第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.42俳優 中尾明慶
ヒット作を乗り越えてこそ
Heroes File Vol.42
掲載日:2011/1/7
「『WATER BOYS2』の頃は、同世代の女の子からファンレターをたくさんもらったんだけど、最近はやや減っているような。今、気づいてちょっとショック(笑)」そう言いながら、にっこり。少年のあどけなさの残る笑顔で人を惹きつける若手俳優、中尾明慶さんに、この世界へ入ったきっかけや、力を入れている舞台のことをうかがった。
Profile
なかお・あきよし 1988年東京都生まれ。2000年に子役でデビュー。ドラマ「3年B組金八先生」「GOOD LUCK!!」「WATER BOYS2」「ROOKIES」、舞台「奇跡の人」「カーディガン」など多数出演。1月16日(日)から舞台「ギルバート・グレイプ」(会場:東京グローブ座)に出演。
芝居のレッスンだけはさぼらなかった
屈託のないちゃめっ気たっぷりの笑顔とユーモア。陽気で、そばにいるだけで心が和む。現在、ドラマや映画で大活躍の俳優、中尾明慶さんだ。
「ちょっとやんちゃで元気な小学生」だった中尾さんが、芸能界に興味を持ったのは島田紳助さん司会の番組「オールスター感謝祭」がきっかけ。
「クイズに答えてゲームして賞金がもらえるなんて、楽しそうだしいいなあと思って(笑)。そう母親に話したら、タレントスクールに通ってみたらと勧められて。小学4年ごろから芝居、歌、ダンスのレッスンを受け始めました」
歌とダンスは苦痛だったが、芝居だけは何かが違った。
「芝居のレッスンだけはさぼらなかったし、他人の芝居を見るのも楽しかったですね」
同時に甘い世界ではないことも身に染みて分かってくる。
「オーディションを受けても落ちてばかりだったんです。こんなに僕が不合格続きだなんておかしい、もしかしてオーディションって形だけのものなんじゃないの?と、小学生ながら思ったりして、やさぐれた時期もありました(笑)」
そんな中、ようやく受かったのがドラマ「3年B組金八先生」だった。周りからは「10人の中からでも落ちるんだから、1千人以上受けるオーディションで受かるはずがない」と言われ、自身も「ダメもと」で受けた。その気負いのなさがよかったのかもしれない。
「それが中学1年の時。この『金八先生』がきっかけで、ドラマ『GOOD LUCK!!』の主演・木村拓哉さんの弟役に抜擢(ばってき)されたんです。その後は他のドラマにもちょくちょく出させてもらえるようになって。そう考えると、これまでの仕事のどれが欠けても今の自分はなかったんじゃないかなと思います。運と僕を引き上げてくれた周りの方々に本当に感謝しています」
大ヒットの後には必ず壁が現れる
中尾さんを一躍世間に知らしめた作品として、「WATER BOYS2」などの青春ドラマの存在は大きい。若い人たちに支持され、大ヒットした。
「こうした作品に巡り合えたのは本当に幸せなこと。でも、作品が大きければ大きいほど役柄のイメージが定着してしまうので、それをいかにぬぐい去るかが毎回、自分にとっての課題。イメージをぶっ壊して次の作品でまた新しい中尾明慶を見てもらうという、その繰り返しで成長させてもらっているんだとも思う」
これらの作品で、同世代の共演者から受けた刺激も大きかった。「何か一つでもいい、自分だけの強みを作りたい」。そう思って向かった先は舞台の世界だった。
不安定な自分を鍛えるため、舞台へ
初舞台は20歳。
「18歳のころ、先輩俳優の堤真一さんに言われたんです。覚えのいい若いうちに舞台に立って自分を磨いておけ、と。その言葉がずっと頭にありました。自分でも、演技も未熟で地に足がついていないという不安定さを感じていたので、役者としての芯の部分を作るためにいつか舞台をやりたいと思っていました」
