第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.18ギタリスト 布袋寅泰
あえて人が進まない道を行く
Heroes File Vol.18
掲載日:2010/1/22
スラリとした長身に紳士的なスーツがよく似合う。伝説のロックバンドBOØWYのギタリストとしての鮮烈なデビュー以来、今日にいたるまで常にロックシーンのトップを走り続けている布袋寅泰さん。音楽もファッションも生き方もすべて自分が「これだ」と思うスタイルを貫く。まさに唯一無二のロックンローラーだ。
Profile
ほてい・ともやす 1962年群馬県生まれ。ロックバンドBOØWY解散後、アルバム「GUITARHYTHM」でソロデビュー。ヒット曲に「POISON」「スリル」「バンビーナ」など。プロデューサー、作詞・作曲家としてもミリオンヒットを記録。96年アトランタ五輪の閉会式でギターを演奏し、2003年にはクエンティン・タランティーノ監督の映画「KILL BILL」に楽曲提供するなど海外でも活躍。初の洋楽カバーアルバム「MODERN TIMES ROCK'N'ROLL」発売中。
少年時代に受けた衝撃が根源に今なお流れている
「ギターをガーンと鳴らした瞬間、飛び散ったガラスの破片が刺さるような痛さと同時に、ダイヤモンドのキラキラした輝きを感じた。その音の衝撃が離れなかった」
14歳の頃、勉強も運動もそこそこで夢中になれるものがなく、どこか冷めた少年だった。そんな布袋寅泰さんの心に火をつけたのがロックであり、ギターだった。
「デビッド・ボウイやT・レックスに代表されるグラムロックや、ピンク・フロイドのようなプログレッシブロックなど、ジャンルは関係なくあらゆる音楽を一遍に聴けた時代で、すごく恵まれていた。あの時のインパクト、衝撃がいまだに自分のクリエーティブの根源に流れています」
旧友、氷室京介さんに誘われ、ロックバンドBOØWYを結成。売れることよりも「日本一かっこいい」を目指すバンドだった。一気にスターダムにのし上がったイメージがあるが、世間に自分たちの音楽が受け入れられなかった期間は意外に長く、打ちのめされ、挫折を味わうことも多かった。
「数え切れないほどライブハウスをまわりました。その経験が自分の演奏スタイルの基本になったし、自信にもなりました」
1982年にメジャーデビュー。日本一という夢を果たしたBOØWYを解散後、布袋さんはギタリストとしてソロ活動を開始。その時には「次は世界」と思っていた。
「ただ、年齢と経験を重ねる中で、単に日本一、世界一といった言葉による目標だけでなく、自分の中での広がりみたいなものを求めるようになっていったし、だからこそ自分自身の力不足をはがゆく感じることも増えていった。こんなはずじゃない、こんなもんじゃないと思って、気づいたら30年近く過ぎてしまっていた感じです」
不器用さとあまのじゃくで個性際立つギタリストに
布袋さんは「自分は決して技巧派のギタリストではない」と語る。どちらかと言えば不器用。でも誰のまねもしなかった。影響を受けたギタリストはいたが、その人を目指すこともなかった。常に「俺(おれ)は俺になりたいと思っていた」からだ。
「身につけたテクニックを使いたくなるけれど、そこを抑え違うやり方を考えました。音やフレーズも、人がやらないほうを選んできた。性格があまのじゃくなんです」。結果的にはその性格が功を奏し、個性際立つギタリストとしての地位を不動にした。
20代は一心不乱に走り続けていた。自らを波瀾(はらん)万丈の海へ放り投げ、傷だらけになろうとするようなところもあった。がむしゃらで、無知ゆえに怖いものもなかった。
「逆に今は怖いものだらけ(笑)。でも、自信はある。だから何でも乗り越えられる。ギターだって20年前と比べたら切れ味も奥行きも格段の差があると思います。うまくなったとかそういうことではなく、経験の中でトレーニングされ、自分の音楽にも筋肉がついたんだと思います」
47歳の今、これまでの人生の航海の中で一番穏やかな状態だ。とはいえ「ゴールにたどり着いたつもりはない」。ここからさらに大きな波に向かっていく。その先は危ないと言われても、自分が選んだ方へ突き進む。そのスタンスは今も変わらない。
影響を受けたロックンロールと向き合うことで、自分自身の原点に
昨年、初の洋楽カバーアルバム「MODERN TIMES ROCK'N'ROLL」を出した。少年期に影響を受けた大御所たちのロックナンバーを、布袋色でアレンジした作品だ。
「ビートルズもチャック・ベリーも、何度弾いても飽きないし、逆に繰り返すことでどんどん奥行きを感じて広がっていく。シンプルだからもっと自在に自分色に染められるかと思いきや、そうはいかない手ごわさがあった。改めて名曲たちへのリスペクトを感じ、背筋が伸びる思いがしました」
