ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十三リーマンショックで大リストラ! 努力が水の泡で踏ん切れちゃったワタシの話

本連載、巻ノ六十六に登場したT中さん。地元へのUターン就職が頭にチラツキつつ社内教育に没頭していた彼の上に、ある日リーマンショックというアメリカ発の大不況が影を落としはじめました。
……が、どうやらこの不況。彼にとって悪いことをもたらすばかりではないらしい。それは何故か?
そんな今回の体験談です。

嗚呼、やるせない無力感

「貧乏くじを引いているな」
そう思いつつもT中さんがトレーニング業務から手を抜かなかったのは、それが将来に向けての投資だと思っていたからにほかなりません。会社の未来だって、「自分の職場」という意味での未来だって、そうやって育てた人材たちによって豊かになっていくんだと、そう思っていたからです。
「社員を大切にする会社」
そう掲げていた社のモットーが、T中さんにはすごくうつろに見えました。
せっかく育ってきた社員たちが皆いなくなってしまう無力感。そして、モットーとは真逆の状態にある社内環境。
「もう、ついていけない」
彼がそう思い至るのは、ごく自然のことだったと言えます。
アメリカ発の不況があって今の状態にあるわけですから、当然景気は最悪の時期。この景気で地元大分に帰っても、果たして仕事はあるのだろうか。そんな不安を強く抱きつつも、T中さんは「この会社に居続けることのデメリット」の方を強く感じました。
そして、彼は希望退職に応じる旨を人事に申し出たのでした。
「転職の方向性は『会社として余裕のある大手の電気/電子系』もしくは『地元の大分で何らかのエンジニア』という2本立てで臨むことにしました」
そう語るT中さんでありますが、不況の影響で前者はほとんど募集がなく、WEBサイトの連絡先を頼りに何社か直接電話交渉を試みるも失敗。早々に彼の道は「地元大分で就職」の方向へと絞られていったのであります……。

求人票で電話アタック

希望退職者募集の話が出る少し前に、T中さんはたまたま実家に帰省していました。
「その時に、なんとなくハローワークで気になる企業をチェックして求人票を持ち帰っていたんです」
勢い、彼の転職活動はその求人票が中心となることに決まりました。
T中さんが、それらの求人票に片っ端から電話連絡や履歴書の発送を行うと、うち1社が即座に返答をくれました。そのまま即試験。1次、2次面接と進んで、3週間と待たず採用の知らせを頂くことに。
結局T中さんは、希望退職者募集に手を挙げて、1カ月後の退職日を迎える前に、首尾良く次の職場を確保することに成功したわけです。
「採用の決め手は、在職中に『ソフトウェア技術者』の資格を取っていたこと(これは人事担当の方から直接聞きました)と、退職理由からその会社を志望する理由までがハッキリ伝えられたことだと思っています」
実際それを裏付けるように、学科試験でT中さんは「やたらと国語能力が高い」という結果も出ていたそうです。
そして転職から半年が過ぎた今。
故郷大分に帰れたことで、まず喜ぶべきは両親のそばに居ることができること。若干残念なのが、新しい事を吸収するために活用していた大きな書店や技術フォーラムの類がなくなってしまったこと。転職に対する満足度を伺うと、T中さんからはそんな答えが返ってきました。
「でも、前の職場では『いつかは転職しないと……』という気持ちがいつも頭の片隅にあったんですが、今は解放された気分です」
不況を前向きに捉えたT中さん。どうやら「長く勤められる」会社に、たどり着くことができた模様なのでした。

オチの一コマ
本日の一句

前回の体験談を読んだ時は、「節目節目で結果を出して、次の切り分けができる人」という印象を持ったわけですが、それは今回も同様でした。
常に考えてる人だと思うのです。だから自分のなかにちゃんと理由がある。だから虚飾を必要としない。
今回の転職で勝因となった「自分の思いを伝えること」は、そうした常日頃の姿勢がにじみ出た結果なんだろうなと思います。
ところで不況というのもマイナスばかりではないですよね。不況だからこそ考えられる事柄というのも、さまざまあるものだと思います。
私は、自分が社会に出るタイミングが不況だったことに感謝してる身だったりするので、そういう意味でも、今回の話は色々共感しながら読むことができました。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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