ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ八十五会社の中心となって働く私。なのに嫌がらせ続きの嗚呼無情

楽しくて、夢中で働いてはや7年。気がつけば会社の古参社員となり、中心として遮二無二(しゃにむに)働いてもいる。成果も出している。
けれども常に見合う待遇が与えられるとは限らないのが、この世の無情なところです。 今回のS本さんもまた、そうした無情さに打ちひしがれてしまった1人。 彼にいったい何があったのか。 そんな今回の体験談です。

実は社長から嫌がらせも受けてました

S本さんの勤める会社は、社員数10名弱の零細企業。けれども医療系の特定分野に特化する形で独自の強みを築いており、自社でパッケージ化したそのシステムは、7割という高い全国シェアを誇っていました。
ところがこの会社、社員が定着しないんです。どれぐらい定着しないかというと、毎年半数以上が入れ替わるくらいに定着しない。10名弱で半数が入れ替わるということなので、現場レベルの人間は毎年丸ごと総入れ替えになってると言っていいくらいに定着してない。
忙しいから? いえいえ(忙しいけどね)。
給料安い? いえいえ(安いんだけどね)。

「社長が、個人的に『ウマが合わない』と思った人間に対して、嫌がらせをして追い出すような形で退職させてしまうんです」
そう話すS本さん。
ある人は辞表を書くように強要されました。ある人は悔し涙を流しながら社を去っていきました。そして……。
「そして僕にも、その嫌がらせの順番が回ってきていたんです」
そう、かれこれ7年勤務して、古参社員として会社の中心人物になっていたS本さん。彼なしでは社員の給料が払えないとすら言われたこともあります。
しかしなぜか社長は、いつも彼に対して怒鳴り声で報いるのです。なんやかやと難癖つけては怒鳴る。経費の精算も断られ、他の人宛の苦情についてなぜか自分が叱責される。
はっきり言ってわけがわかりません。
そんな中、仕事は相変わらずS本さんにばかり集中していました。
どうしようもない徒労感。そして蓄積されていく疲労感。それらは、いつしかS本さんから「仕事への情熱」を奪い去っていったのでした。

無職生活2カ月目に湧き出づるもの

仕事への情熱が完全に0(ゼロ)になってしまったS本さんは、抱えていた仕事に区切りがつくタイミングを見計らって、社長に辞意を伝えました。
「ああ、そろそろだと思ってたよ」
返ってきたのはそれだけ。それが、この会社での「在籍年数トップ3」に入るS本さんにかけられた言葉のすべてでした。
一方で、仕事仲間からは温かい言葉と共に見送られ(彼らもまた、数年と待たずして後を追うことになるのですが)、S本さんは晴れて無職生活に突入することとなりました。しばらくは何もせずに、そのままのんびり過ごすつもりだったと言います。
「幸い、使う暇もなく仕事ばかりしていた7年間でそれなりに貯えはできていたので、1年ほどぶらぶらしていようかな~と」
ところが2カ月もすると、「プログラムを組みたい」という情熱が沸々(ふつふつ)と湧いてきたのだとか。
元々大好きだった仕事。ならばためらうことはありません。「どこに行ったってあの会社よりはマシだよ」とS本さんはハローワークに駆け込むと、プログラム言語などのスキルが合致する会社を1社見つけ出し、そのまま応募を済ませて……、1週間後にはその会社で働き始めていました。
「前の会社がひどすぎたので、あらゆることが“普通”というだけで、自分にとっては満足点でした」
その言葉を裏付けるように、その後もS本さんの仕事に対する情熱は尽きることがありませんでした。
今年で、転職してから8年が過ぎようとしています。
「転職した今が人生にとってプラスなのであれば、それまでの苦労もきっと報われたことに違いない」
彼は今、そんな風に思っているそうです。

オチの一コマ
本日の一句

ああ、この仕事が好きなんだなと、そんな思いがとにかく伝わってくる体験談でした。
これだけトンデモな目にあっていながら、2カ月後には沸々と情熱がよみがえってきたというのだから素晴らしい。いや、すさまじい。
ぜひともその爪のあかを……とか思っちゃったりするナマケモノな私なのでありました。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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