ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十七「お茶目な会社」で七転八倒、入社2年目で転職でした

社員の待遇というものは、法に則って決められるもの。……とは思いたいのですが、「本当にこれって適法か?」という行いを押し通そうとする会社があることは否定できません。
今回のK川さん、あんまりな措置に対抗して労働基準監督署(労基署)に駆け込みはしたのですが、心身ともにダウンして退職を選ぶことになりました。
果たして彼になにがあったのか。そんな今回の体験談です。

ペーペーをリーダーにしちゃう、そんな「お茶目な会社」でしたとさ

そもそもK川さんが所属していたこの会社。研修方法からして、かなり独特なものだったそうです。
「会社側が用意したカリキュラムを終えるまでは社員として認められないので、給料、交通費など一切なしでした」とK川さん。
その結果、彼は入社してから5カ月間、完全に無給状態で働いていたのだといいます。彼の初任給は秋、その時の嬉しさは今でも忘れられないのだとか。そりゃそうですよね、無給だったんだもの……。
入社5カ月目を終え、ようやく社員として認められるようになったK川さんを待っていたのは、「じゃあ、次はキミがそこのプロジェクトのリーダーだから」というお達しでした。
研修期間中に彼のインストラクターだった先輩が「リーダー経験初めてです」と担当、ボーボーと炎上させて、それを引き継いだベテランSEさまが病の床に伏すこととなった実に腐臭漂うプロジェクト。そこに、「無給状態の研修を終えたばかりで、ようやくの初任給にむせび泣くK川さんが超大抜擢」となったわけですね。
すみません、なんか私すごくもらい泣きしてきまして涙でディスプレーが見えません。
ちなみにこの会社、「残業代はあらかじめ大部分が基本給に含まれる」という決まりだったようです。……ただただ合掌です(チーン)。

苦労した思い出と、それが生きない悔しさと

普通に考えると、月の稼働日数は平均して約20日。1日8時間労働なら月の稼働は160時間となる計算です。
K川さんの稼働時間は340時間を超えていました。残業代? いやほらそれは基本給に含まれていますからゲホンゴホン。
プロジェクトのメンバーは全員が同期たち。つまり新入社員たち。ボーボーメラメラ炎上するプロジェクトは、悲痛な叫びをなんとか前向きなヤケクソパワーに変換して、さながら学園祭前日のような賑わいで、若さと体力だけを頼りになんとか乗り切った……そんな彼らを待っていたのが冒頭の漫画なのでした。
……かける言葉も見つかりません。
さて、そこでK川さんは同期たちとともに労基署へ駆け込みました。しかし心身ともに無理をしてきたうえにこの仕打ちです。ガクッと疲れのこないはずもありません。
ほどなく彼はインフルエンザを患います。これで最後の気力体力を削り取られた格好になった彼は、そのまま退職の道を選ぶことに決めたのでした。
「つたない仕事ではあるけれど、必死にプロジェクトを終わらせたのに、その努力への報酬がたった10万円の退職金と、『会社都合退職』にチェックが入ったハローワークへの申請書だけだなんて……」
あまりにやりきれない思いにとらわれて、K川さんはそれから2カ月間、なにもする気が起きませんでした。

春が終わって夏が来て、ようやくK川さんは転職活動を開始しました。……とは言うものの、どこへ応募しても書類選考で落とされてばかり、一番悔しかったのが彼の経験に対する市場の評価です。
「あれだけ苦労したプロジェクトなのに、経験として何の役にも立ちやしない……」
しかし、そこでK川さんは開き直りました。
「自分は何も知らないので、いろいろ教えてください!」
転職活動開始カら2カ月後の9月。面接にこぎつけた会社で、彼はそう主張しました。
これが、「自分を誇張しない正直な人間だ、彼は信用できる」という評価につながりました。そして無事、内定ゲット。

K川さんの新しい職場は、社員数15名という小さな会社です。しかしそこでは彼のスキル不足を認識してくれたうえで、「必要な経験と教育を施す」という方針のもと、厳しくも温かい指導を行ってくれるのだとか。
もうまもなく入社から半年。
かつてあった「5カ月の無給期間と実を結ばない経験」とは違い、今のK川さんは、自身でも強く成長を感じることができる、そんな毎日を送っているそうです。

オチの一コマ
本日の一句

あまりにも理不尽な待遇の数々と、その後に待っていたであろう大きな落胆。そこで挫折せずにまた働く現場へと舞い戻ってきたK川さんに、つくづく拍手拍手の気持ちです。
パチパチパチ。
あまりにあまりな仕打ちだったので、それだけに「自分は何も知らない」と認めるのは心が痛かったのではないかと思います。
だからこそ、新しい職場で経験を積み、ご自身が胸を張って「私はこれができます!」と言える日が早く来ることを、今は願ってやみません。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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