ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ五十九優秀な先輩たちのもとで、充実した2年間。 けれど待っていたのは、民族大移動と逆ピラミッド

懸命に働き、大抜擢を受け、「勉強になる!」と思いながら充実した毎日を過ごしていたO谷さん。
けれども世の中、一寸先は闇といいます。
どれだけやり甲斐のある満たされた環境も、永遠に続くとは限らない……。
会社人生の無常さを思わずにはいられない、そんな今回の体験談です。

先輩たちとの別れ

血気盛んに立ち上がった少数精鋭の新事業部。「勉強になる!」「充実した毎日だ!」と思うO谷さんをよそに、事業部そのものは大型受注に至ることもなく、ジリ貧状態が続いていました。
「今思えば部署自体のマーケティングが充分でなかったのだと思う」
けっきょくこの事業部は、「採算が取れていない」として、発足から2年という短命で廃止を余儀なくされてしまいます。O谷さんが尊敬して止まなかった先輩たちは、皆散り散りばらばらになって、新たな組織へと組み込まれていきました。
「しかもウチの会社って、3年目に親会社からの鶴の一声で人員の大移動があったもので……」
そう、O谷さんの会社は、親会社の「こっちの事業に人を突っ込んだら色んなとこに穴が空いちゃったから、子会社から人員引き抜きまくって埋めることにしたよー」という身勝手な施策により、中堅どころがずっぽり抜けた、逆ピラミッド型の組織となっていたのです。
尊敬する先輩たちとの仕事を打ち切られ、待っていたのはスカスカの組織内で、「自分が取ってきた案件を自分で開発して納める」という、ひたすら自家生産ばかりの自転車操業の毎日なのでした。

「君は私のようになれる!」に心を決めた

いびつな年齢構成にきしむ会社組織の中で、働く意義を見失いかけるO谷さん。しかしそんな彼に、「社内で出世組のエリート」と言われていた、あるマネージャは期待の目を向けていました。そのマネージャは「今後の会社を担う存在」と目されていた超お偉いさんだったのですが、その彼の口から、こんな言葉が飛び出してきたのです。
「O谷くん、君は後3~5年は私の下でやりなさい。そしたら私がひっぱってやる。君は私のようになれるから」
これにO谷さんは大感激……となれば良かったのですが、実はまったく正反対の感想を持つことになります。
「私は彼のようにはなりたくなかったんです」とはO谷さん。
マネージャとして後進の育成に責任を持つ仕事よりも、1つの業界に特化したITコンサルタントとして、突き抜けたスペシャリストになりたい。そんなキャリアプランが、O谷さんの望みでした。
したがって、マネージャの差し向ける期待の眼差しは、O谷さんにとっては束縛以外のナニモノでもなかったのです。
実に皮肉な話ですが、このことがO谷さんに転職を踏み切らせる決定打となりました。彼は「基幹システムの1次請けができる規模と力のある会社を」と条件を定め、人材紹介会社経由で大手SIerやコンサルティングファームを漁り、彼の望みであるITコンサルタントへの道を追い求めることになったのです。
「尊敬していた先輩に辞めることを伝えたら、九州の支社から関西にいる私のところまで引き留めにきてくれて……。それが一番のハードルでした。正直心が揺れました」
そう語るO谷さん。今は目指す条件通りの会社に転職を済ませ、お客さまと熱い議論を戦わせながら、「勉強になるなぁ!」と刺激的な毎日をおくっているそうです。

オチの一コマ
本日の一句

体験談を読み、最初に抱いた感想が「この人は優秀な人なんだろうな」というものでした。なのに体験談からは自尊心ではなくて、色んな人への尊敬の念がにじみ出てるんです。
この謙虚さが、きっと勤勉さにつながるんですよね。それが脳みそを、さらにピカピカと磨き上げる糧になるんですよきっと。
偉いなぁ……、こういう人のことを、「賢い人」というんだろうなぁ……と思いました。
「見習いたい! 心から見習いたい!!」
最近脳みそがぶよぶよふやける一方の身なもので、ただただそう思う体験談でありました。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

著書紹介

キタミ式イラストIT塾「ITパスポート試験」 平成22年度キタミ式イラストIT塾
「ITパスポート試験」 平成22年度

出版社:技術評論社
定価:¥2,079(税込)
http://www.amazon.co.jp/dp/4774142026

★このコーナーが本になりました!

SE・エンジニアの本当にあった怖い転職話SE・エンジニアの
本当にあった怖い転職話

出版社: 毎日コミュニケーションズ
定価:1,470円(税込)

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

勤務地を選ぶ

職種を選ぶ