
第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.57俳優 柄本時生
真剣なウソの世界に惹(ひ)かれ
Heroes File Vol.57
掲載日:2011/8/19

NHKのドラマ「おひさま」で主人公の幼なじみ・タケオを演じる俳優・柄本時生さん。「あのドラマ、なぜか兄ちゃん(俳優・柄本佑さん)が出てるとよく思われていて、10年通うたこ焼き屋のおっちゃんにまで間違えられているからびっくり」そんなエピソードを屈託ない笑顔で楽しそうに話してくれる。一方で、仕事に対する強い責任感や、父・柄本明さんへの思いなどについても語ってくれた。
Profile
えもと・ときお 1989年東京都生まれ。2003年俳優デビュー。現在、ドラマ「おひさま」(NHK)にタケオ役で出演中。8月19日(金)から劇団東京乾電池35周年記念公演第2弾「そして誰もいなくなった」(会場:下北沢駅前劇場)、10月6日(木)から演劇ユニットmètro公演第4弾「引き際」(会場:赤坂RED/THEATER)への出演を予定している。
突然始まった俳優の仕事
母親があやまって洗濯し、バラバラになった千円札を、中学2年の頃からずっと財布に入れ、持ち歩いている。
「一文無しになって、絶体絶命のピンチに陥ったら使おうと思って。幸いにもまだ使わずに済んでいます(笑)」
独特の存在感で異彩を放っている俳優・柄本時生さん。父が柄本明さんで母が角替和枝さん、そして兄が柄本佑さんという俳優一家に育った。
「幼い頃は父の主宰する劇団東京乾電池の人たちに遊んでもらっていました。だから俳優という職業は確かに身近でしたが、なりたいと思ったことはなかったですね。当時の夢はプロ野球選手でしたし」
転機は千円札が洗濯された中学2年の年に訪れた。
「当初は兄ちゃん(佑さん)に声がかかったオーディションだったのですが、小学生の役だったのでさすがに高2の兄ちゃんには無理だろうとなり、僕に話が回ってきたんです」
そこで見事合格して出演したのが、デビュー作となった映画『すべり台』だ。最初は撮影が嫌でたまらなかったが、現場へ足を運ぶうちに次第におもしろくなっていったという。
「みんなでものづくりをしている感じが楽しくて。映画やドラマって虚像というかウソの世界じゃないですか。そのウソをみんなで必死になって作り上げようとする感じが好きですね。それと楽しい大人が多いのも魅力でした」
職業を聞かれても今も「俳優」とは言えない

その後、映画『俺たちに明日はないッス』などで主演を務め、話題作にも数多く出演。作品ごとに強い印象を残し、着実に俳優の道を駆け上がっている。にもかかわらず、職業を聞かれたとき、本人は「俳優」とは言いにくいようだ。「まだまだ不安だし、怖いんです。今は運よく仕事が続いているからいいんですが、仕事の依頼がなければ一瞬にして職を無くすわけですから」。何より「僕の職業は俳優です」なんて恥ずかしくて言えないという気持ちも強い。
「誰それ?って言われたらちょっと嫌だし(笑)。それと、確かに俳優は一般の仕事とは違うけれど、かといって特別なことをしているつもりはないんです。多くの人と同じように朝起きて現場へ行って働いているにすぎなくて。だから社会人の自覚はあるのですが」
セリフをきっちり覚えていく理由も、柄本さんにとってははっきりしている。「だって汗をかいて準備しているスタッフに、自分のせいで迷惑をかけるわけにはいきません」
肩書にとらわれず、まずは仕事は仕事として取り組む姿勢を大切にしたい。「それもまだ十分にできてはいないのですが」。言葉の端々にどこか若き職人風情の漂う人である。
芝居で「欲」は見せたくない
柄本時生さんは俳優デビューして9年目。それなりに自身の成長を感じながらも「昔の方がもっと純粋に取り組んでいたような気もします。最近は余計なことを考えてしまうからいけない」と言う。
セリフを言っている瞬間は集中しているが、ちょっとした隙に「あ、ポケットに手を入れちゃった」「今、かっこよく映っているな」と邪念が頭の中をよぎることがある。
「街で『かっこよかったですよ』と声をかけられたらめちゃくちゃうれしいですが、『かっこよく映りたい』と思いながら演じていたら、それはすごく恥ずかしいこと。でも、気づくとお金が欲しい、こんなふうに見られたいという欲が、年齢と共に以前よりも強くなっている自分がいて」
そんなよこしまな気持ちが少なくとも芝居では出ないようにしたい。何も考えず、その場に立って、ただセリフを言えるようになりたい。
「そうできるようになったら、ようやく自分のことを俳優だと言えるような気がします」
最近では舞台の仕事も増え、2011年10月には「引き際」への出演が決まっている。
「映画の撮影なら、裸になったとしても、現場だと見ているのは家族同然のスタッフなど関係者だけ。でも舞台は違う。その瞬間、あからさまに生身の自分を他人に見られるわけです。それこそ欲を出したら途端に自分の浅さを見破られる。まさに舞台はそんな人のまなざしを再確認する場で怖いのですが、いつかその怖さをも楽しめるようになりたいですね」
父親の引き出しからそっと盗みつつ

俳優の大先輩でもある父・柄本明さんからアドバイスをもらうことはほとんどない。ただ、父親以上に尊敬する人はいないと柄本さんは言う。
「まあ、ずっと背中を見てきましたから。そばで何かと聞き耳も立てていたし(笑)、どうしたってモノマネになっているところもあると思う。僕が何かをする際、父親の引き出しを勝手に使わせてもらっているというか。でも演じているのは僕だから、そこから自分なりのものになって出てくればいいかなと思う」
両親が役者だからという気負いはない。親の七光りと言われても「そうですよ」と言える余裕が柄本さんにはある。
「きっかけはどうであれ、自分で決めたことなので、とにかく余計なことを考えず、一生懸命やっていきたい」
その結果、この仕事がずっと続いていくならそれで十分だと柄本さんは思っている。「あとは女の子にモテたいくらいで(笑)」
ごく普通の21歳の感性。それこそが彼独自の持ち味につながっている。
ヒーローへの3つの質問

現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
宮大工。釘を使わずに物を作るなんてすごい。かっこいいです。
人生に影響を与えた本は何ですか?
本ではなく映画なのですが、深川栄洋監督の「半分の月がのぼる空」。この映画を観た時、何だか救われた気持ちになれました。こういう映画に興味があります。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
正直なところ、「今日こそ勝負だ!」って特別に思う日というのはないんです。なので自分の場合は、変に気合いを入れないこと、かもしれませんね。
Infomation
柄本時生さん出演!
演劇ユニットmètro 公演第4弾「引き際」
海から流れてくる、海獣のとてつもない異臭が原因でゴーストタウンと化したとある田舎町。その港町のスナックで働く鈴子の元には様々な男たちが訪ねてくるが、ある時スナックのロッカーから死体が発見された。困惑する男たちを尻目に高笑いする鈴子。彼女には隠している驚愕の過去があったのだった……。
演劇ユニットmètroの公演第4弾。作・演出の天願大介さんが「我々は今、分かれ道に立っている。だからこそ引き際について考えたい」との思いから書き上げた完全オリジナル作品。
「引き際」
公演/2011年10月6日(木)~13日(木)
会場/赤坂RED/THEATER
作・演出/天願大介
出演/若松武史、柄本時生、鴇巣直樹、月船さらら、村上淳
問い合わせ/ジェイ.クリップ03-3352-1616
公式サイト/http://www.metro2008.jp