第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.6ミュージシャン My Little Lover/akko
歌えるだけでうれしかった
Heroes File Vol.6
掲載日:2009/7/31
1995年、シングル「Man&Woman/My Painting」でデビュー。以来、数多くの質の高いポップスを生み出してきたMy Little Lover。現在は、ソロプロジェクトとして精力的に活動を続けるakkoさんに、何度か活動を休止しながらも、どうしても辞められなかった音楽への思いをうかがった。
Profile
まい・りとる・らばー/あっこ 1995年5月、シングル「Man & Woman/My Painting」でデビュー。「Hello, Again ~昔からある場所~」「ALICE」など、数多くのヒット曲を世に送り出す。2006年からソロプロジェクトとして音楽活動をスタートした。8月5日にニューシングル「blue sky」をリリース。
大学時代は人の歌を聴き無我夢中で勉強
のびやかで、キラキラと輝きに満ちた歌声が印象的だ。My Little Lover(マイラバ)のボーカル、akkoさん。
意外にも高校時代は新体操の選手を目指していたという。しかし「周りの人のレベルが高すぎて自分には無理」と思い、途中で音楽大学志望へ方向転換した。5歳からピアノを習っていたし、歌うのが好きだったからだ。とはいえ、音大を目指すにはスタートが遅すぎる。そこからは1年半猛勉強。ピアノを毎日2、3時間練習し、歌のレッスンにも通った。一浪覚悟だったが、努力のかいあって国立音楽大学に現役で合格した。
「でも、受験用の勉強をしただけで自分にはクラシック音楽の土台がないという気持ちが強く、大学に入ってからもかなり勉強しました。いろんな人の伴奏をすることで、さまざまな歌声、歌い方を学びましたね」。同じ曲でも演奏者が異なると全く違う表情になる。教授によって音楽への解釈が全然違う。そんな一つひとつが新鮮でおもしろく、ますます音楽が好きになった。
卒業後すぐに「マイラバ」まさに就職した感じ
就職活動が始まった頃、「ジャズダンスも習っていたので、歌と踊りができるからミュージカルはどうだろう?と、一度オーディションを受けたことがあります。歌と踊りの試験は合格したんですが、芝居の試験になると急に照れてしまい全くダメ(笑い)」。ミュージカルは向いていないかもと悩んでいた矢先、知人から紹介されたのが音楽プロデューサー・小林武史さんだった。
「オーディションで私の声を気に入ってくれ、そのまま卒業と同時にマイラバのメンバーとして音楽活動が始まりました。まさにそれが私にとっての就職でした」。そしてデビュー曲「Man&Woman」が大ヒットし、その年に出したファーストアルバムはミリオンセールスを記録した。
「あの頃、私自身は本当に何も分からず、レコーディングスタジオへ入るだけでワクワクし、歌えるだけでうれしかった。目の前の楽しくてたまらないことに、ひたすら食いついていく、そんな感じでしたね」
その後、小林さんと結婚、20代で2人の娘の母となった。育児のため何度か休業を繰り返しながらも活動は続けた。しかし、実は音楽を辞めようと悩んだことも。2004年から2年半のブランクとなった頃だ。
「休業状態が長く、いっそのことこのままもう辞めようと思い、いろいろ別のことをやってみたんです。でも、結果的にそれが本当にやりたいのは音楽なんだという気持ちの再確認になりました」。akkoさんは小林さんにマイラバの活動再開を相談。すると「僕は忙しくて難しいから、ソロプロジェクトでやってみたら」と。不安はあったが、新たな扉を開けるチャンスかもしれない、ソロでやってみたいと素直に思った。
「やらずに後悔はしたくなかったし、思い切って挑戦してみようと。尊敬する芸術家・岡本太郎さんのように、緩やかな道と険しい道があったら、険しい道を選びたい。大変かも知れないけれど、それを乗り越えた時に素晴らしい景色が見られると信じているから」。06年7月、akkoさんはソロで新生マイラバを始動した。まずはアルバムを制作するという形で。
チャンスは作れるはず
再始動する時、akkoさんが尊敬するある女性がこう言った。「あなたは、大切にしていた音楽を一度捨てようとした。でも、再び手に入れたことでどれだけ自分にとって大切だったか分かったはず。だから、音楽はあなたにとって一生ものになる」。確かにその通りと思い、もう迷わないと心に誓った。
