も決定的なものに。やがて彼は心身の健康を害しはじめ……。
今はアウトドアショップでバイトをしながら、転職先探しをしているS村さん。収入を確保するためには同業種に戻るしかなく、うんうんと思い悩む今日この頃だそうです。

オチの一コマ
本日の一句

今はまだ分厚い霧の中。そんな体験談のように思えました。
個人的には、色々と考えすぎてしまった挙げ句、“できない理由”をどんどん積み上げちゃって、その自分自身で積み上げた壁の前に尻込みしちゃってるんじゃないか。
……なんて印象を持ちました。
尻込みするところをポンと前に押し出してくれるような、そんな環境に恵まれてなかったというのもあるのかもしれません。
次の職か、ひょっとするとそのまた次の職かはわかりませんが、いつかS村さんが“ただ一心不乱に”仕事へと打ち込める日が来ますように。そんな風に願ってやみません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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