ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ六十東京修行でうつになり、帰郷した彼は二者択一を迫られる

多少の無理がきく若い時分。仕事に面白みを見いだしていれば、深夜勤務もなんのその、ついついがんばりすぎてしまうのはよくある光景です。
今回のT野さんも、「修行だ勉強だ」と日々仕事に燃えて、がんばって、としていた1人。
しかしその結果、心身の健康を損なうことがあったとしたら?
やりがいの果てに待つ落とし穴。そんな今回の体験談です。

待っていたのは背水の陣

「これが最後のチャンスだぞ」
仙台の事業所に戻り3カ月が過ぎたある日、T野さんに、会社からそんな言葉と共にお達しが下りました。
客先に出向き、デジタルテレビ開発の一員として従事しろ……という指令です。
しかし、実は過去にDVDプレーヤーの開発で手痛い失敗をしてしまったことのあるT野さん。それがトラウマとなり、今もって組み込み系の共同開発には苦手意識を持っています。しかもそこにいる自社の人間とはどうも人間的に反りがあわず……。
「ここはイヤです」
最後のチャンスは生かすこと叶わず、T野さんはその現場をほどなくして撤退することになるのでした。
さて、「ここはイヤだ」と引き上げたはいいものの、会社の方も「はいそうですか」と都合良くはいきません。
「仙台には、もうあなたに割り当てられる仕事はない」
「再度関東に行くか、会社を辞めるかのどちらかにしろ」
そう言って詰め寄られることになってしまったのでした。
「ただし、辞める時は給料3カ月分とボーナスを保証する」
こんなありがたい温情措置もありはしたものの……。とにもかくにもT野さんは、こうして職探しを余儀なくされてしまったのです。

転職はスムーズにできたけど……

本当ならば、再び関東に出るという道もあったのです。T野さん自身も、東京でまだ勉強したいという思いがあったため、できれば選びたい道ではありました。
しかし、家族の猛反対は乗り越えられなかったのです。
まだ病気療養中の身。薬だって手放せない。それで関東でのひとり暮らしなど、させてやれるはずもない。そもそもそこに行ったからこそ、こうして病気になって戻ってきたのではないか……。
否定はできませんでした。
さて、退職を決めたT野さんは、その翌日に地元のハローワークへと向かいました。
「VBやVCなどでWindowsアプリケーション開発ができるところで働きたい」
要望はこれだけ。おかげでめぼしい会社も多数リストアップすることができました。
その中で待遇の良い会社に連絡を取り、経歴書などの書類を郵送し、面接を受けて、そしたらあっさりと内定が出て……。
なんとT野さんが転職活動に要した期間は1週間。受けた会社は1社だけで終わりました。
しかし入社から数カ月が過ぎた今……。
「新しい会社のカラーに(特に社長に)なじむことができず、雇用形態を変えるか退職かを選ぶことになりそうです。現在客先に出向いていますが、自社にいるよりも格段に働きやすく、近い将来ここで知り合った人の会社に転職しようかと考えています
T野さんの進む道には、まだまだ多くの分かれ道が、待ち構えているようです。

オチの一コマ
本日の一句

この体験談。T野さん側の話だけなのでなんとも言えないのですが、多分どこにも悪者はいないんだろうなぁと、そんなことを思いました。
どの会社にしても言ってることは理解できるし、T野さんの立場もしんどいなと思います。結果として、「そうした時にサポートできるだけの余力が会社になくなってる」のかな……と。
安心して働ける環境作りという意味で、ひと頃悪し様(あしざま)に言われまくった「終身雇用制」の良さを、もう一度考えてみる時期に来てるのではないか……と、そんなことを思うのでした。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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