舞台には映像のようなカット割りがない。それだけにそのまま役者としての力量が出てしまう。「そこが怖いけれど、同時に鍛えられる。1カ月以上もその役に関わるというのもすごく勉強になります」
年明けの初仕事も舞台だ。1993年に米国俳優ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの共演で話題となった映画『ギルバート・グレイプ』が舞台化され、中尾さんはギルバートの弟アーニーを演じる。知的障害を持つという役だけに難しさを感じているのでは。
「いや、どんな役も僕にとっては難しい。ディカプリオが演じたとか、知的障害だとか、実はあまり気にしていなくて。18歳の青年アーニーを舞台という空間でその瞬間いきいきと生きることができたらなって。それだけですね」
「褒められて伸びる」なんて信じない
以前、ある役者の先輩に「お前、ヒットはよく打つけど、ホームランがないよなあ」と言れたことがあるそうだ。
「ズキンとくる、かなりキツイひと言でした。でもその言葉は、まだまだお前、力出せるんじゃないのっていう激励で、僕の背中を押すためのものだと分かったので、真摯(しんし)に受け止めました。でもその上で、ちきしょう負けるもんかって燃えてくる(笑)。頑張ろうと思う。よく一般に、褒められて伸びるタイプって言ったりするけれど、僕だったら褒められた瞬間、達成した感じになって努力しなくなる気がするんだけど」
今は役者という仕事が一番好きだし楽しい。だから厳しいアドバイスもちゃんと受けとめるし、役者を続けるための最大限の努力もする。でも、同時にオフの時は仕事を忘れ徹底的に遊ぶという。
「一回きりの人生なんだから仕事も遊びも変にもったいぶらず、やりたいことがあるならすぐにやっちゃった方がいいと思っているので」
最後に今の夢を聞いてみた。すると、「(俳優の)佐藤健になりたい(笑)。ドラマ『ROOKIES』でも一緒だったのですが、同性から見ても爽やかに感じるし、かっこいいし」。そんなことを何のてらいもなくあっけらかんと話す中尾さんの素直さ、純朴さこそが、かっこいい。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
小さい頃になりたかったのは、ライフセーバーとかケーキ屋さん、パイロットでしたが、何でしょうねえ。今もそうですが、とにかく人と話すのが好きなので、何かしら人と接する仕事だとは思います。
人生に影響を与えた本は何ですか?
ヤンキーものとかの学園漫画が子どもの頃から大好き。とくに森田まさのりさんの「ろくでなしBLUES」かな。あの漫画を読んで、ちょっとやんちゃしたくなったし(笑)、ボクシングジムへも通い出しましたし。何より、友だちや仲間の大切さも教えてもらった気がします。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
長渕剛さんの曲。長渕さんの曲には男の優しさ、弱さ、強さすべてが詰まっていて、しかも迫力がある。舞台上演前など、やはりどうしても緊張することがあるのですが、そういう時には、気持ちを落ち着かせるためによく長渕さんの曲を聴いています。
Infomation
あの名作を世界で初めて舞台化
「ギルバート・グレイプ」
劇作家ピーター・ヘッジズの同名小説を原作として、ジョニー・デップ主演で話題になった映画「ギルバート・グレイプ」。この名作が世界で初めて舞台化される。主演は関ジャニ∞丸山隆平さん、また映画でレオナルド・ディカプリオが演じた知的障害の弟役を中尾明慶さんが演じる。「映画のリメイクではなく、あくまで原作小説をベースにしたオリジナル作品にする」と語るのは脚本・演出のG2さん。舞台ならではの演出に期待が高まる。
「ギルバート・グレイプ」
公演/2011年1月16日(日)~2月6日(日)
会場/東京グローブ座
公式サイト/http://www.g-g.mu
問い合わせ/東京グローブ座 03-3366-4020
※2月18日(金)~23日(水)大阪公演あり