巻ノ五十五「転職の理由もなにも、倒産したから」 安定重視の会社選びは、長く勤められる会社選びになりにけり
働き場所がコロコロ変わると、やはり生活は落ち着きません。特に倒産と言ったら一大事。いきなり働く場所を失うんですから、そりゃアンタ落ち着くどころの話じゃない。
今回の体験談は、倒産したり内紛で社内がグダグダになったりまた倒産したりと、落ち着く間もなくここまで来ちゃったY崎さんのお話です。
「いい加減に安定を」と求める彼の転職活動はさていかに。
モラルレスでプツンと気持ちがきれる
Y崎さんにとって4社目の会社……3社目で内紛が起きて、その末に社員がごっそり移った先のその会社は、技術者優位の会社でした。
ひと言でいえばエンジニアに甘い。よく言えば職人気質ながら、ITバブルがはじけて仕事がなくなってからも仕事を選り好みしていて、その結果エンジニアが仕事を割り当てられず宙ぶらりんというのが珍しくありませんでした。
仕事がないからと遅刻欠勤居眠りも多く、社内のモラルは悪化の一途。しかも、働き過ぎで倒れて救急車に乗せられる社員がいる一方で、のんびりワールドカップ予選を見ている社員の図があるという、わけのわからない状態です。
「なんか気持ちがプツンときれて、精神的にも肉体的にも参っちゃって」
当初はそれこそ倒れるほどがむしゃらに仕事をしていたY崎さんでしたが、こうした図式を目の当たりにするうちに、やがて彼も必要以上には働かないようになっていきました。社内の光景にすっかり脱力しちゃったというか、バカバカしさだけを感じるようになってしまったのです。
やがてこの会社には、「大きな案件を」と願う社長の意向で、怪しいコンサルタントが出入りするようになっていきます。
気がつけばいいように食い物にされるばかり。倒産は、もはや避けようのない道となっていくのでした。
市場価値もわからない……がスタート地点
そんなこんなで会社がなくなっちゃったY崎さん。「ブランクを作るのは転職にマイナスらしいよ」と耳にしたので急いで次の会社を見つけなきゃと思うのですが、実はこれまでまともに転職活動をしたことがありません。
「おれ、市場価値としてはどんなもんなんだろか」
自分の価値もいっさいわかんないので、どれだけ仕事の口があるのかもわからない。焦るY崎さんは、とにかく片っ端から転職サイトや人材紹介会社に自身を登録してまわりました。狙うは大手一本で、とにかく安定して勤めができる会社を探すこと。
「さすがに4社も経験すると落ち着きたくて……」という気持ちがありました。
そんなY崎さんのもとへは、多くの求人が間を空けずに届いたといいます。30そこそこという年齢的にも、経験年数的にも、ちょうど中堅どころに最適としてアチコチ引く手あまたであったようです。
そうして届く求人票の中に、彼が昔担当したお客さんの会社がありました。自社の製品に誇りを持ち、ともに仕事をする仲間を社内外問わず大事にする社風。ひそやかな憧れを抱いていた会社です。
さっそくY崎さんはその会社の知り合いにアポを取り、所定の応募用紙を入手して、採用プロセスに組み込んでもらいました。面接では「お世話になった方々とまた一緒に仕事がしたいんです」と熱烈アピール。それが功を奏したか、見事採用を勝ち取ることができました。
「行き当たりばったりのキャリアを送ってきましたが、その場その場での努力が誰かの目にとまり、そして今につながっていると感じています」
採用までにお世話になった方々の顔を思い浮かべつつ、Y崎さんは自分のキャリアをそう振り返るのでした。
なんというか波瀾万丈な会社人生だなぁ……と。
しかし会社を渡り歩いていくプロセスに、いつも人との縁が感じられるのはいいな~とも思いました。
やっぱり就職して以降の信頼関係って、仕事を通じて築くものが多いですものね。
それはつまり「信頼を得るに足る仕事をしてきた」証でもあるわけで、その結果が「希望の会社に入れました」となるなんていったら、そりゃ幸せな転職だなぁと、そんな風に思うのでありました。
■著者プロフィール
きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/
■著書紹介
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