第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.16女優 藤原紀香
ハードルは高い方がいい
Heroes File Vol.16
掲載日:2009/12/18
小さいころから歌が好き。遠足のバスでは自らマイクを持ってピンク・レディーや中森明菜の曲を歌って踊った。卒業式では誰に頼まれたわけでもないのに、「学園天国」の替え歌を作り、衣装も作り、同級生たちに披露した。友だちは「アホやなあ、あんたは」と言いながら笑ってくれた。みんなの喜ぶ顔が見たくて、そのためなら何でもやった。その気持ちは今でも全く変わらないという。女優、藤原紀香さんに話をうかがった。
Profile
ふじわら・のりか 兵庫県生まれ。神戸親和女子大学文学部英米文学科卒。1992年に第24回ミス日本グランプリに輝きデビュー。以後、数々の人気ドラマ、映画、CMなどに出演する。日韓親善大使、日本赤十字広報特使などの国際ボランティア活動にも尽力。12月10日には新刊『紀香バディ!2 リ・アル』(講談社)を発売。2010年1月7日(木)からミュージカル「キャバレー」(日生劇場)に主演する。大阪、名古屋、北九州公演あり。
丸裸の自分をさらけ出し人間力と覚悟をフルに使う
2009年1月、藤原紀香さんは舞台「ドロウジー・シャペロン」に主演、初めてミュージカルに挑戦した。舞台役者でもハードだからとミュージカルを敬遠する人がいるが、彼女はすっかり虜(とりこ)になってしまった。
「心も体もフルに使って、歌いながら感情を表現するミュージカルは確かにハード。服を着ていても、頭の先から爪(つめ)の先まで丸裸の自分を見られている緊張感もあります。相当な人間力と覚悟がいると思ったけれど、だからこそ楽しい。目の前でお客さんが喜んでくれるのが何より励みになりました」
そして来年1月、舞台「キャバレー」に主演、歌姫サリー・ボウルズ役で再びミュージカルに挑戦する。
実はこの話のオファーがあったとき、10月からの連続ドラマ「ギネ 産婦人科の女たち」の主演が決まっていた。ドラマの収録と舞台の準備期間が見事に重なってしまう。だが、自ら「どちらも全力でやり遂げてみせるから」と出演の決意をする。
「ずっと歌姫の役をやりたかったんです。『キャバレー』は世界中で上演され、多くの人に愛されている作品。自由奔放に恋愛に生きながらも、時代に翻弄(ほんろう)されるサリーという女性を演じられるのは、女優冥利(みょうり)に尽きる。こんな幸せはないと思いました」
もともとハードルが高ければ高いほど燃える性格。前回の舞台「ドロウジー~」でも、アクロバティックな演技やパワーのいる曲目などに「はたして私にできるのだろうか」と不安はあった。実際、演出家の要求は難題ばかりだったが、そのお陰で心に火がつき、大きな壁を乗り越えられた。「今回も自分の心をフレキシブルにして、けいこに臨んでいます。本番では観客の皆さんをあっと驚かせたいですね」
役をとことん調べることで「伝えたい思い」が込み上げてくる
役が決まるとその人物や職業について調べ上げ、実際に携わっている人の話を聞く。
「すると、役作りを超えて社会が抱えている問題に突き当たるんです。私自身の視点で得た事実、感じたことを受けとめると、伝えたいメッセージがはっきり見えてきます」
たとえば、前述のドラマ「ギネ~」では産婦人科医の役作りのため、事前に普段は見ることのできない帝王切開手術に立ち会い、産科医療の現場を徹底取材した。
「過酷な産婦人科医の労働環境、医療制度の現状を目の当たりにし、何としてもドラマで伝えなければと思いました」
10年前に初主演したドラマ「ナオミ」で演じた破天荒な教師役。それを見ていたという女性から最近メールが届いた。「あんな熱血教師が本当にいてほしいと思って、私は教師になりました。将来のきっかけを作ってくれたことに感謝しています」と。
「この仕事の魅力は伝えたいことが作品を通して伝えることができて、社会や個人に対して何かしら役に立つようなきっかけになれること。女優の枠にとらわれず、メッセンジャーとして仕事をしていきたい」
02年にアフガニスタンを訪問して以来、カンボジア、東ティモール、バングラデシュ、ケニア、ベトナムなどを旅し、学校建設や教師のトレーニングなど、ライフワークで取り組む国際ボランティア活動もそんな思いから、もう7年近く続けている。
震災とボランティア活動が私の心を強くした
昔は、つらいことがあるとすぐへこみ、悶々(もんもん)と悩む性格だった。親の庇護に甘えていた。それが変わったのは阪神・淡路大震災で友人や親類の死を経験してから。
「つくづく生きていてなんぼと思わされました。どんなにつらくても、生きているんだから感謝だと。だからこそ努力し、やりたいことをやり遂げようと」
国際ボランティア活動を始めたのは、震災のころに得た教訓「現地でしかわからないことがある」「生き残ったこの命を何かの役に立てないと」と思ったことからだった。そして、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の影響も大きかったと言う。
