ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ七十私は大手企業の女性課長。でも……。給与・人間関係には満足しながらも、退職を選ぶしかない理由とは?

ちょうど男女雇用機会均等法ができたあたりに就職して、課長職にまで就いたS崎さん。
仕事にも、給与にも、人間関係にも満足する一方で、しかし退職を選ばざるを得ない理由が彼女にはありました。
人生には色んな側面があり、常にバランス取りが迫られる……ってことかしら? そんなことを思う今回の体験談です。

来年には小学生になるもので

S崎さんには娘さんがいました。まだ小さくて、保育園に預けています。仕事を続けるためにと毎日保育園に延長料金を払い、それでも遅くなるときはタクシーで駆けつけ、気がつけばそのためだけに月々10万円以上のコストがかかっていました。
一方、S崎さんの会社には、「育児のために」と短時間勤務制度というものがありました。しかし彼女は課長という名の管理職。「もともとマネージャクラスは時間管理をしていない」とのことで、この制度は適用させてもらえません。ところが「時間管理していない」と言いながら、現実には定時出勤が指示されていたのです。しかも定時で帰ると「余裕がある」と見なされて、別の仕事が振られてくるのだから質(たち)が悪い。
「子供のために、早く帰ったり休まなきゃいけないという場合は、やはり職場に対して気まずい思いを抱きます。なんとか娘が保育園の間は頑張るつもりでいるんですけど……」
来年になれば、お子さんは小学生。学童保育の時間を考えると、仮に定時出勤・定時あがりが出来たところで、到底間に合いそうもありません。
「今の勤務は続けられない」
それがS崎さんの出した答えでした。

どの選択肢も、「課長職」が邪魔をする

社内には、時短勤務で働いている女性が少なくありません。場合によっては、「そうできるポジションに」と、配置換えしてもらうことも珍しくありません。
しかし、そのどの選択肢もS崎さんの場合は、「課長」という役職が邪魔をしました。いったん役職についてしまった以上、降格することは人事が許さず、したがって、管理職としての責務から逃れることができないのです。
「お手伝いさんを個人で雇って、それで仕事を続けるという選択肢はあるか?」
そう自問したこともありました。しかし、いずれは出向の末に単身赴任……というケースも十分考えられます。それらを考え合わせると、今を契機と捉えて、先々まで長く続けていけるであろう仕事に、早い時期から切り替えた方がよさそうだ……とS崎さんは考えました。
ただ、「仕事を辞める」という選択肢はありませんでした。
「女の子のロールモデルとして、一番重要なのは母親だと思います。子供が、自分の人生を自分で決められるように育てたい。そのためには、自分の生活を賄(まかな)えるくらいの収入を自分で稼ぐことは必要だし、働くのはおもしろいことなのだと子供に示すため、子供が社会に出る頃までは、何らかの形で社会に出て働いていたいと思っているのです」
そう話すS崎さん。今は自身が業務として手がけてきた経験をもとに、技術翻訳の分野で在宅ワークをできないかと、翻訳関係の雑誌を細かく当たっているそうです。
「在宅ワークであれば、育児と両立できる」
その思いを胸に、S崎さんの転職活動は続くのでした。

オチの一コマ
本日の一句

「女の子だからこそ、手に職を持って、自立できる道を持たせたい」
実はそんなふうに思う自分にとって、この「母親として働く背中を見せたい」という思いは、とてもとても共感できるものでした。
働くこと、その姿を見せることも、子育てのひとつの形。それもまた、実に素敵なお母さんの姿だよなと思います。
ウチにも6歳の娘がいます。絵を描くのが好きです。将来へっぽこな男につかまって苦労させられないように、持たせられるものは持たせたい。そんな風に思う親ばかな私なのでした。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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