ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十八19歳で社会に出て6年、「職歴なしね」と扱われ……

正社員として働く予定が、なぜかアルバイトとして働き続けるハメになった5年間。
でも、その5年の仕事を通してN岸さんは、さまざまなことを学びました。たくさん頑張ったはずでした。
しかし世の中、自分の頑張りが必ずしも認めてもらえるものとは限らない……。
そんなせつない、今回の体験談です。

試用期間後に正社員……の約束だったんです

N岸さんが最初に勤めた音楽制作会社には、本来は「正社員」として入社したはずでした。試用期間後に正社員採用という約束だったのです。
しかし「実は最初からアルバイトしか雇うつもりはなかった」とだまされたことを後で彼女は知ることになります。それでも舞い込んでくる仕事は有名アーティストに関わるものばかり。当時19歳だった彼女には、「だまされた」「正社員になりたい」という気持ちよりも好奇心の方が勝りました。
ものすごい薄給と、家に帰れない暮らし。でも、さまざまなことを勉強しました。ライブ会場のセッティングからバンドのマネジメント、事務処理にルータの扱い、社内PCの設定もろもろ……と、本当に色んなことを学びました。
「自分の順応性や忍耐力は、ここで養われたと思っています」とN岸さん。
しかし5年続けても待遇はアルバイトのまま。家にも帰れないのに、仕事とは関係のない「アーティストのペットの世話」なんかもやらなきゃいけない暮らし。
「もうイヤだ! 落ち着いて働けて、そこそこお金がもらえるならなんでもいい!」
いよいよ耐えきれなくなった彼女は、知人の紹介で派遣会社に登録。すぐに損保系生命保険会社の営業店勤務が決まりました。保険の設計書作成や、パンフレットの送付、代理店や契約者との電話応対が主な仕事です。
「土日休めるのに、前より何万円も多くお金がもらえるなんて……」
うれしい反面、複雑な感情を抱かずにはいられない、N岸さんでありました。

何か手に職を付けたい!正社員になりたい!

毎日繰り返されるルーチンワーク。そして噂話や服装・持ち物の話にばかりやたらとご執心な給湯室系OLたちばかりの環境……。
そんな中N岸さんは、なるべく周囲に染まらないようにと地道にこつこつと仕事をしていました。その甲斐(かい)あってか、特にPC系のスキルで営業畑の社員さんたちに重宝されるようになりました……が、
「1年経つころにはルーチンワークに飽き飽きしました。年齢的な焦りもありましたし、何か手に職を付けて正社員になりたいと思うようになっていて……」
そう考えたN岸さんは退職を決意。職場の上司からは「居ないと困る。でも、正社員を目指すというのは良いことだし、あなたならできると思う」とのありがたい言葉をいただいて円満退社。そこから、SI企業の正社員を目指す彼女の転職活動がはじまりまして……待っていたのは冒頭の4コマ漫画なのでした。
50社ほどに応募しますがことごとく書類選考でNG。理由はどれもこれも「社会人経験がほとんどないため」というものでした。
「必死に働いてきた自負があったので、これは本当に悔しかったです」
そんな折り、彼女の父親が倒れました。もともとN岸さん宅は裕福な家庭ではなかったため、とにかくすぐ働かなくてはなりません。
そこへ、初心者からのネットワークエンジニア育成や派遣を行っている会社から、「某社委託の通信建設会社への紹介予定派遣(正社員として就業する前に派遣社員として一定期間就業する形態)」の採用通知が舞い込みます。
CCNA取得の勉強をしながら働くという内容面を見ても、おそらくは社内ネットワークの保守あたり。N岸さんは、この話にすぐさま飛びつきました。

入社後、彼女はすぐに作業着を着せられて、頭にはヘルメット。バケット車という高所作業用の車を運転する免許を取らされて、電柱に登って光ケーブルやメタルケーブルをつなぐ現場作業。
確かに光ケーブルも「ネットワーク」には違いないけれど……と。
その研修は、彼女の想像していた「インフラ」よりも、もっと下層にあたる「超インフラ」作業でした。
「今は研修も終わり、某社局内員として光ケーブルの接続状態や品質チェックの試験担当をしています」
そして時々は現場の工事手伝いにも狩り出されたりするのだとか。外へ出ることは気晴らしにはなるのだけど、確かに「ネットワーク」なんだけど、でもなんか違う。
入社から10カ月が過ぎる今でも、微妙に納得がいっていないN岸さんなのでありました。

オチの一コマ
本日の一句

正社員になれた喜びと同時に、なんとも不安を覚えてしまう体験談でした。
この会社が「本当はとても苦しいのだけど、彼女の意気に応じてなんとか雇用を確保してくれた」結果の悪待遇(かつ、いずれ改善の予定)ならば良いのですが、1社目と同じようなことになりかねないのであれば要注意と、声を大にしたいところです。
実は彼女自身、勤務条件に対する不安を投稿文に付け加えてあったんですよね。なので大丈夫だとは思いますが、この扱いに悪い意味で慣れてしまうことなく、「身に付けるものを身に付けたらさっさと次へ行く」くらいの心構えで、ずぶとく世を渡っていただきたいなと、そう思うのでありました。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

著書紹介

キタミ式イラストIT塾「ITパスポート試験」 平成22年度キタミ式イラストIT塾
「ITパスポート試験」 平成22年度

出版社:技術評論社
定価:¥2,079(税込)
http://www.amazon.co.jp/dp/4774142026

★このコーナーが本になりました!

SE・エンジニアの本当にあった怖い転職話SE・エンジニアの
本当にあった怖い転職話

出版社: 毎日コミュニケーションズ
定価:1,470円(税込)

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

勤務地を選ぶ

職種を選ぶ