「事件後、語学留学でお世話になっているニューヨークのホストファミリーを訪ねたら、その家のグランマが『仕返しして当然!』と言ったんです。どんなに優しい人でも、争いによって一瞬で人が変わったようになり、すさんだ気持ちが芽生えるのだと思いました。争いは憎しみしか生み出さない。私は現地に行ける仕事をしているんだし、実際に感じたことを日本の多くの人に伝えたいと思い、企画をテレビ局に自ら持ち込みアフガニスタンへ行ったんです」
その後カンボジア、東ティモール、バングラデシュなども訪れた。08年には日本赤十字広報特使としてバングラデシュでは救援物資配布に参加し、09年3月にはケニアを訪問し、妊産婦と乳幼児の死亡率が高い現況の取材と同時に巡回診療活動にもかかわった。そこでは、病院もなく死を覚悟してでも子供を産もうとする母親に会った。
「こうした活動も女優の仕事も、私の中ですべてがつながっているんです。どちらも『伝えたい』という思いから始まっているのだから。カンヌ国際映画祭でお会いしたアンジェリーナ・ジョリーさんも、カンボジアの大変な状況を見たらいてもたってもいられなくなって、国連に自分から電話したわ、と話していました。私も同じなんです」
世界へ目を向けるようになって自分の芯がぶれなくなった。失敗も未来への糧。いわれのないゴシップにもごちゃごちゃ語らない。そのため誤解を生むことも多いが、彼女は笑って答える。「いい女は何があっても笑顔でピース! 笑う門には福来(きた)るって、生前、祖母は口癖のように言っていました。生きているだけで感謝の世の中ですから」
1日の終わり~寝る前に今日の自分を褒めてあげる
すべてに全力投球をする人だ。「気を抜く時は抜いてますから大丈夫。次の日オフがあれば、女友達と飲んで、ああでもないこうでもないと語って、スッキリ(笑)」
最近、心のケアとして毎晩実践しているのは、夜寝る前に自分を褒めてあげること。
「『今日もよく頑張ったね。問題はすぐには解決しないかもしれないけど、少なくとも今日よりは明日のほうが前進していると思うよ』ってね。案外効き目がありますよ」
凜(りん)とした意志が自分の人生を貫いている。話をしていると、笑顔の向こうに秘めた情熱や思いがひしひしと伝わってくる。
「とにかく私は生きていて、大好きな仕事に就けているんだから、自分の中にあるどんな小さい可能性でも信じて、それを見つける努力をしようって思うんです」
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
考古学者の助手。「先生!」とか言いながら教授と一緒にエジプトやインカ帝国へ行き、調査したいと思っていました。世界史は高校で学びましたが、95点以下は取ったことがなかったです。かつて文明が栄えた場所へ行き、その匂いを感じたり探るのは昔から好き。余談ですが、小学生の頃、世界の文明について書かれた本の感想文で賞を取ったんですよ。
人生に影響を与えた本は何ですか?
「ホ・オポノポノの教え」(イハレアカラ・ヒューレン著)。この本は最近読みました。「ありがとう」「ごめんね」「許してね」「愛しています」という、たった4つの言葉を他人にも自分にも伝えることが大事であること、この4つの言葉を発することですべてがネガティブからポジティブに変わっていくことなど、心の持ち様を教わった本です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
元気のないときは、黄色やオレンジ色などのビタミンカラーや、赤などの明るく情熱的な色を着て、色から元気をもらったりします。
Infomation
2010年新春・日生劇場公演
ブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー」
1929年、ナチスドイツ台頭前夜の、退廃と享楽の文化都市ベルリンに生きる人々の愛と孤独を描くミュージカル。人気のキャバレー「キット・カット・クラブ」を舞台に、歌姫サリー・ボウルズとアメリカ人作家クリフ、下宿の女主人シュナイダーとユダヤ人の果物商シュルツの2組の恋が展開。1966年にブロードウェイで初演されて以来、数々の名演で観る者の心をつかんできた作品が日生劇場で上演される。主役・歌姫サリーを演じる藤原紀香さんは「戦争、差別、女性の性(さが)、男と女の価値観の違いなど、さまざまなメッセージを秘めた物語。女優として絶対にやりたいと思った役。私もワクワクしています。ぜひ観に来てください」と語る。
ブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー」
キャスト/藤原紀香、諸星和己、阿部力ほか
東京公演/2010年1月7日(木)~29日(金)
会場/日生劇場
問い合わせ/
ホリプロチケットセンター
03-3490-4949
ホリプロオンラインチケット
http://hpot.jp(携帯&PC)