ソロ活動の原点に「GUITARHYTHM」(ギタリズム)というアルバムがある。ギターとリズムを合わせた造語をキーワードに、大胆にコンピューターを取り入れ、それまで誰も聴いたことがないようなモダンでクールなロックンロールを目指した。このシリーズはⅠから始まりⅣでいったん終了していたが、昨年15年ぶりに復活させ「GUITARHYTHM Ⅴ」を発表した。
「以前はコンピューターも使い勝手が悪く、思い通りにいかないことが多かった。でも、そこから自分の音を探し出すのが無性に楽しかった。今は何でもできてしまうのが怖い。Ⅴを作る際も、テクノロジーに遊ばれないよう気をつけました。ツールとして扱わないと、装飾過多な音楽になってしまい、なぜこの曲が自分から出てきたのか、ベーシックで一番大事な部分から離れていってしまう恐れがありますからね」
だからこそ、洋楽カバーアルバムを製作する中で、テクノロジーをまとわない、スピリットむき出しの頃のロックンロールと向き合ったことは、自身のセラピーにもなったし、今後のアーティスト活動の道しるべになったと語る。
「例えばスリーコードってシンプルなのにすごい発明だと思いました。俳句と同じで一つのルールがあるからこそ無限性が生まれるのだと、改めて学びました」
若い人たちには超えられない壁でありたい
最近になり、BOØWYや布袋さんに影響を受けて育ったというミュージシャンに出会うことも増えてきた。しかし、彼らの手本になるつもりは本人には全くない。
「彼らに、何かメッセージを伝えたいと思ったら、それはやはり音楽でやるのがクールだと思っている。ただ、常に超えられない壁でありたいよね。鬱陶(うっとう)しいって思われるぐらいの刺激物であり続けたい」
だからといって、若い人に期待していないわけではない。BOØWYのように、日本のロックシーンを塗り替えるバンドの登場を心待ちにしているのも事実だ。
「その先の栄光にたどりつけるのは、結局自分を曲げなかった人だと思う。叩(たた)かれても自分の音楽を信じて、突き進んできてほしいですね。そのエネルギーこそが、ロックンロールらしさだと思うから」
デビューから間もなく30年。「波瀾万丈なワインディングロードを走り続けてきたような気がしていたが、今振り返ってみると思っていた以上に真っすぐな道だったようだ」と笑う。人生、案外そんなものかもしれない。だからこそ、自分が信じた道を行くのが賢明だ。布袋さんがそう教えてくれた。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
ヘアメイクの仕事ですね。結構昔から好きで、BOØWY時代も、メンバーのヘアメイクをしたりしていました。あとはファッションデザイナー、もしくは絵描き。いずれにしても、クリエイティブな仕事を目指していたと思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
ハンガリー生まれの作家、アゴタ・クリストフの「悪童日記」。戦時下、したたかに険しい道を生き抜く双子の少年たちの話です。ちょうどソロになって、自由にはなったけれど、孤独も味わっている時期に読んで影響を受けました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
「勝負魂」。ライブなど音楽の仕事も、遊びも旅行も人と一緒にいる時も常に本気でやってきた、魂を込めて。その自負はありますね。
Infomation
初の洋楽カバーアルバム発売中
「MODERN TIMES ROCK’N’ROLL」
Tレックス、チャック・ベリー、ロキシー・ミュージックなど、布袋さんが愛してやまないロックンロール黄金時代の名曲の数々をカバーした最新作。楽曲の魅力はもちろんのこと、ギタリスト&シンガーとしての布袋さんの希有な才能とセンスを再発見できる。「オリジナルアルバムとは違った布袋らしさを感じてもらえます。同世代は懐かしいと思うだろうし、布袋のギターは熱すぎてキツイと思っている50代、60代の先輩方にも『いよいよ布袋くんが僕らにも聴ける音楽をやってくれたな』とウエルカムしてもらえるはず。下の世代、邦楽を聴いて育ったロック・ファンにも楽しんでもらえると思います」(布袋さん)
定価/¥3,000(税込)
発売元/EMI Music Japan
※2008年10月、奈良・東大寺大仏殿前で行われた一夜限りのスペシャルライブと、2009年4月から6月にかけて行われた「GUITARHYTHM Ⅴ TOUR」のライブDVDを1パッケージに収めた「TIME AND SPACE」も好評発売中。