第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.54ミュージシャン 河村隆一
怖いからこそ挑戦したい
Heroes File Vol.54
掲載日:2011/7/1
ロックバンドLUNA SEAのボーカルとしてデビュー。ソロ活動を開始してからも着実に楽曲を発表し続ける傍ら、映画や舞台への出演、小説の執筆など、多方面で活躍する河村隆一さん。可能性に挑み、新たな自分を切り拓き続けるそのパワーの源とは?
Profile
かわむら・りゅういち 1970年神奈川県生まれ。ロックバンドLUNA SEAのボーカリストとしてデビュー。1997年からソロ活動を開始。精力的に作品を発表し続けながら映画やミュージカルへの出演、執筆活動など多岐にわたって才能を発揮。2011年7月11日(月)からはミュージカル「嵐が丘」(東京公演会場:赤坂ACTシアター)に主演する。
経験の蓄積が自信につながる
2011年5月、河村隆一さんは日本武道館でライブを開催し、6時間半で104曲を歌い上げて見事ギネス世界記録に認定された。3年前にはソロデビュー10周年の日本武道館公演で4時間半にわたって71曲を歌った経験があり、その成功が今回の原動力となったという。
「ミュージシャンがこういう形で体力と表現力の限界に挑戦する場合、一歩間違えば自分の醜い部分を露呈し、失敗を世間にさらけ出すことにもなりかねない。まずその怖さはありましたね。でも試さないことには自分の限界は分からないので、挑戦しました」
前回の経験もあったので、正直楽勝だと思って最初から全力で歌ったという。ところが、ラスト20曲という辺りで声がかれてきてしまった。
「声って急激にかすれていくんです。前回そうなった時は声が途中で出なくなったらどうしようという恐怖に震えながら歌っていたのですが、今回は声がかすれていくのを感じながらも、この声をいかに維持し、歌い切ろうかと冷静に考えながらできました。恐怖心はありませんでした」
そこには、紛れもなく自信を胸にステージに立っている自分がいたという。
「スキルが進歩しているかどうかって、たぶん10年に一度実感できるかどうかだと思う。でも経験は記憶にしっかりと刻まれていきます。だから今回もステージで追い込まれつつ、LUNA SEAでワールドツアーを経験したじゃないか、マイクなしでもライブをやれているじゃないかと自分に言い聞かせることで頑張ることができた。今度新しいことに挑戦する時はきっと、104曲を歌い切った経験が自信となり僕を支えてくれるはずです」
挑戦するのは、いつも「新鮮」でいたいから
河村さんは、ロックバンドLUNA SEAのボーカルとして人気を博し、1997年からソロで活動を始めた。その際、圧倒的な支持を得ていたバンドのイメージを踏襲するかと思いきや、ソロで発表する曲はいずれもLUNA SEAの世界観からはかけ離れたものばかりだった。
「自分の得意技だからといってそれだけをやっていればいいというのは嫌なんです。怖さを伴わないことばかりやっている人間は傲慢(ごうまん)になり、お約束の詩を書いて曲を作って、というルーチンに陥ってしまう。それでは音楽に対して真摯(しんし)に向き合えない。そんな状況の方が僕には恐怖です」
河村さんにとって挑戦とは、大好きな音楽と馴れ合わないための手段であり、常に自身の気持ちに鮮度を持たせておくための「栄養」なのだという。
メジャーデビューを目指す過程も好きだった
幼い頃から自分の声が好きだった。他の子ども同様スポーツなどに興味を抱いたこともあったが、唯一飽きることがなかったのが音楽だった。
「一人っ子だし、両親が離別したのもあって一人で過ごす時間が長かったのですが、その時よく思ったのは、せっかくならワクワクする時間に長く身を置きたいということ。それが僕にとってはバンドの練習やライブなど、音楽にかかわっている時間でした」
高校を中退してバンド活動を開始し、LUNA SEAを結成。インディーズの時代がしばらく続き、その数年は収入もほとんどなくて物理的には一番大変な時期だったという。
「ただ、メジャーデビューを目指す途上にいることも嫌いじゃなかったです。とにかく自分たちの音楽とセンスを信じてアグレッシブに突き進んでいく感じって、今思い出しても痛快で楽しい」
振り返ってみて、LUNA SEAとしてこだわってよかったなと思うこと、それはすべてを自分たちで考え、決めて行動したことだったという。
「どうしたらお客さんが増えるのかとチラシの写真や文言も自ら考えていました。また、同じライブハウスで活躍する他のバンドの演奏もしっかりと観(み)て、どういうファンがその人たちのどこに惹(ひ)かれているのか、そしてそれを踏まえつつ自分たちが提示できることは何かを皆で話し合いましたね」
だからこそ、ライブで膨大な動員数を実現したり曲がヒットしたりした時も、「自分たちで勝ち取った」という手応えを味わうことができた。
「夢はおぼろげだとかなわない。ビジネス化するつもりで、どうしたらそこにたどり着けるのか、具体的な方法を考えることが大事だと思っています。僕だって音楽活動をビジネスにしたからこそ多くの人に自分の曲を聴いてもらえるし、日本武道館でライブもできるわけですから」
ミュージカルで新たな自分を開拓
2010年から、本格的にLUNA SEAが再始動。多忙を極める中、7月にはミュージカル「嵐が丘」に主演する。
「自分のフィールドを飛び出して、新たな人たちと出会い、そこで各分野のプロの方々と異種格闘技ができるのはとても刺激的です」。特に、シンプルな歌い方が求められるミュージカルなだけに中途半端なことはできない。その厳しさの中で河村さんはさらに自分を鍛えたいと考えている。
冷静に物事を見つめるビジネスセンスを持ち、どんな時でも自分をチャレンジの器に放り込むことも忘れない。そのバランス感覚こそが進化し続ける河村さんの武器なのだろう。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
まったく想像できないです。歌が自分にとって最も得意なものなので、それがなくなってしまったらうまく人生を歩いていけない、何だかそんな気がします。
人生に影響を与えた本は何ですか?
「ビッグ・オーとの出会い 続ぼくを探しに」(シェル・シルヴァスタイン著)という絵本。本屋が好きでよく行くのですが、10年ほど前に見つけて読みました。シンプルな話の中に、人生の歩き方のヒントがある1冊です。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
機械式時計。ここぞという勝負どきには、自分の気持ちを高めてくれる時計を選んで身につけていきます。
Infomation
河村隆一さん主演!
ミュージカル「嵐が丘」
愛するがゆえの復讐劇を描いた「嵐が丘」。映画や舞台など世界中で上演されてきたその名作を、今回、主演の河村隆一さんをはじめとする多彩なスタッフでミュージカル化。「ダブルキャストで2人のキャサリンがいることで、自分がその都度どう変化していくのかが楽しみ。自分自身を白紙にして、ヒースクリフになりきって歌いたいです」(河村隆一さん)。
「嵐が丘」
東京公演/2011年7月11日(月)~24日(日)
会場/赤坂ACTシアター
原作/エミリー・ブロンテ
演出/西川信廣
出演/河村隆一、平野綾/安倍なつみ、山崎育三郎他
問い合わせ/キョードー東京 0570-064-708
公式サイト/http://www.umegei.com/
※7月27日(水)~31日(日)に大阪公演あり