ITエンジニアコラム:きたみりゅうじのエンジニア転職百景

巻ノ九十九「顧客のために!」の願いむなしく、ならばと飛び出た新人時代

仕事にかける思いは人それぞれ。「こんな仕事がしたい」「こんな風に役立ちたい」などなど、いろんな思いを込めて、人は会社を選ぶものです。
今回のN浜さんもそうでした。
しかし入社後に待っていたのは、まったく正反対の現実で……。
こんな会社もあるのねと涙が隠せない、そんなブラックな今回の体験談です。

黒い名簿と黒い営業方針と……

N浜さんが行う「個人向けの投資営業」とは、新規に顧客を開拓するための電話営業というものでした。電話番号は、いわゆる「名簿屋さん」から購入します。自腹です。
安いものだと卒業名簿。高いものだと自宅住所や電話番号だけでなく、勤務先の住所電話番号まですべて入ったものもあるのだそうな。
「ニュース等で情報漏洩の話を聞くと、こういう名簿屋さんに流れるんだろうな~といつも思ってしまいます」とN浜さん。
そんな黒い香りのする営業ツールと電話を使って、せっせと働くのはたいてい朝の7時から夜の23時まで。サービス残業満載で、時給にすると500~600円という生活でした。
「でも、なんでも話のできる先輩がいて、人間関係はかなり良かったです」
23時に仕事が終わると、そのまま先輩と飲みに出て家に帰るのが夜中の3時過ぎ。そしてまた朝の7時には出社して……。
「我ながらよくやってたなぁと感心してしまいます」
そんな案配だったので、長い拘束時間、安い給料、それはなんだかんだと我慢できたのです。
でも、「顧客にはむしろ損をさせろ」という営業方針だけは納得するわけにいきませんでした。
入社から半年。いつしか彼はすっかりこの業界に失望して、退職の意志を申し出ることにしたのでした。

退職前の地獄期間

離職率がものすごく高い職場だったため、「辞めます」というN浜さんの声は抵抗なく受け止められました。
しかし途端に会社からは、かなり冷遇されるようになったと言います。
「特に退職の半月前からは地獄のような毎日でした。朝から晩まで飛び込み営業を指示されて、『結果が出ねぇと辞めさせねぇぞ!!』と床に頭をたたきつけられたりとか。大口新規を取ってきても、『こんだけじゃ話にならん!!』とか言って蹴られたりとか」
そんな渦中にあっては、転職活動など当然できるはずもありません。本来の希望とは違いますが、転職活動は退職後に故郷福島へ戻るまでお預けです。
やがて無事退職することができて、福島に帰ったN浜さん。彼が転職活動をしようと駆け込んだのは、出身大学の就職指導課でした。
「離職前に一度(在学時お世話になっていた)教授に転職活動の相談をしたところ、卒業後1年も経っていないので、就職指導課に行ってみたらどうかと言われまして」
結果としてこれが大成功。受けた会社は1社だけ。4カ月後にはすんなりN浜さんの新しい職場が決まっていました。その間、特に苦労らしき苦労もなかったそうです。
地元勤務にこだわったりしなかったので、それがかなり大きなポイントだったと思います。福島の中でもド田舎の方なので、地元にこだわっちゃうと案件自体なかなかないでしょうから」
新しい仕事はSE職。地元では有名な(でも全国的には知名度のない)中堅企業でした。

N浜さんが転職して8年が過ぎました。この転職によって、彼は時間的な余裕をかなり持てるようになったそうです。
「おかげで結婚もして、かわいい子供も授かりました。ようやく人並みの生活を送れるようになったという感じです」
ただ、これで満足かというとそんなこともないそうな。
「もう8年ですが、給料が安い。月に30~40時間ほど残業すれば残業代でそこそこいい金額になるんですが、それがない月は苦しいです」
しかし同時に、こうも言います。
「仕事も(今は特に)何かと大変です。でもこの仕事は、顧客からの感謝の言葉が嬉しくてたまりません」
あの時N浜さんが信じた「やり甲斐」。今の職場において、それは間違いなく彼に力を与えてくれるものであるようです。

オチの一コマ
本日の一句

私は自分の職業を選ぶ時に、「将来自分が子供を持った時に、胸を張って『パパの仕事はこれだよ』と言えない仕事はしちゃいけない」というのを最低限のルールとしていました。
N浜さんのように新卒後1年も経たないうちに退職を決めるというのは、かなり勇気のいる選択だったと想像します。その背中を押したのは、きっと彼のなかにもあるであろう「最低限のルール」を侵してしまった会社だったから……なんだろうなぁと思うわけです。
今の仕事を誇りにできる感が伝わってきて、最後にうれしくなる体験談でした。
ただ……。早く給料安いの解消されるといいですね。きたみアイコン

著者プロフィール

自画像きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。あまりになんでもありでほとほと疲れ果てたので、他社に転職。その会社も半年であっさりつぶれ、移籍先でウィンドウズのパッケージソフト開発に従事するという流浪生活を送る。本業のかたわらウェブ上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
遅筆ながらも自身のサイト上にて、4コマまんがは現在も連載中。
http://www.kitajirushi.jp/

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