第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.32俳優 武田真治
求めるものは変化すべき
Heroes File Vol.32
掲載日:2010/8/6
1989年、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞し、翌年俳優デビュー。以後、ドラマ、映画、舞台に出演するほか、バラエティー番組「めちゃ2イケてるッ!」(フジテレビ系)にも出演。また、サックスプレーヤーとしても活躍している。俳優デビュー20年を迎えた武田真治さんに、仕事に対する思いの変化をうかがった。
Profile
たけだ・しんじ 1972年北海道生まれ。90年俳優デビュー。92年ドラマ「NIGHT HEAD」でブレークし、映画、ドラマ、舞台で活躍する他、サックス奏者として多くのアルバムに参加。8月3~29日に東京・世田谷パブリックシアターにて上演している舞台劇「ロックンロール」に出演。
舞台で自分を磨き上げる
今夏、取り組んでいる舞台劇「ロックンロール」は、「プラハの春」から始まるチェコ激動の時代を生き抜いた人々の物語。武田真治さんは、政治と自身の生き方との間で揺れる若者を演じている。
「リアリティーのある表現のためには、重厚な時代背景や、自由が当たり前の今との違いをしっかり把握しなくてはと思い、大学の先生からレクチャーも受けました」
セリフの意味を深読みし、考え込んでしまい、前に進めなくなることもある。しかし、共演の市村正親さんが「やっていくうちに分かることもあるんだから、とにかくセリフを口に出して一緒に練習しよう」と。その言葉を信じて、演出家と市村さんのペースに乗りながら、この芝居に没頭しているという。「舞台は、けいこ、本番と回を重ねるごとに作品も自分自身も磨き上がっていく。その感覚が好きですね」
実はかつて、舞台が嫌で敬遠していた時期もあった。「『身毒丸』という舞台が精神的に相当しんどかったんです。例えば目をつぶすシーンがあったのですが、指をちょっと曲げて本当につぶせない自分がすでに許せない。お客さんにうそをついている気がして、いたたまれなかったですね」
芝居や役作りがどういうものかも分からないし、何より自身の役の気持ちも理解できない。同時に心の奥底で人間としての権利を主張する自分もいる。うまく気持ちのバランスを保てず、その後9年、舞台から遠ざかっていた。
強くなれたのは「めちゃイケ」のお陰
武田さんの転機は2004年に出演した「夜叉ヶ池」という舞台だ。役者として身を削らなければいけないことと、そうでない部分の境目がようやく見えた。虚像の中で、リアリティーを追求することで真実が浮かび上がってくる。それがおもしろいとようやく感じられるようになった。
「その後出演した『エリザベート』というミュージカルでは死神の役。以前の僕なら絶対できないと思ったはず。でもこの時は自然に居直ることができたんです」
とにかくやってみよう、生きるためには居直りも大切だ。そう思えるようになったのは、バラエティー番組「めちゃ2イケてるッ!」のメンバーとずっと一緒に仕事してきたお陰だと武田さんはいう。「番組では、例えば誰かを傷つけても、得られる笑いの方が大きければそれが正解。もちろん誰も傷つけることなく笑いを取れる、スーパーゴールを決めるような瞬間もあるのですが」
彼らは笑いのためなら何だってやる。そのプロ魂がいつしか自身にも備わっていた。
サックスを吹くことはエネルギーを試される
高校時代、チェッカーズにあこがれたという武田真治さん。特に姉が好きだった藤井尚之さんに自身も惹(ひ)かれ、彼が担当していたサックスに夢中になった。芸能界への興味はサックスから始まっている。
「サックスは、自分が今持っているエネルギーを試される。そこが好きなんです。自分がダメな時は本当にしょぼい音しか出せませんからね」
だから俳優業の傍(かたわ)ら音楽活動もずっと続けている。
「ただ、デビューした頃、俳優で売れるとすぐ歌を出すという風潮があって。僕はそれに抵抗したくて、俳優、サックス、バラエティー番組を完全に切り離していました。芝居の現場ではサックスの話は一切しなかったし。マルチプレーヤーっていうのが好きではないんです」
それが、ミュージカルをやるようになり、自分の中で点と点だった芝居と音楽が自然に結びついていった。そこから新たに芽生えてくるものも感じられ、あえて別々に考える必要はないじゃないかと思えるようになった。
「20代の頃に比べると、ずいぶん柔軟に物事をとらえられるようになり、楽になった気がします。心身共に今が人生で一番健康かも。若い時の方がよかったと思えることは何一つないですね(笑)」
今の年齢になって精神的に余裕が出てきたこともあり、自分がこれまでやってこなかったことにももっと挑戦していきたいという。「例えばシェークスピア的な会話劇。登場人物がおしゃべりなことで不幸を招いているようでずっと避けてきた。でもそれは逃げでしかない。卓越したスキルが求められる芝居だからこそやってみなきゃと」
心身共にしなやかな俳優を目指す
若い頃は現実から目を背けていた。でもそれによって自分で自分を苦しめていた。
「現実をしっかり見て努力しないと、自分にはこれが必要だと思っているものが毎回同じで、全然前に進んでいなかったりする。現状を受け入れ、向き合わないといけない」
そんな武田さんが今目指しているのは、舞台で共演中の先輩俳優、市村正親さん。
「考え方がタフだし、役者としてしなやかな体力、表現力を備えていらっしゃる。誰に対しても真摯(しんし)な態度で接するところとか、すべての面で見習いたい方です」
言葉を選び、丁寧に答えてくれる。それでいて「向上心があるみたいに発言しがちで、いけませんね」と自分にダメ出ししたり、「20代との違い? ヒゲの形かな」と冗談を言って笑わせてくれたり。武田真治という俳優の最大の魅力が、この純真さなのだろう。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
コンピュータプログラマーとか、エンジニア。今、コンピュータで音楽を作っているのですが、それがとても楽しいので。
人生に影響を与えた本は何ですか?
「神との対話 宇宙を見つける自分を見つける」(ニール・ドナルド・ウォルシュ著)です。10年以上前に読みました。「神様とタメ口をきいていいんだよ」と言ってくれていて、そこがすてきだなと思いました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
サックスですね。僕が持っているスキルの中で一番キレ味がいいのがサックスですから。
Infomation
市村正親×秋山菜津子×武田真治「ロックンロール」
ロックは世界を変えられるのか!? 教授と教え子、20年の時を超える愛と友情の物語
1968年「プラハの春」から20年。イギリスとチェコ、激動の時代を生き抜いた2人の男、大学教授マックスと教え子ヤンの半生を軸に、時代に翻弄された人々の姿を描いた舞台劇。当時を象徴するシド・ヴァレットやローリング・ストーンズ、ピンク・フロイド、U2などの曲が大音量で流れ、ロックが歴史の転換期に果たした役割が、鮮やかに浮かび上がってくる。「まさにチェコにおける"幕末"を描いた作品です」と武田真治さん。
「ロックンロール」
公演/2010年8月3日(火)~8月29日(日)
会場/世田谷パブリックシアター
問い合わせ先/ホリプロチケットセンター TEL03-3490-4949
ホリプロオンラインチケット
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