ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ七十七1足す1は1? 不思議な計算式が導き出す、残業160時間/月の嘆き

いろいろと役職を兼任していると、「あっちでも1人分の働きを求められ」「こっちでも1人分の仕事を渡されて」なんて苦境に陥ることがあります。「おい、オレの稼働って結局何人分なんだよ!?」とかいって。
今回のT本さんは、管理職という立場でこの苦境に陥りました。そう、彼は残業代の出ない管理職だったのです……と、のっけから不穏な空気が漂う、そんな今回の体験談です。

社長は夢見るとっちゃんボーイ

T本さんが勤める会社は、技術者上がりの社長が創業したインターネットプロバイダーでした。この会社では社長が王様で、苦言を呈する社員はことごとく放逐(ほうちく)されるのがお約束。要職には、「社長様が一番です」と言える人間のみがついていました。
そうした社長の取り巻きには「企画屋」と「技術屋」という2種類の人間がいて、「企画屋型人間」は実現性を無視した夢ばかりを社長に語って給料をもらい、「技術屋型人間」はやたらと新技術を試したがって会社のお金を浪費していました。
「その企画にどれだけの実現性があるというのか」
「その新技術でどれだけの収入アップが見込めるというのか」

会議ではいつも反対にまわるT本さん。取り巻き以外の人たちからは頼もしい限りの存在でしたが、取り巻き一派にとっては煙たいだけの存在です。そもそも能天気社長は耳を貸す気配もありません。
社内がこうした状況にある中、2部門の兼任マネージャであるT本さんは、毎月160時間もの残業を余儀なくされていました。丸々2人分を働かされている計算です。しかし「管理職だから」と残業手当はなく、支払われる給与はあくまでも1人分のみ。じゃあ残りの1人分はどこに吸われていってるのか……。
そんな生活が半年以上続いて、いよいよT本さんは疲れ果てました。肉体的にもそうですが、何より取り巻きたちとの果て無き闘争に疲れ果てました。
そうして彼は、何の気なしに見た転職サイトで、そのまま申し込みを済ませてしまっていたのです。

大手系列か独立系か、自分に向いてるのはさあどっち?

応募した企業からは、すぐに返事がありました。
T本さんが応募したのは、大手企業の子会社と独立系中小企業の2社でした。「裸の王様めいた社長の下で働くのはゴメンだ」という気持ちが大手系列を選択させ、「でも裸の王様がいない世界なら独立系の方が向いてるかも」と思う気持ちが中小を選ばせました。
「家族からはある程度名の通った会社にしてほしいと言われましたし、自分も大手で力試ししてみたかったのもあって、結局は大手一本に絞りました」とはT本さん。
その後は役員面接を含む2度の面接があって、それであっさり内定ゲット。T本さんの「仕事に対する粘り強さ」と「やる気があるところ」が評価されてのことだったそうです。要した期間は1カ月ほどでした。
「退職にあたっては社長から何度もとどめられましたが、そのやり取りで余計に『ああ、ここはダメだな』との思いを強めました。取り巻きさんたちは単純に喜んでましたね」
さて、そんなT本さんの転職後。
当初は大手電機メーカーのヘルプデスクにエージェントとして入っていた彼なのですが、多数の改善提案や徹底した進捗管理が認められ、今では「抜本的改善を目指す」立場として、子会社に在籍したまま、親会社側のサービスマネージャ業務を請け負っているそうです。
「自社の規模では味わえない大規模な仕事ができますし、親会社側にいる分調整が容易で、業績を上げやすいですね」
……と、仕事は楽しく充実した様子のT本さん。ただ、給与は子会社レベルのままなので、そこがちょっと難なのだとか。「まずは実績作ってがんばります」と、そう締めくくる彼なのでした。

オチの一コマ
本日の一句

仕事って、そうそう奇手妙手なんてものはなくて、普通に「やるべきこと」を「淡々とやる」ことが大事なんだと思うんです。
このT本さんは、「やるべき」「こうすべき」と思ったことを、怠け心を出すことなく、その通りに遂行できる人なんだろうな……と思いました。
こんな風に、都度「やるべきこと」を考えて実行できる人であれば、きっとその前途も道が途切れることなく続いていくんでしょうね。
「まずはやる」
大事だよなぁ。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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