アルバム制作においても、楽曲セレクト、アレンジの方向性、ジャケットのデザイン、プロモーションビデオなどすべてakkoさんが担当。また、全曲、作詞も手がけるようになった。「歌詞を書くことは、自分と向き合わないとできない。でも、それをむしろ楽しんでいる。自分の表現したいこと、伝えたいことは今まで以上にクリアになっている気がします。音楽はそもそも、とてもポジティブなものですよね。どんなにつらいことがあっても、それを乗り越えていくきっかけを作ってくれる時があるから。作っている時でさえ、そんな強いエネルギーを感じることが多々あります」
今は、もっと柔軟な心で、いろんなものを受け入れて、自分という人間の膨らみを増やしていきたい。そして、それを曲作りにも反映できたらと。そのためにジャンルを問わず、映画、舞台、環境、社会問題など、様々なことにアンテナを張っている。「興味があることは更に深く掘り下げるよう心がけています。いろいろな世界を知れば知るほど、視野が広くなると同時に自分の悩みも小さく思えるんです。生きているといいことばかりじゃなくて、つらいことも多く、くじけそうな時も当然ある。私もそんな時はしっかりくじけます(笑い)。でも、たとえ落ち込んでも必ず立ち直れる。そう信じているんです」
人間にはそれだけの力が備わっているからと言う。「極端かもしれないけれど、世界のどこかで戦争や飢餓で苦しんでいる子どもたちのことを考えたら、豊かな日本でちょっと失敗したって、やり直すチャンスは作れるはず。不況なので一概には言えませんが、大変な環境にいる子どもたちだって、いずれはしっかり立ち上がって、元気になれるだけの生命力を持っていると、そう強く信じているところがあります」
子どもたちが強さを与えてくれる
akkoさんの発する言葉は力強い。なぜそんなにポジティブなのか。「それは、私がママだからかも。ママである私がしっかり前を向いて歩かないと、子どもたちが路頭に迷ってしまうという意識が強くあります。でも、もともと笑う門には福来(きた)ると思っているし、転んでもただでは起きない性格なんです(笑い)。そういう根っこの部分は、以前よりも強固になっている気がします」
最近は、アコースティックライブにも力を入れている。今は心底、音楽に携わる日々がいとおしいし、感謝している。「例えば、何げなくすっと耳に入ってきた音楽が、鳥肌が立つような感動を与えてくれることがあるでしょう。この仕事では、それを自ら表現者として曲を作りながら体験できる。作曲やライブなどを通し、自分から音楽を発信しながら、同時にいろんなものを吸収できます。魅力的な仕事だとつくづく思う」
自分がしたいと思った瞬間、その気持ちに素直に従い行動してきた。つらいことでも乗り越えられると信じている。だから、彼女は強い。これからも新しい扉を開き続けていく人だ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
音大出身なので、誰かの伴奏をしていたり、ピアノの先生になったりなど、何かしら音楽関連の仕事に携わっていたと思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
河合隼雄さんの『日本人とアイデンティティ』。もともと人間の心理に興味があるのですが、この本をきっかけに心理学への関心がより深まりました。河合隼雄さんの著書はほかにも数多く読んでいます。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
うーん。ないですね(笑い)。そうやって頑張ろうとするとヘンに気負ってダメになってしまうので、あえて何もしないようにしています。ただ、ライブ直前、急に腹筋をやり出すことはありますが。
Infomation
My Little Lover
New Single「blue sky」
8月5日発売
2009年第2弾シングル「blue sky」は、ミディアムアップなナンバーに、清涼感溢れるakkoさんの歌声が気持ちいい、実に夏らしい1曲。ミネラルウォーター「DANONE BODY-ism」のCMソングでもある。歌詞の中に「八百万の神」という言葉が出てくる。以前からakkoさんが気になっていた言葉なのだそう。「日本神話にまつわる美しい表現。ものには神が宿っているとイメージしたら、みんなが安心できるし、いろいろなことを大切にできると思う。そんな思いをこめて作り、歌っています」とakkoさん。歌詞も要チェック。
公式サイト http://www.mylittlelover.jp/
「blue sky」
CD+DVD:定価/¥1,890(税込み)
CD:定価/¥1,050(税込み)
発売元/OORONG RECORDS