ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ四十九すべてを飲み込むアリ地獄。 危機を感じて、彼は会社を飛び出した

転職をする。失敗したと気づいてまた転職をする。それは自身をリセットし続ける行為なのか、はたまた何かを積み重ねていくための、糧とするべきものなのか。
選んだ仕事・待遇がずるずる思惑と異なっていく中で、T田さんの下す決断やいかに。
そんな今回の体験談です。

忍び寄る魔の手と立ちのぼる噂

四六時中電話が鳴り続け、昼食をとるのもままならない。T田さんの新しい席は、そんな人らがわんさといる、コールセンターの中に置かれました。
そこでやる彼の仕事は、「お客さまが、日頃システムに対して抱いている不満を吸い上げること」、「整理して仕様を決定し、手順書を作成すること」、そして「カスタマイズ作業に必要なエンジニアの手配、現地指示、作業完了報告を行うこと」などでした。忙しいながらも、スケジュール管理をしっかりと心がけていたT田さん。その甲斐あって、常に「ある程度の時間には」帰れるよう調整が出来ていたといいます。もちろん昼食だってしっかりと取りますよ。
ところがこれが良くなかった。 その様子を見た同じフロアの他の面々から、「あいつは暇なんじゃないか?」という声が出はじめてきたのです。さらにはその部署の長である上司までもが、「だったらアイツにも障害対応させようじゃないか」と言い出す始末。
「それでは本末転倒じゃないか」
T田さんはその瞬間、この部署がなぜ「8時間毎の交代シフト制がうやむやになってしまった」のか、なぜ「昼食も取れず机に張り付いていなきゃいけなくなった」のか、その原因が見えてしまったように思えました。
一方、これと時期を同じくして、ある噂が彼の耳に入ってきました。それも複数の方面から。
「会社の経営が相当に危なくて、各所への支払いが滞りはじめているらしい……」
会社の先行きに大きな不安を覚えたT田さん。こうして彼は、転職を決意することになったのでした。

「何をのぞむ?」と自問して

このT田さん。実はすでに転職経験があり、今の会社は2社目でした。以前の会社では地域プロバイダの保守管理責任を一手に担わされてしまい、それがために何かある度、24時間年中無休状態で会社から電話がかかってくる始末。しかも給与が安い。
「ここより悪い会社はないだろう」
そんな意識のもと、焦って決めた転職先が今の会社でした。今にして思うのは、「隣の芝生は青く見えるんだな」のひと言です。
そんなT田さんですから、「今度こそは」と慎重にことを考えます。
1社目から2社目への転職時には、ネットワーク関係のスキルが生かせること……のみを条件に掲げていました。その結果が今とすれば、今度はなにを条件にしたものか。
散々考えた結果、T田さんは「上場企業であること」「コンプライアンスがしっかりしていること」の2つを条件に掲げ、SEとしての職を探すことに決めました。
「上場企業なら四季報などで社員でも業績に目をやることができるし、コンプライアンス意識があれば社員1人に過剰な責任を負わせることもないだろうな……と」
その後T田さんは、退職準備を粛々と進めつつ、東京と大阪でそれぞれ2社…計4社を受け、自分から辞退したもの以外の全社から内定をもらいます。その中から、自身の経験を一番生かせそうな会社を選んで現在3年目。毎日サーバーとネットワークと良い同僚たちに囲まれて、幸せな日々を送っているそうです。

オチの一コマ
本日の一句

しっかりとたんたんと、やるべきことをやり、考えるべきことを考える。そんな体験談に思えました。
T田さんの中では、一歩一歩自分が進んでる実感ってものがあるんじゃなかろーかなーと思うわけであります。
「うわー失敗したー」とか「なんて会社だちくしょーめー」とか、現状を嘆くのは簡単ですけども、そこに囚われず前を見るのは案外難しかったりするんですよね。だからこそ、しっかりと一歩ずつ、しかも自身の経験をひとつも無駄にせず進む歩みがすばらしい。
この先も今と同じく、焦らず一歩ずつ進んでって欲しいな~と思う次第なのでありました。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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